45 -極秘⭐︎-
『生徒会長・青鬼界雄様、狙撃⭐︎騎馬戦をありがとう! 有志生徒一同より』
ベグ・ハーロップは寮の廊下から見える校舎の垂れ幕を茫然と眺めながら、朝食を求め食堂へと足を進めていた。
体育祭が終わって3日も経たないうちから、この垂れ幕は校舎の一部分を独占し続けている。
狙撃⭐︎騎馬戦が中止の危機にあったことは後日新聞部により全校に知り渡り、それを救った生徒会長は狙撃⭐︎騎馬戦の熱狂者に手厚く感謝されていた。きっとあの冷徹な生徒会長は、次の選挙へのポイント稼ぎになったとしか思っていなさそうだが。
いつになったら撤去されるのだろう。長い垂れ幕の裏にある教室の生徒が気の毒だなぁ。そう思いながら、ひたすら廊下を歩いていた。
「あれ、貴様の仕業だろ。悪魔さんよぉ」
後ろから聞こえた声に嫌気がさす。声の主が誰であるか判断する前に、反射神経で眉間に皺がよった。
昨日の敗北が白紙になったかのように、白波光は調子に乗った口調で僕に話しかけてきた。生意気に肩に腕まで乗せてくる。僕はそれを即座に振り落とす。
――次会う時は悪魔撃退法を掴んだ時じゃなかったのかよ。
「なんで僕なんだよ。生徒会長って書いてあんじゃん」
「いーや!この光は知っているぞ!なんせ、あの情報部から仕入れたネタだからな!」
「その情報部って一体なんなの?」
昨日から気になっていたことだ。白波光が馬鹿であるから助かったものを、白波光が主張していることは間違っていない。その情報部とは見逃していいものなのだろうか?それとも排除すべきか――。
「貴様、無知だな。情報部とはその名の通り、学園内外の情報を網羅している部活さ!その時に彼らが求める品を生贄に差し出せばどんな情報をも提供する、それが情報部だ!」
「……しかし、誰もそのメンバーを知らない。生贄を捧げる場所は設けられても、彼らの真の活動拠点は誰も知らない。破陽羅武一、謎に包まれた部活ってことよ」
白波光は鼻息を荒くし、興奮を隠せない様子で語る。
部活動に謎なんてものがあっていいのかとそれを聞きながら僕は感じた。普通の学校像ならまずあり得ないことだが、この学校ではその基準を求めてはいけないことを僕はとっくに学んでいた。
謎であるなら、まずは様子見だな。やさしい悪魔部の敵でない限りは僕には関係のない話だ。
「へー。ところで、何を生贄にしたの?」
「おお。今回はネコのぬいぐるみをご所望だったぜ。だからこの光が厳選した、瞳に愛嬌が込められているネコちゃんを……」
「へー。そうなんだー」
なんとなく聞いてみたが、聞く価値全くなかった。そう思いながら、僕は嫌々白波光と食堂に向かった。
――――
食堂が視界に入った頃、いつもよりざわついている違和感を感じた。一体何か起こったのだろうか。
「そういえば、今日にでも探索に行くんか?怖いならこの光が着いていってやってもいいぜ」
「行かないよ」
「そっか。ま、宝の存在を知っているのは貴様と我らオカルト部だけだからな。いいか。行く時は絶対この光に申告すんだぞ」
――嫌だよ。
さっきから9対1の割合で僕らの会話は進んでいた。勿論、9が白波光。ひとりでベラベラ話しまくる白波光に僕は適当に相槌を打つ。
「破陽羅武学園新聞、号外で〜す!」
食堂に入った時、新聞部の男子生徒のはきはきとした声がざわめきの中一層明瞭に聞こえた。殆どの生徒が新聞紙を手にしている。僕は人波を縫って、新聞を1枚貰った。
『学園に眠る秘宝、現る!?』
『本日早朝、当破陽羅武学園に隠された財宝が存在することが確認された。その財宝の詳細は一切不明であるが、関係者の話では「当破陽羅武学園をひっくり返すほどの宝」と噂されており、その財宝の価値が伺える。以下がその財宝を示す地図である。この学園の誰がその財宝を手にすることになるのだろうか。
我々、破陽羅武学園新聞部は新コーナーを設け、財宝を巡る動向を逐一報道致します。これからも当学園新聞をご愛読ください。 』
僕が一通り読み、顔を上げると、目の飛び出しそうな勢いで手元の新聞紙に驚愕する白波光が視界に映った。
どうやら、宝の存在は全校に知れ渡ったようだ。




