53 -天使のお誘い-
「お疲れ様〜!今日も大変だったね!」
おもちちゃんの明るい声が食堂に響く。その声が耳に入ったのか、おばさんたちも心なしかにっこり微笑みながら、退勤していった。
僕たちも早速退勤しようとしていた時であった。
「そういえば、今週末に美食部で野外研究会するんだけど一緒に来る〜?」
おもちちゃんの周りにはまるで花が舞っているようだ。マスコットのような可愛らしさが彼女には漂っている。疲れた体が浄化されるような癒し効果がおもちちゃんにはあった。
そんなふやけた頭で考えたせいだろうか。僕は即座に「うん、行く」と答えた。これだって、ビジネスのきっかけになるかもしれない。そう考えると悪い話には全く思えなかった。きっとバブルは僕に判断を委ねると分かっていたし、これは正答例だと僕は思っていた。
しかし、これが混乱の旅路になろうとは誰も想像し得なかったのだ……。
「じゃあ、決まりだね!わたし楽しみ!」
おもちちゃんはにこやかな笑みをこちらに向けた。
追っかけの目線が険しいが、まぁ僕らは気にしなくていいだろう。
――そういえば、野外研究会ってどこに行くんだろう。
僕がそう考えている間に、バブルもあの追っかけ3人組も食堂から姿を消していた。
――あ、まずい。
察したその時はもう手遅れであった。
「ベグ君、よかったらこれ味見してみてくれない?」
目の前に出された皿に載った物体は異様な匂いを放っていた。
「ねぇ、これなに?」
「ドリアン漬けサバ煮〜ポルチーニ茸を添えて〜だよ!」
おもちちゃんの目は純真爛漫に輝いていた。その悪意のない目からも僕はひと口だけでも絶対に食べなきゃいけないという事実を突きつけられていたのであった。




