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33 -体育祭スペシャルのり弁当-



「ベグー、ご飯食べないのー」



 ぼそっと小声がどこかから聞こえた。声のした方を見やると、マノムが運営テントの端で僕を見上げている。朝ぶりというのに、全く顔を合わせなかったせいで、すごく久しく感じる。


 今、体育祭は昼休憩に入り、ほとんどの生徒が体育祭スペシャル弁当を求め、食堂に駆け詰めていた。


 まぁ、体育祭実行委員の僕はそんな権利もなく、ただテントに張りつき、新たな仕事(ハプニング)がやってくるのを嫌々待ち構えている。



「んー、今から食堂に行くの面倒だしいいかな」



 僕は周囲に人がいるか確認し、小声で返す。


 広い校庭をつっきって校舎に入り、人混みの凄まじい食堂まで行くのは遠いし面倒で億劫だ。それなら、真面目なフリして空腹を味わった方が少しはマシだ。


「ふーん。ま、いいけど」


 マノムはテントの支柱に寄りかかる。きっとスチールがひんやりしていて気持ちいいのだろう。



「ベグ君。お疲れ様」


 テントの正面から声が聞こえ、僕はそちらの方を振り返る。


「ベグ!あんた、ちゃんと私の輝かしい勇姿を見たー?」


「俺ら、最高にクールなトリオやったもんなー!」



 佐藤はじめとリカ、それにへのもへがテントに来ていた。


――わざわざテントに来るなんて、なんか厄介な問題でも起こしたのか?


 僕は反射的にそう感じた。


「あー見た見た。玉入れ勝てて良かったな。」


 僕は半ば適当に返す。何か壊した!アハ!とか言って更に仕事を増やしたら、こいつらと言えでも容赦はしないぞ。



「ふふっ、でっしょ〜!この輝かしい司令塔がいたからこそ、成し得たことなんだからね!」


「よっ、我らが司令塔〜!」


 佐藤はじめの肩上で、リカはドヤ顔を僕に見せつけ、へのもへはリズムよく合いの手をいれる。


――はいはい。はやく本題に入りなー。はやく吐露しなー。


 僕は内心冷ややかにそれを見ていた。



「ベグ君、実は君の分まで体育祭スペシャルのり弁当買ってきたんだ。よかったら、一緒に食べようよ」


――へ?


 そう言った佐藤はじめの手には、弁当の陰が透けたビニール袋が握られている。もしかして、こいつらその為にわざわざ運営テントに顔を出したというのか……?



「お前ら、神なのか……食べる!!」


 僕は彼らに泣きつく勢いで駆け寄った。リカが「うぇ、気持ちわる」と悪態をつく。佐藤はじめは穏やかに笑い、へのもへは乾いた笑いをこぼす。何の日常と変わらない風景だ。それなのに、僕は少し晴れやかな気持ちになった。


「あ、そうだ。マノムも一緒に……」


 そうテントの支柱を見やると、そこには何の物陰もない。あれ、さっきまで居たのに。まぁ、気分屋のマノムのことだから、別にいっか。


 僕は彼らに顔を戻し、体育祭スペシャルのり弁当を堪能する為の椅子を寄せ集めた。



――――



「ふー!やっぱ日陰で食べる弁当は最高だね」


 リカは膨れた腹を押さえ、満足げにそう言った。


 

 ――ん?


 僕は違和感を覚え、リカの顔を見やる。


 あー。もしかして、テントで食べる為に僕を誘ったのか?あー。最初から、そういう魂胆だったんかい。


 やっぱり人間はどこまでいっても、人間だな。さっきの気持ちの高ぶりを返せ!



「え、なに。気色悪いから見ないで」


「はい。すみません」



 反射神経で答える癖を治したい。


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