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君の魔力とレグスセンス  作者: 告井 凪
第2章 レグスセンス
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1「不思議な呼び出しとキャロの予感」


「はふ~~……落ち着く~……」


 いつもの隠し部屋、ソファで僕の膝に頭を乗せるキャロ。溶けるようなだらけた顔で僕に甘えていた。

 森の中のスザン・エルテリスの石碑に触れてから数日経ったけど、あの時聞こえた声についてはなにも話してくれない。ただカリィヌやロアイには秘密にして欲しいとだけ言われた。

 ちなみに二人からなにがあったのかしつこく問いただされ、ダークウルフの件だけ話した。その事後処理のため学園に帰るのが遅くなったと。実は二人ともダークウルフの亡骸を見たらしく、それで僕らを心配していたらしい。僕らは心配させたことを謝り、お礼もしっかりした。


 話を戻そう。石碑のことだ。

 あの声、普通に考えればスザン・エルテリスが旅立ちの時にした誰かとの会話だ。石碑には魔術が組まれているという話だったし、会話を残しておくような高度な魔術があったのかもしれない。

 しかしあれが旅立ちの会話だったとして、相手は誰だったんだろう。男の人のようだった。それと、平和に暮らすことはできないってどういう意味……?


「ヨルム、こないだの石碑のこと考えてるでしょ」

「えっ……う、うん。よくわかるね」

「まぁねー。ふう……ごめんね、ヨルム。正直に言うと、私もまだ整理がついてなくてさ」

「そうだったの?」

「うん。それで話題に出せなくて。でもおそらくヨルムの思っている通りだよ。あの声は間違いなくスザン・エルテリス。彼女は魔術の天才、400年もの間保つことのできる魔術を石碑に残したんだ。そして、その役割をきちんと果たした」

「役割ってあの声のこと? 果たしたって……どうしてキャロと僕に?」

「もちろん、私が古代人だからだよ」


 ドキッとした。本当にしか聞こえない声、タイミングだった。古代人だからという台詞は何度も聞いてきたけど、いままでで一番説得力があった。

 ……古代人のことはともかくとしても、石碑については謎がまだまだ残っている。どうして僕にも声が聞こえたのか。ガレッドには聞こえなかったのか。いやそれどころか石碑は光っていないと言っていた。彼は僕のすぐ後ろにいて、そこまで離れていたわけでもないのに。


「ヨルム……私は知るべきなの? この国の始まりを――どんな想いで彼らが……」

「キャロ……?」


 だけどそこで、キャロが目を見開く。僕も気付いた。外からバタバタと誰かが駆けてくる音が聞こえた。



「キャロ、ヨルム。いるかしら?」


 隠し扉を操作し、開いたドアから飛び込んできたのはカリィヌだった。この時にはもうキャロは身体を起こしていて、僕の隣で姿勢良く座っていた。


「今日は来るのが早いねカリィヌ」

「普通だと思うわよ? いえ、それよりも。二人とも先生がお呼びですわ」

「先生が? 私は心当たりないね」

「キャロは魔法のレイル先生ですわ。職員室に来て欲しいそうよ」

「……わかった。でも珍しいな、レイル先生の呼び出しなんて。しかも放課後に」


 レイル先生はちょっと気の弱い感じの男の先生だ。生徒を呼び出すのなんて初めて聞いたかもしれない。


「わたくしも理由はわかりませんわ。それからヨルム、あなたはロント先生よ。第1魔法実技場に来て欲しいとのことですわ」

「え、魔法実技場? なんで?」


 ロント先生は武術の達人。主に剣の指導をしてくれる年配の男の先生だ。この先生の放課後の呼び出しというのも聞いたことがないが、さらにそれが魔法の実技場というのが不思議だった。


「言われてみれば確かに変ね。でもこれもレイル先生の言づてですわ。間違いないと思うわよ」


 カリィヌはロント先生から直接言われたわけではないらしい。レイル先生の聞き間違いじゃなければいいけど……。とにかく言われた通り魔法実技場に行くしかない。


「確かに伝えましたわ。まったく、どうしてわたくしがこんなことを……。今日は忙しいというのに」

「カリィヌもなにか用事があるのかい?」

「そうですわ。今日は我が家に城からお客様がいらっしゃると連絡があったのよ。おかげで急遽晩餐会ですわ。すぐに帰らないといけないのよ」

「そう……」

「そっか。忙しいのに伝えに来てくれてありがとう、カリィヌ」

「構いませんわ。というわけで今日は解散ね。ロアイには伝えられませんけど」

「では書き置きを残しておこう。なにもないといつもの場所に向かってしまうからね」


 確かに、先日のようにキャロとカリィヌの勝負のために外に出たと思われてしまう。今日は解散したと、簡単な説明を書き残して僕たち三人は部屋を出る。


「それでは、わたしくはこれで」


 カリィヌは急ぎ足で去っていった。本当に時間がないようだ。彼女の背中が見えなくなると、


「ヨルム。……気を付けて。ちょっと嫌な予感がする」

「え? ……うん」


 気を付けるって……先生の呼び出しなのに、なにを気を付ければいいんだろう。

 僕は少し困惑しながら手を振って、キャロと別れた。



 ロント先生の待つ第1魔法実技場はここから離れている。僕も急いだ方がいい。

 ……でもやっぱり不思議だった。剣術の先生の呼び出しがどうして魔法の実技場なんだろう? ここの近くにある第1武術訓練場ならわかる。やっぱりレイル先生の間違いな気がしてきた。もしいなかったら武術訓練場に行ってみよう。


「あれ? ヨルムくん一人?」

「あ……ロアイ」


 魔法実技場へと歩き出してすぐに、ばったりロアイと鉢合わせた。でもこれは都合がいい。


「ちょうどよかった。今日はもう解散になったよ」

「そうなの!? 珍しいね」

「うん。僕とキャロがそれぞれ先生に呼ばれてるんだ。カリィヌも家の用事で早く帰らないといけないって」

「へぇ、重なるもんだね」

「部屋に書き置きを残しておいたんだけど、直接話せてよかったよ」

「だね、わたしも運がよかったよ。ヨルムくん、先生のところに行く前に――」


「ほう――こんなところで出くわすとはな」


 その声にハッとして僕らが振り返ると、そこには――。


「はっはっは! いいぞ、驚いているな。封印王国リカッドリア第3王子フォスト・リカッド様が声をかけてやったのだ、当然の反応だな!」


 ――自己紹介せずにはいられない王子様が、腕を組んでふんぞり返っていた。



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