41 -ザンギリ頭を叩けば-
放課後、やさしい悪魔部。
ベグ・ハーロップこと僕は空っぽの部室にて、手足を動かすこともなく、かといって何かを考えることもなく、ただ呆然と窓の外を眺めていた。
――雲って案外流れるの速いんだなぁ。
こんな腑抜けた様子でいながらも、咎める声はどこからも聞こえてこない。何故なら、僕しかこの部室にいないのだ。
最近、バブルもマノムも部室への出席率が著しく落ちている。きっと2人のことだから、客の来ないこの時間を非効率もしくは暇だと捉えたんだろう。いいよ、どうせ暇だから。
僕は座っていたソファにそのまま横になった。
……でも、やっぱり1人は寂しいじゃないか!なんで2人とも僕を独りぼっちにするんだ!2日に1回ならまだしも、3日中2日とも僕を1人残すだなんて!
こうなったら、なんとかして客を集めるしかない!商売繁盛させて、もう一度あの2人にこの部室の――このやさしい悪魔部の存在価値を再確認させるんだ!
僕は心で燃える気合いのまま、ガバッと起き上がる。それと同時に、視界は真っ白になり、首に布の感触を覚えた。
――は?
訳のわからないうちに体は浮き上がり、僕は何も言えないまま、段ボールのような箱に座らされた。そして、そのままガラガラガラという音と振動と共に、どうやら移動を始めたようであった。
――もしかして、これ誘拐?
ふと浮かび上がった文字に現実味を感じる。嫌な感覚から逃れる為、必死に声を上げ、暴れるが、依然としてガラガラガラという音が耳を掠めるだけであった。
今までにそんな恨みを買うようなことしてきただろうか。脳を慌てて奮う。この学校では思い当たるような人物はいないが、今までビジネスをした相手なら十分にあり得る。
例えば、ニューヨークにいた酔っ払いとか。きっと彼女、今頃窃盗罪で刑務所入りのはずだ。その恨みで探偵やらなんやら雇って、遥々海を渡ってきたのだろうか。僕は彼女の願い通り、あの店の宝石を彼女に与えただけだというのに。
やはり、まだ一人前の悪魔でない分、経験が足りなすぎる。こういうことが起こる可能性、そして対処法が全くもって浮かばなかった。
客以前にもっと勉強しなくては。知識をつけなくては。より多くの人間と関わって、人間をより深く学ぶしかない。
単色の視界の中、僕は着実に落ち着きを取り戻していった。
――とりあえず、この誘拐犯の正体が明らかになった時、一発仕返ししてやる!僕が人間ならざる者という事をしかと思い知るがいい……!
きっと犯人は布の下で僕がこんなにも不敵な笑みを浮かべているとは思いも寄らないだろう。
――――
振動で丁度お尻が痛くなってきた頃、ガラガラガラの音は止まり、僕の移動は終えたようだった。
人間の気配を背後に感じる。人間は誰かに復讐する時、どんな手段を使うのだろうか。暴力だけは避けてほしい。
そんな事を考えている時、布が目の前から消えた。
――さぁ!こっちの番だ!覚悟しろ!
反射神経のままに後ろを振り向く。しかし、誘拐犯を確認する前に、プシューという音が耳を刺し、何かが目を刺した。
「いっったぁぁあああ!」
目が開けられない。沁みるような痛さだ。今すぐ水で洗いたくとも、視界は暗く、自身が何処にいるかも分からない。しかも――
「くっさぁぁぁああ!」
なんだこれ。一体どんな毒薬を吹っかけられたのだろうか。悪魔は死なないと言えども、普通に痛覚はあるし、人間並みの五感はある。臭くて、痛くて、もうなんなんだよ!
「白波家直伝の特濃にんにくスプレーのお味はどうだ?悪魔さんよぉ」
――悪魔?こいつ、何者だ?
左側から聞こえる声は若い男子の声であった。場所から考えても、ここの生徒か?
「情報部からのデータにより、貴様ら、やさしい悪魔部が非常に怪しい連中である事が判明した」
流れる涙により、にんにくスプレーだとかが目の外に落ちていく。僕はハンカチで目の周りを拭った。まだ痛いが、目を開けられることに安堵する。
しかし、目が開いてなくとも変わらないくらい、部屋の中は遮光カーテンに包まれ、暗い。
「よって、オカルト部の名にかけて、白波流除霊師(の卵)白波光の名にかけて、貴様らを浄化する!」
「今、オカルト部のメンバーが貴様の仲間を攫っている頃だ。それまで、恐怖に慄いてるがいい……!」
声の主は破陽羅武学園の制服を着ていた。短髪に切長の目が顔の小ささを際立たせている。
――また変人が増えたな。
一瞬感じた警戒心がいつのまにかサーっと消えていった。
なんでこんな狂った奴ばっかりに出くわすのだろう。
僕は冷めた目で白波光を眺めていた。
「貴様の仲間が到着するまでに、白波流除霊術をたんと味わうがいい!」
面倒臭そうだなぁ。それしか思わなかった。




