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44 -白波流除霊術の極意-



 一体何十分の間、この長ったらしいお経もどきを聞かせられているのだろう。一体、これはいつまで続くのだろう。


 ベグ・ハーロップは床に描かれた星陣の真ん中で大人しく体育座りをしていた。自身を囲む蝋燭の炎がちらちらと揺れている。


 白波光は星陣の周りを練り歩きながら、ひたすらお経もどきを唱えている。勿論、そんなもので僕が浄化することもなく、ただ無駄に時間だけが過ぎていた。


 ……というか、


 「他の奴、全然来ないじゃん!」


 僕は痺れを切らして、さっきからずっと気になっていたことを吐露した。


 バブルやマノムが同じく連れ去られてくる。そう聞いたはずだったのに、一向に人の気配を感じられない。単調なお経もどきに苛立ちが募るばかりであった。


 「それは!貴様を司る純粋な悪の力が弱ってきた証拠だ!」


 白波光は足を止め、目をカッと見開き、勢いよく言葉を飛ばす。


 「そんなわけあるか!何が悪の力だ!」


 僕は全力で否定する。こんなお遊びに費やす時間がもったいない。


 「貴様、悪魔でないというなら、自分でそれを証明しろ!」


 長時間ぶっ通しでお経もどきを読んでいたせいか、喉が若干枯れている。きっと本人もやめ時を伺っていたのだろう。それなら早く辞めてしまえばいいものを……。


 「いや、できるわけないじゃん。それこそ悪魔の証明だよ」


 僕は苦虫を噛み潰したような顔で返す。この白波光とかいう人間の挙動を見ているだけで、吹雪に晒されているような気持ちになる。なんだか一挙一動が痛々しくて見ていられない。きっと、単細胞で脳をうまく使えない類いの人間なのだろう。


 「そっか……。なら、白波流除霊術の極意を見せつけるしかない!」


 「いや、もう帰り……」


 「白波流除霊・其の一、ロザリオ目潰し!」


 僕の言葉を遮って、白波光は十字架を取り出し、僕の顔にビタンと押し付けた。1番腹立たしいのは、この行動には意味が微塵たりともないくせに、金属製の物体を押し付けられて普通に顔面が痛いことだ。


 「痛いわ!目に刺さったらどうするつもりだよ!」


 「まだまだだ!白波流除霊・其のニ、トマト攻め!」


 僕はもうこいつとコミュニケーションを取るのは不可能だと判断した。こいつが満足するまで、思考を放棄しよう。


 僕は部室で見た流れる雲を思い出し、気を遠くすることだけに力を注いだ。


――――




 「白波流除霊・其の終、天の恵み!」


 遮光カーテンが開き、視界に鮮明な光が差し込んだ。


 ――やっと終わった。


 なぜだかこちらが燃え尽きた気分であった。


 「なぜ……なぜだ……」


 白波光が床に突っ伏している。敗北をひしひしと味わっているのだろう。


 「だから、僕悪魔じゃないって言ったじゃん」


 僕は引きつる顔でそれを言った。人間に悪魔の証明なんてできるはずがないんだ。

 それに――


 「しかも、除霊術とか言って、全部ヴァンパイア撃退法だったよね」



 「……」


 白波光は完全に硬直した。こちらを見たまま、瞬きすらもしない。床に膝をつけたまま、こちらをガン見する気味の悪い石像が完成した。



――馬鹿だ。こいつ、ただの馬鹿だ。

 

 僕は率直にそう感じた。




 「うっ……。なら、それなら、この白波光、必ず悪魔撃退法を掴んで、貴様にリベンジしてやるっ」


 「いや、なんでそうなる」


 やっと動きだしたと思ったら、涙声でそんなことを言うのだから、僕は思わずそう口に出してしまった。



 「今日のところは、この光の負けだ」


 白波光はそう言うと、立ち上がり棚を漁り始めた。そして何かを片手に掴むと、


 「ほら、貴様にこれをやる」


 そう言って、古い丸まった紙を僕に差し出してきた。正直言っていらない。こんな煤汚れた古紙など触りたくもない。


 「これはオカルト部に受け継がれてきた宝の地図だ」


 なかなか受け取らない僕を見計らって、白波光は語り始める。


 「伝承によると、学園をもひっくり返すほどの宝がこの破陽羅武学園の何処かに眠っているらしい。この国におけるこの学園の影響力を考えると、これは相当な財宝だぞ」


 「毎年、オカルト部が極秘に探索に出かけるが毎年失敗に終わってな……。なんせ宝の亡霊が光達人間を宝の在り方から遠ざけているらしい」


 「貴様なら何かいい結果が出せる……とも思ってはいないが、これは今回の詫びだ。次会う時は貴様ら悪魔を亡き者にしてやる!」

 

 白波光はそう高らかに宣言すると、僕の手に汚い黄ばんだ紙を押し付けた。


 金銀財宝なんて、悪魔にとってなんの価値もない。悪魔は人間の命が全て。


 あまりにも無生産な結果に心身共に疲弊しきった僕は暫く放心状態であった。




 

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