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君の魔力とレグスセンス  作者: 告井 凪
第1章 エルテリス学園
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2「ふとももに宿りし魔力とカリィヌ・トゥエン」


 僕はキャロのふとももに触れることで彼女の魔力を超増幅させることができる。

 キャロはこの能力を「ふとももに宿りし魔力・レグスセンス」と名付けた。そのネーミングセンスはともかく、名前はあった方が便利なので「レグスセンス」と呼んでいる。

 もちろんこの能力のことは誰にも秘密だ。もし知られてしまったら僕はどうなってしまうのか見当もつかなかったし、極力秘密にするようにとキャロにも言われている。

 しかしこの能力、実はキャロ専用というわけではなかった。いまのところ他に二人しか試していないけど、ふとももに触れることで魔力を増幅できてしまった。もしかしたら誰の魔力でも上げられるのかもしれない。

 現在、レグスセンスの秘密を知る人物はキャロとその二人。両方とも女の子だ。


 一人は同じ学年の生徒、ロアイ・ホクト。

 あれは中等部の3学年に上がってすぐのことだった。廊下の角で勢いよく走って来たロアイとぶつかり倒れた拍子にふとももに触れてしまった。それでレグスセンスが発動してしまいバレた。

 偶然触れてしまうというトラブルにはとても気を付けていたし、そうじゃなくてもふとももに触れる機会なんてそうそうあるわけがないと思っていた。なのに、そんな冗談のようなトラブルが起こってしまった。

 とにかくその後、キャロを交えてロアイにきちんと説明すると、彼女は秘密を守ると約束してくれた。……定期的にレグスセンスで魔力を増幅することを条件に。


 そしてもう一人、カリィヌ・トゥエン。彼女も僕らと同学年だ。そして――。



「待たせたわねキャロ・テンリ。さあ勝負ですわ!」


 放課後、学園内のとある一室でキャロと一緒にくつろいでいると、大声をあげながら彼女、カリィヌが入ってきた。

 長い赤髪のポニーテールを炎のように揺らし、腰に手を当て不敵に笑ってキャロを見下ろす。

 ちなみにキャロはつい先ほどまで僕の膝枕でだらけていたのだけど、いまはピシッと姿勢良く座っている。

 キャロは小さくため息をついて、


「……懲りないな、あなたも」

「なによその態度。この部屋を提供してあげたのはわたくしよ? ヨルム、勝負の前にお茶が飲みたいわ」

「はいはい……待ってね」


 僕は予め用意しておいたカリィヌの分のお茶を入れる。

 学園内にあるこの一室。実は生徒たちの知らない隠し部屋になっていた。広さは教室の半分ほどだけど、ロアイも含めた僕ら四人しか利用しないので十分な広さだ。魔法に関する本が収まった書棚とテーブル、椅子、ソファだけの質素な部屋に、カリィヌが絨毯を敷きティーセットを持ち込んだ。

 ここがなんのための部屋なのか。それはこの部屋の存在を教えてくれた彼女、カリィヌ・トゥエンに答えがある。


「あなたたちもっとわたくしを敬いなさい? わたしくはこの学園の経営者トゥエン家の長女よ?」

「創立者はスザン・エルテリスと聞いているが?」

「400年もの間学園を運営してきたのはトゥエン家ですわ!」


 僕たちが通うレーゼン東部地区エルテリス学園は創立者と経営者が違う。キャロが言ったスザン・エルテリスという女性が創立者だ。

 この話は有名で、封印王国リカッドリアの成り立ちにも関わる話なのだけど――いまは割愛しよう。

 とにかくカリィヌは学園の経営者の娘で、親からこの部屋のことを聞かされたらしい。自由に使っていいと。つまりここはトゥエン家の人間が代々個人で使ってきた部屋なのだ。


 僕がテーブルにお茶を入れたカップを置くと、カリィヌは姿勢良く椅子に座って一口飲む。


「ふぅ……さすがにヨルムもお茶を入れるのが上手くなりましたわね」

「ありがとう」


 この部屋は中等部の頃から使っていて、もう何度もお茶を入れさせられている。カリィヌから何度もダメ出しがあったおかげで褒めてもらえるくらいにはなった。


「お茶を飲んだらいつもの場所で勝負ですわ、キャロ」

「しょうがないな……」


 キャロに勝負勝負と言っていることからわかるように、カリィヌはキャロをライバル視している。魔法の成績はずっとキャロが1位でカリィヌが2位。そこが気に入らないのだ。

 実はレグスセンスのことを話すことになった理由もそこにある。以前からライバル視していた彼女はキャロに何度も勝負を挑んだ。キャロはそれを断り続けていたが……ついに根負けした。しかもキャロの方からレグスセンスの話をし、勝負を受ける代わりにこの能力を秘密にして欲しいと言い出した。どうしてわざわざ教えたんだろうとこの時は不思議に思った。

 レグスセンスを使い増幅されたキャロの魔力を見てカリィヌは困惑し、しかもヨルムにふとももを触れさせるという行為に混乱、最初は勝負が成立しなかった。

 しかし次の日にはカリィヌも覚悟を決め、僕の能力を受け入れた。自分もふとももを晒して魔力を増幅させてキャロと勝負をすることにしたのだ。

 もっとも最初の頃は増幅された魔力を扱いきれず勝負にならなかったけど――一ヶ月もすると暴れ馬のような魔力をしっかり使いこなしてみせた。さすがはキャロに次ぐ魔法の実力者だ。

 その後この部屋を用意してくれたり、秘密を守るために色々考えてくれたり(その最中にロアイにバレてかなり叱られた)、なんだかんだで僕らの世話を焼いてくれるのが彼女、カリィヌ・トゥエンだ。


「さあ行くわよ。今日こそわたくしが勝ちますわ」

「全力で迎え撃とう」


 ちなみに戦績はキャロの全勝。カリィヌはそれでも挑んでくる。

 そんなカリィヌに、キャロはこっそり口元に笑みを浮かべる。彼女には見えないように。僕には見えるように。

 あの時カリィヌにレグスセンスを教えたのはこういう理由なんだなって、いまは思う。


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