51 -深夜の会話-
僕たち――僕とマノム。佐藤はじめとへのもへ。そして白波光は女子生徒陣に別れを告げ、寮の男子生徒フロアを静かに歩いていた。エレベーターを使うなと先生に別れ際言われたので、大人しく階段を上っている。
あの後、前川先生の怒号を全員で受け、罰として反省文ではなく、1週間の朝清掃を命じられた。
まったく、反省文であったら速攻で終わらせられるのに……。
「年に1回の機会をふいにするなど、貴様、やはり悪魔だな」
白波光は本当に機嫌を損ねているようで、口を尖らせ、ねちねちとした目で僕を見る。
「それが事実なら、この2人も悪魔ってことになるけど」
僕は後ろを歩くへのもへと佐藤はじめを指す。2人もなんかしら話しているようだった。
「……それに年に1回とか言ってないで、いつでもリベンジすれば良いじゃん」
「我が部の伝統を無闇に弄るわけにはいかない。くっ……幽霊さえいなければ」
――あの仕掛けはどう考えても人間の仕業だろ。
階段が傾斜へと変化した、あの瞬間を思い出す。幽霊があそこまで直接的に妨害できるわけがない。まぁ、そう正直に言うのも癪だから、心に留めるまでにしておこう。
「去年は全ての階段に油が塗られていたんだ……だから今年はスパイクを履いてきたのに……」
聞き取れるすれすれの音量でぼやいている。こんなにも救いようのない阿呆の将来が思いやられる。
僕たちの部屋がある3階に辿り着く。へのもへと白波光は4階であるようだ。数時間後の清掃でまた顔を合わせることになるが、僕たちはひとまず別れの言葉を告げた。
「流石に上の奴らはもう寝たか」
口からこぼれ落ちたその独り言は、上階で談笑する男子生徒を思い出しての言葉であった。もう丑三つ時をも過ぎる深い夜だからか、寮は静寂に包まれている。
「……上の奴らとは何だ?」
階段を1、2段上がった白波光はこちらを振り向く。それにつられ残りの2人も足を止める。
「あ、いや、いつも夜更かしすると4階で騒いでる生徒がいたなって……」
白波光はすっとすまし顔になり、
「そんな奴はいないぞ」
「毎晩修行してから部屋に戻るが、そんな奴は見たことない」
と言った。
4人の間を冷たい風が通り過ぎていく、ような感覚だ。勿論、廊下の窓は空いていない。
サーッと血の気が引くのを感じる。
白波光は言ってから遅れて気づいた様子で、「あっ」と漏らす。それから意味深に俯き、気味の悪い笑みをこぼした。
「ふふふ……我がオカルト部の出番ではないか!この光が哀しき霊を浄化してやろう!」
力強く宣言すると、そのまま白波光は階段を上りさっていった。
あのくらい阿呆で馬鹿の方が逆に生きやすいのかもしれない。
呆気に取られ、取り残された3人。僕はふとそう感じた。
〈ひとことメモ〉
白波光が時計塔にいる間、他のオカルト部員は魔女修行をしたり、熟睡したりしていた。




