52 -食堂のアイドル-
ミンミンゼミの合唱が聞こえる。
ここはやさしい悪魔部。
いつもの3人はというと、並んで正座をしていた。
「あっれ〜〜、あれだけ格好つけて出てったくせにぃ〜、1日で終わらせるどころかもう既に2ヶ月が経とうとしているんですけど〜」
1列に並ぶ3人の前には、デヴィ学園長が映像として空中に映り出されていた。3人が所持する黒い交信機器がプロジェクター代わりになっている。
「それに加えて、成果はまさかの10年とちょっと……。そして、ルールを破った所を先生方に目撃されるという悪魔としてあるまじき失態……」
学園長は我慢ならない様子でニタニタと笑みを浮かべている。
僕はごくりと息を呑んだ。きっと他の2人だって、こればっかりは緊張で身を固くせざるおえないはずだ。当初の予定よりかなり遅れを取っていることは事実なのだ。
太ももの上に置いた拳にぎゅっと力を込める。言い訳などできない。純粋に自らの力不足を思い知る。
「ちょっと喝を入れる必要がありそうね〜」
「決ーめたっ!2週間の間、仕送りなしっ!自分たちで働いて食べていきなさい。じゃ〜ね〜」
ブチッ。一方的に通話が切られる。
路頭に迷う飼い猫はこんな心持ちになるのだろうか。
――――
「はい!まごころを込めてかき混ぜるように!そうすることでより一層美味しくなるからねぇ」
食堂のおばさんの熱い指導が耳に入る。
そんな精神論で本当に味が変わるのだろうか。ベグ・ハーロップこと僕はげんなりした様子で大鍋をかき混ぜていた。
あれから僕たち3人は学生食堂の厨房アルバイトをして、なんとか生計を立てている。(いや、3人じゃない。マノムの奴、犬であるから衛生面的に無理とか言って今頃お昼寝してるぞ、絶対。)しかし、その体育会系を彷彿とさせる熱血な指導とお昼時の混雑に僕たち2人の気力は徐々に吸われていった。
「ベグ君!もうちょい肘張って〜!あともうちょいだから、一緒に頑張ろ〜」
そう僕に声をかけるのは1年紅組、尾道もち。通称おもちちゃん。美食部の部長で、厨房の手伝いをしている。
おもちちゃんはその小柄でふくよかな体型から醸し出される可愛さとのどかさも相まって、食堂のアイドルと化していた。確かに彼女に笑いかけられたら、つられて笑ってしまうような魅力がおもちちゃんにはある。
ちなみに美食部の残りの面子はおもちちゃんの追っかけであるらしい。
おもちちゃんに声をかけられている間、残りの部員の視線が背中に突き刺さっていた。




