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5 -ベグ、未知との遭遇-


 不動の女王がパンクしている…

授業も終わり、斜め前方に座るバブルの後ろ姿をベグは心配げに見つめていた。


 授業中にやたら騒いでいたが、大丈夫だろうか。何をしても動じない、常に無表情の、あのバブル・ジーがあんな放心状態になるなんて…やっぱり、この学園は普通じゃない。僕の中で焦りが増していく。



「マノムちゃんかわいいねぇ」

「ビジョンフリーゼ、私好きなんだよね〜」

「リンゴあるけど食べる?」


 後方で女子生徒がマノムを囲んでいた。そのオーディエンスに応えるかのように、マノムは上目遣いをし、舌をペロっとだす。あいつ、もう犬としての愛嬌を駆使している。マノムは僕の視線に気づき、こちらを見た。そして、自身を取り巻くこの状況を僕に自慢するかのように、フッと一瞬意地悪い顔を見せる。


ーーまんざらでもない顔してんじゃねーよ


 僕はそんな強い想いを込めて、彼を見つめ返した。まったく、憎たらしい。そんな憎悪の炎を燃やしていた時、誰かに肩を叩かれた。僕は振り向く。


「ベグ君だよね。僕は佐藤はじめ。君とはルームメイトなんだ。よろしく」


 僕は彼によろしく、と答えた。佐藤はじめという人間は、なんだかこれといった特徴のない、ごく普通の男子生徒だった。それよりも僕は彼の肩上が気になってしょうがない。


「私はリカっていうの。よろしく」


 喋った。人形かと思った。僕は驚きのあまり目を見開く。リカは、佐藤はじめの肩上にちょこんと座っているのだ。きっとリンゴ3つ分の大きさしかない。彼女は人間か?顔も体のバランスから考えると大きすぎてマスコットのようだし、なによりも体全体が小さすぎる。今までの学習からも、体験からも全くもって信じられなかった。


「なにレディをじっと見てんのよ。分かるよ、驚いてんでしょ。安心して、こんなんでも私はれっきとした人間だから」


 リカは強い剣幕でそう言い放った。佐藤はじめが、まぁまぁ落ち着いて、と彼女をなだめる。

 その瞬間、僕に名案が浮かんだ。やはり、人間の欲が尽きない限り、僕たちが失敗することはない。


「わかってるよ。ただリカさんは今の自分に満足しているのかなぁって思って。普通の人間くらいの大きさになりたいとか思わないの?」


 僕は出来るだけ穏やかに言った。僕なら助けになれる、という雰囲気を残すのが、本音を引き出すコツだ。佐藤はじめもリカも僕の言葉を聞いて黙りこくった。

 いいぞ、自分の欲に早く気づけ。人間は誰しもコンプレックスの1つや2つ抱えている。それを治したいと思うのは当たり前の感情だ。それに、彼女がもし本当に人間であるならば、これは彼女にとって大きな悩みの種であるはずだ。彼女はあまりにも普通の人間像とかけ離れている。

 

「初対面で見た目について、とやかく言うとか、失礼すぎ。それ直した方がいいよ。それに()()気にしてないから大丈夫。心配してくれてありがとう」


 ーー気にしてない?

リカはより一層強い剣幕で言った。僕は失礼とか言われた事よりも、彼女が自分の容姿を気にしていないと言ったことが予想外の事すぎて面を食らっていた。大人ならまだしも、思春期の人間でないか。容姿のことくらい皆気にするはずだ。


「ごめんね。リカちゃん言い方が直球なところがあって…」


 佐藤はじめが申し訳なさそうに、頭を掻く。


「君は?君は、何か悩み事とかないの」


 僕は必死になって彼のもう片方の肩を掴んだ。佐藤はじめは驚いた様子を見せ、少し考え、そして、特にないかなぁ、と言った。ありえない。そんなのはありえない!


 僕は思わず後退る。すると、誰かにぶつかってしまったみたいで、謝りながら後ろを向く。


「あー、大丈夫大丈夫。気にせんでー」


 そう言った男子生徒は、へのへのもへじの仮面着けていた。ひぃぃ、なんだこれは。こんな仮面を常用する人間がいるなんて僕は聞いてない。知らない。


 どこかに欲にまみれた普通の人間がいるはずだ。こんな変な連中ばかりの学園など、あってたまるか!よろめきながら、僕は教室の外に飛び出した。


 廊下では孔雀が一羽で散歩していた。僕はそれを見るなり、視界がぼけだし、そんな時間がたたないうちに視界は完全な暗闇となった。


 

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