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43 -manomm is doggy-


 気ままに喋れないから、退屈なんだ。


 マノムは今までそう確信していた。しかし、どうやらそれも違うらしい。



――――

 

 放課後。マノムは動物で賑わう温室でバカンス気分を味わっていた。池のほとりで寝転び、優雅に日向ぼっこ。


 2週間に1回さっぱり毛を落としてもらってるおかげで、うるさい孔雀のエリザも僕の温室通いを歓迎している。


 面倒なことなーんにも考慮しないで、自由に話せるこの環境が今の僕のお気に入りだ。


 しかし、今日は2人も人間がいる。だからといって、機嫌を損ねることはないが、とりあえず様子見状態であった。いやな感じがしたら、また新しいお気に入りを見つけなくちゃいけない。


――それはめんどくさいなぁ。



 「犬飼くん、(わたくし)お手伝いなんてお願いした覚えないのだけれど」


 天井のガラスにぼんやり合っていた焦点を声の主に合わせる。


 1年白組、根持沙緒莉(ねもちさおり)。象のフルールとカバのプチの飼い主。今日で会うのは3回目だ。いつも10分も滞在しないのに、今日はもう30分以上もいる。

 

 いつもロリータ服を着ているせいか、広げた傘のようなスカートのシルエットを見ただけで、根持沙緒莉と判別できるようになっていた。



 「だって、沙緒莉ちゃん忙しいだろ?俺、動物好きだし、俺が出来ることなら何でもするよ!」


 同じく1年白組、犬飼進士(いぬかい しんじ)。どうやらほぼ毎日空いた時間にここを訪れているのらしい。僕もシンジーとは両手で数えきれないほど会っている。

 

 サオリに向かって、真っ白な歯を輝かせる。太陽みたいな人間だ。プチがシンジーは良い人間って言うのも頷ける。


 「有難いとは思うけど、せめて無断でやるなら私がいない時にやってくださる?私は私の愛しいペットたちと会話する為にここに来ているの。余計な人間がいると、いつになっても対話ができないじゃない」


 サオリの刺々しい言葉が辺りに散らばる。それを見たエリザは「あんなだから、友達がいないのよ」と涼しげに言い張っていた。

 

 「そっか!ごめんな!これが終わったら出てくから、もうちょっと待ってな」


 エリザに対するプチの反論など聞こえる訳もなく、シンジーは爽やかに返す。

 サオリはふんと鼻を鳴らして、フルールに向き合い鼻を撫で出す。


 「ちわー。ここにマノムって奴いますかー?」


 入り口辺りから僕を呼ぶ声が聞こえた。一行は皆そっちを向く。


 ベグだったら、急いで呼び主の所へ駆けていくのだろうけど、僕はそんなことしない。だって、面倒だし、あっちに用があるなら、僕が寝そべるここまで来るだろうし。わざわざ僕が出向く必要はない。



 「マノム君ならここにいるぜー!」


 姿も見えない声主に向かってシンジーは大声で返す。やがて、生い茂る緑の中から現れたその姿にシンジーはまたハツラツとした声でその人間を迎えた。


 「(のぞみ)くん!珍しいな!こんな所で会えるなんて思ってもなかったよ!」

 

 希くんという人間は一言でいうと、他人を近づかせないようなイカつさで溢れていた。ドレッドヘアに制服は腰パン。この学校では珍しい治安の悪さを感じる。


 誰でも歓迎するシンジーに対し、サオリはあからさまに顔を顰めている。


 「誰、あいつ……」


 「え〜!沙緒莉ちゃん、俺たちと同じクラスだよ!希くん、比嘉希(ひかのぞみ)くん!覚えてないんか?」


 知るわけないじゃない、そう言いたがっていることを表情で察した。


 「お〜、犬飼……。んで、マノムってどの動物?」


 比嘉はキョロキョロ辺りを見回していた。動物を順に見ているのだろうが、僕の方を見ることはなかった。きっと見えていないんだろう。バーカバーカ。


 「あ〜!マノム君はこの子だよ!」


 いつの間に近づいたのか、言い終わる頃にはひょいと持ち上げられた。人間に抱っこされるのは吐き気がする。もう犬扱いの全てに苛立つようになっていた。


 比嘉の視線が僕に注がれる。きっと僕はむすっとした、犬に似つかわしくない表情で比嘉の視界に映っているんだろう。


 「……マノムって犬なんか?」


 「うん、そうだよ!」


 「……そうか」


 犬じゃねーよ。悪魔だわ。

 そう言いたい気持ちをなんとか抑えて、比嘉を睨みつける。あーあ、でも言ったら絶対面白いよなー。言いたいなー。でも僕だけの試験じゃないんだよなぁー。


 そう考えているうちに、比嘉の大声が耳を引き裂いた。


 「マ……マノム氏!スケッチさせて下さいっ!」


 比嘉は直角90度のお辞儀をしていた。


 意味がわからない。……おもしろーい。

 

 僕はニヤッと笑った。


――――

 


 僕がお座りをしている姿を比嘉は必死の形相でスケッチしていた。手ぶらであったのに、あんな大きなスケッチブックがどこから出てきたのか不思議だ。


 その横でシンジーがスケッチを眺めている。サオリは心底嫌そうに遠巻きからそれを眺めていた。


 「希くん、犬が本当に好きなんだな!描かれてる全部の犬が愛に溢れてる、そんな気がするよ!」


 それを聞いた比嘉は嬉しそうに頬を染めた。初見の仏頂面とはかけ離れた姿であった。


――人間って面白いなー。


 「俺のじーちゃんがシーサー職人だから、将来それを継ぎてぇんだ。伝統的な様式に加えて、俺が好きなワン公のデザインも新しく作りてぇ。だから、今のうちにワン公見かけてはデッサンしてる」


 好きなことになると饒舌になるらしい。


 「それはいいなぁ!じゃあ、美術部にでも入ってんのか?」


 シンジーが話を広げていく。


 「いや、オカルト部だ」



 「え、オカルト?」


 遠巻きから聞いてたのか、サオリが思わず口に出す。サオリの方を振り返った2人に気づいたサオリは慌ててプチに向き合い直した。


 「オカルトとかそういうの、好きなんか?」


 こちらに顔を戻したシンジーが聞く。


 「いや、別に」


 「え、じゃあなんで入ってんだ?授業ならまだしも、俺なら興味のない部活になんて入りたくないぜ」


 「部長に土下座されたんだ」


 「わー……そんな部長もいるんだな……なんというか、斬新だな!」


 はははと笑い飛ばすシンジーの横で比嘉は変わらない目で僕を捉えては、手を動かしていた。サオリは会話に入りたいのかなんだか、後ろの方でこちらをチラチラと見ている。横にいるプチは「今だよ!い!ま!」とサオリを鼓舞するが、聞こえているはずもない。



――暫くはお気に入り変える必要がなさそー。




 目の前で繰り広げられる劇にマノムは満足していた。



 



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