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49 -深夜の錯乱・撹乱-


 叫び声は空っぽの校舎によく響く。


 僕たち、やさしい悪魔部の3人はその声に導かれるようにして3階へと駆けていった。


 今の声が夜勤の先生の耳に入っていないことを祈るばかりだ。


 階段が終わり、図書館の前を通り過ぎていく。この角を曲がれば、第ニ音楽室があり、その突き当たりに時計塔の入り口があるはずだ。


 何が原因で悲鳴が上がったのだろうか。もしかして本当に幽霊が現れたのだろうか。


 地獄では苦しむ人間の魂たちを教室の窓からよく見ていたが、人間が生きるこの地で目撃するとなれば、それは僕にとって初めてのことであった。

 きっと、後ろの2人も同じだろう。


 角を曲がる。そこにはついさっき目撃した3人衆が立ち止まっていた。叶屋裕子だけが腰を抜かして、第二音楽室の壁に背を預けて座っている。青鬼界雄と銀英ルイは駆けてきた僕らに気付いたのか、視線をこちらに向けた。


 ――あ。


 そういえば、彼らに関わりたくなくて隠れていたことを思い出す。まぁ、僕たちと目的地は同じでありそうだから、もうしょうがないことなんだろう。


 「やぁ!ベグ君にバブ君!それに君はマノム君だね!君たちも夜の探検かい?」


 銀英ルイのひょうきんな声が廊下に響く。


 「先輩。今の悲鳴はその方のものですか?」


 銀英ルイの言葉に対して何の返答もすることなく、バブルは尋ねる。僕はバブルと銀英ルイに交流があったことに驚きを隠せなかった。しかも、バブルが先輩呼びをしているあたり大分顔を合わせていそうだ。


 「ごめんなさいね。でも何もないのにキャーキャー言った訳じゃないのよ……」


 床に腰を下ろす叶屋裕子は青白い顔でこちらを見上げた。その顔に微笑みがあるが、圧はなく虚勢を張っていることは一目瞭然であった。


 「急に大きな怒号が聞こえて、それで私が背後を向いた瞬間、そこの窓から何か人間の影のようなものが確かに見えたの……」


 叶屋裕子は目の前の窓を指差していた。第二音楽室の向かいに並ぶ窓、廊下の片側にある窓にはもちろんテラスなどの人間が立てるようなスペースは付いていない。


 僕は自身がごくりと息を呑んだことに気づく。


 「私、元から心霊もの好きではないの。今日は……」


 「あれ、ゆーこ先輩じゃないですかー」


 なんだか嫌な予感がする。背後から聞こえた声に僕たちは振り返る。


 「ゆーこ先輩にも可愛いところあるんですね〜」


 佐藤はじめの肩に乗ったリカはさぞ面白そうに笑みを浮かべていた。

 へのもへと佐藤はじめは、こんばんはーと集団に向けて軽く会釈をする。それを受けて、やぁ、君たちは1年生だねと銀英ルイがにこやかに手を振る。


 「俺たちはもう帰ろう」


 今まで黙りこくっていた青鬼界雄が静かにそう言った。


 「おや、例の件のことはいいのかい?」


 そう聞く銀英ルイの笑みは、今発した言葉が純粋に答えを尋ねる為の疑問ではなく、答えは既に分かりきっていて、悪魔でも形式的な疑問であることを物語っている、ような気がした。

 

 「俺が節制すればいい話だ……裕子、立てるか?」


 叶屋裕子は差し出された手を掴むことなく、すっと立ち上がる。あまり人に弱みを見せたくない性分なのだろう。


 「じゃ、私たちはお暇するよ!君たちは探検を楽しんで!グッナイ!」


 銀英ルイは歌うように言い、手をひらひら振りながら青鬼界雄と叶屋裕子の後ろを歩いていった。そのひらひらは角に姿を消すまで続いた。




 「……それで、なんでベグがいんの」


 3人の姿が消えると同時にリカはこちらに矛先を向ける。


 「いやー、ベグも来るなら来るっちゅーって教えてくれたら、一緒に来れたのになー」


 へのもへの乾いた明るさにはいつも助かっている。主にリカと関わる面において。


 「僕もまさか皆が来るとは思わなかったよ」


 僕は苦笑を浮かべる。本当は関わる気すらなかった。影薄く登場して、さっと宝を奪って退散したかったというのに。


 バブルの腕の中にいるマノムが不機嫌そうに鼻を鳴らした時だった。


 「ぎゃぁぁ……ちょ、ちょっと〜!!淵井愛華さん!!なんで窓の外にいるんですか!!」


 「危険だから……ちょっと、そんな布切れで体重を支えきれるとでも思っているのですか!?早くこっちに戻ってきなさい!!」


 とてつもなく嫌な予感だ。佐藤はじめが「前川先生だ」とこぼす。


 声は近い。きっともう3階にいる。


 僕たちは顔を見合わせ、即座に今すべき行動をとった。


 ――時計塔に入るしかない……!


 なるべく音を出さないように突き当たりへ駆けていき、立ち入り禁止の看板を躊躇なく跨いでいく。


 「立ち入り禁止だ……」


 予想外なことに暗闇からは白波光がぬっと姿を現した。


 「いいから、どけ!」


 先頭に立っていた僕は構わず白波光を押す。時計塔にぞろぞろと集団は入っていった。


 


 

 

 

<ひとことメモ>

リカと叶屋裕子は同じ科学部所属。仲が良いというよりは気が合うらしい。

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