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4 -バブル、未知との遭遇-


ーーマノムが追い出されなくてよかった。


 バブル・ジーは心の中で安堵する。人数が少なくなればなるほど、効率が悪くなる。それは避けたかった。私は指定された、前から3番目の窓側の席につく。担任の前川先生は数学の教師であるようで、チャイムがなるとそのまま授業が始まった。



 1日で100年分。半日で50年分。

好成績でこの試験に合格する為にも、より短い時間で人間の命を集めなくてはいけない。稼げる時に稼ぐ。そして、たこ焼きを全力で嗜む。これしかない。

 私は頬杖をつき、教科書を眺めながら画策していた。ふと、隣から熱烈な目線を感じ、右を向く。


 「うひゃああ!」

 隣の席に座る女子生徒は、私が向いたと同時に叫び、立ち上がった。悲鳴でなく、歓喜の叫び声という印象を受けた。


 「今、目合ったよね?」

 ーー意図的でしょう?


 声には出さなかったが、彼女の発言にそう思わずにはいられなかった。授業中に叫び声を上げ、席を立ったのにも関わらず、周りの生徒は微動だにしない。


「バブちゃんだよね?寮の部屋私たち同じなんだ!」


 彼女は席に座り直す。私はその動作を見守りながら、日本人は私のことをバブちゃんと呼ぶんだ、とぼんやり考えていた。


「私、あめ!あめちゃんって呼んで!よろしくね!」


 あめちゃんと名乗った女子生徒は机に肘をつき、両手を頬に添え、きらきらに目を輝かせている。

 栗毛色の髪はきっちりと後ろでひとつにまとめられ、赤いリボンで結われている。あまり髪が長くないのか、まとめられた髪はうなじあたりでくるりと丸まっていた。切り揃えられた前髪の下にあるくりくりの両目は嘘がつけない人間が持つものだ。

ーー決めた。この子から攻める。


「あめちゃん、よろしくね」

 私は意を決して、彼女に微笑んだ。やはり、自然に笑うのは難しい。あめちゃんは私を見ると、目を閉じ、すぅと息を吸った。そんなに私の顔、酷かったのかな。


「三白眼美女の微笑、頂きましたぁぁああ!」


 え?


「ふわりと広がる黒髪!それを引き立てるベルベットのカチューシャ!!アンニュイな雰囲気を漂わせながら、気品のある出立ち!!!!」


 先程の叫び声より力強い声を出しているというのに、先生の声が少し大きくなったくらいで、クラスは依然落ち着いていた。


「私はこんなにもすてーきな美少女を見たことがありません!!!尊すぎまぁぁすっ!!!」


「今一応、授業中だよ」


 この状況に耐えられなくなり、慌てて私は言った。この子、おかしい。


「あ、ごめんね!…そうだ!」


 やっと落ち着きを取り戻したあめちゃんは、何かを思い出した様子でバッグを漁り始めた。


「知り合って、いきなり部活勧誘かいって思うかもしれないけど…」

「はい!これ読んでみて!絶対はまるから!」


 あめちゃんはノートのような本をバッグから取り出し、開いたまま私に見せた。




 どこからかピアノの音色が聞こえてくる。天使が悪魔である私の元へ降りてきて、ハレルヤと歌っているような、そんな訳の分からない感覚に陥った。ピンクの薔薇が視界に咲き誇り、本の内容を輝かせている。天使の歌声はやまない。



 まったくの未知の世界であった。目の中には星を抱き、豪華なドレスを身に纏った人間が仲睦まじく談笑をしている。説明してしまえばそれだけであるのに、本の中の人物は物理的に輝いていた。人間とは思えなかった。


 私は何も言えないまま、その本を受け取った。


 


 

〈ひとことメモ〉

あめちゃんのイントネーションは「雨ちゃん」ではなく、「飴ちゃん」

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