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34 -おともだちといっしょ!-



「午後の進行は瀬内が務めさせて頂きます!さぁ、午後も張り切っていきましょう!」


「まずは、『おともだちといっしょ!」のコーナーです!」



 ベグ・ハーロップは異様なスタートラインにつき、状況の奇妙さから身を固めていた。


 元々、僕は競技に出場する気はなかった。体育祭実行委員に入っているし、特に出たいとも思わない。それなのに、「この競技はベグ君がぴったりだ!」と言われ、無理矢理ここに立っている。



「第1レーン!3年紅組牛山くん・馬のロッパーくん!」


「第2レーン!3年白組熱海くん・兎のキャンディちゃん!」



 放送部の女子生徒が紹介する度に、同じ組の生徒が声をあげ盛り上げる。



 「おともだちといっしょ!」はペットとコースを一周する徒競走だ。しかし、全寮制でペットを飼育する人間など、許可されていたとしても少ない。よって、僕が出場する羽目になったのだ。


 馬と兎が速さで争えるのか、と企画側ながら疑問に残る。

 


「なんで、あいつじゃないの」


 冷やっとした声が上から聞こえた。僕は声がした隣のレーンにゆっくり顔を向ける。



「なんで孔雀じゃないの?逃げたの?」


 隣のレーンにいる女子生徒は象に乗って僕を冷たく見下ろしていた。太陽が逆光になってよく見えないが、縦巻きロールの髪だけは認識できる。


 怒っているんだろうけど、全く怖くない。圧の権化に日々囲まれているからだろうか。日頃の殺意に比べれば、こんなの可愛いもんだ。



「僕はよく知らないよ。出ろって言われたから出た」


「ちっ、まだ決着もついてないのに」



 僕の返事にその女子生徒は悔しげに爪を噛む。僕は無の心持ちでそれを見つめていた。


 何故、ここの生徒はこんなにも血気盛んなんだろう。




「第5レース!1年紅組ベグ君・犬のマノムちゃん!」


「第6レース!1年白組根持さん・象のフルールくん!」



 外野から応援の声が聞こえてくる。まぁ、ヘマしない程度に頑張ればいい。



「それでは!皆さん気合いをいれて…位置について!」


 右足を後ろにひく。


「よーい…どん!」



 大型動物の足音が地面を揺らす。僕は砂埃の中、必死で腕を振る。一歩を大きく踏み出し、なるべく早くまた一歩踏み出す。


 それなのに、他の生徒たちがだんだん遠く離れていくのは気のせいだろうか。いや、確実に離れている。…というか、僕の包む視界が変わらない。もしかして全く進んでない?



 僕は焦りのまま、後ろを振り返る。そこにはリードに繋がれたマノムが進みまいと必死の抵抗をして踏ん張っていた。


――なんで!?


 「なんで!?」としか思えない。それ以外の言葉が出てこない。いや、本当、なんで!?マノムは顔をしかめている。



「おい、マノム!お前どうしたんだよ!」


 僕はマノムに歩み寄り、小声で囃し立てる。


「……じゃない」


 マノムはむすっとした顔のまま、どこか空中を眺めている。


「え?」


「気分じゃない」



「はぁぁぁ!?!?走れよー!!!」


 僕は勢いのまま声を荒げる。先頭とは既に半周の差がついているというのに。こんな重度の気分屋がいるなんて世も末だな!



「やだ。走りたくない」


「いや、座るな!!腰を上げろ!!走れ!!」


 ついにマノムはその場で丸くなってしまった。


 僕の横を颯爽と馬が通過していく。


「1着!3年紅組!おめでとうございます!」




 実況があえて僕たちに触れないことが、余計に居心地が悪い。僕が地団駄を踏んでいる間にも着々と他の生徒がゴールしていく。


「ええい!マノム!行くぞ!!!」


 僕はマノムを抱え上げ、1人で走り出す。



「さぁ、皆さん。応援しましょう。たった1組で走り抜こうとする彼らの精神力を讃えましょう!」



 実況を片耳に必死に走る。しかし、一向に進まない。自身の運動音痴をここまで恨む日が来るとは…。



「全校生徒が見守っています!頑張って!」



「さぁ、もう少しです!頑張れ!」


 体中から汗が噴き出す。校庭は頑張れコールで満たされていた。それに耳を貸す余裕も、取り繕う余裕もない。心も体もへろへろだ。



「ゴーール!!皆さん拍手をお願いします!!お疲れ様でした!よく頑張りました!」



 慰めの拍手に包まれ、僕はゴールテープを切った。短距離であるのに、長距離を走り抜いたように息は上がり、足がふらつく。


 今思うことといえば、早急にこの場から立ち去りたい、それだけだ。




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