3 -困惑のはじまり-
「本日からお世話になります。ベグ・ハーロップと申します」
僕は校門のインターホンを押して言う。すると、鉄格子の門が音を上げながら開いた。
「こんにちは。まず正面にある校舎へ入ってください。そこに校長室があります。学校の事や寮生活について説明をするので、道案内に従い、向かってください。」
いかにも事務的な声がインターホンから聞こえた。僕はバブルの方へ振り向き、頷く。寮生活という事は、ここが僕たちの主な活動場所となり、ここにいる人間全員がターゲットとなるのだ。バブルも僕の言いたい事を理解したように頷く。僕たちは記念すべき一歩を踏みしめた。
煉瓦の道に緑の植え込みがよく映えている。敷地は日本の学校とは思えないくらい広い。用途は分からないが、様々な建物が立っていた。正面に位置する白い校舎は伝統的というよりは近代的な建築物であって、全体的に欧米にある大学のような伸び伸びとした印象を受けた。
「ねぇ、喋っちゃ駄目だよね?」
「うん、犬らしく振る舞って」
マノムが小声で確認する。元185cmの美形である事を忘れさせるような可愛さであった。
「犬ってよく分からないんだよねー、猫なら分かるんだけどさ」
「じゃ、猫らしく振る舞ってて」
マノムはもこもこの顔を僕の腕に埋めた。そして、僕たちは校舎へ辿り着き、校長室へ向かった。
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校長室に入ると、見るからに隠居状態のお爺さんが奥の席に座っていた。このよぼよぼのお爺さんが校長であるようだ。暴走族のような輩でなかった事を僕はひとまず安心した。
「おぉ、いらっしゃい。日本語での説明で大丈夫かね?」
大丈夫です。そう答えると校長先生はパンフレットを元にこの学校の歴史から、施設、行事、寮、校則など順に説明していった。まぁ、長居するつもりはないので、半ば適当に聞いていた。
「道途中で子犬を拾ったのですが、大丈夫ですか?」
話が終わり、僕は質問した。
「この学園はペット飼育を許可してるから大丈夫じゃよ。さぁ、クラスに挨拶しに行きなさい」
ーーペット飼育の許可?僕は初めて聞くことに動揺しながらも、促されるまま校長室を出た。これまでにペット飼育が許可された学校など聞いたことがない。人間界において学校とは、どの国もある程度仕組みは共通している。こんな特例がある学校など初めてだ。僕は戸惑いながらも、バブルの後を追って階段を上った。
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「はい。こちらが留学生のベグハーロップ君とバブル・ジーさん。そしてペットのマノム君です。皆さん仲良くしてくださいね」
1年紅組の先生は中年の女性であった。ふくよかで今にも歌い出しそうな陽気さが漂っている。
紹介され、マノムを教室後ろのペット用ベットに置き、席についてもなお、やはり僕の中ではペットの公認がどこか引っかかっていた。人間学で習った学校像はペット禁止であったのに…今まで僕が必死に身につけてきた知識は無駄となってしまうのか。心の中で焦りが生まれる。
まぁ、人間の欲は誰にでも存在する。それを見つけて漬け込めばいい話だ。今回も絶対に僕らは上手くいく。
試合開始を告げるかのように、チャイムが鳴った。
〈ひとことメモ〉
マノム185cm、ベグ168cm、バブル158cm




