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32 -闘え!いちごとアメ-



「わぁーお!まさかの二人二脚!1年紅組、最初の難関突破!!猿島さん解説の程お願いします!!」



「はい!今のは片腕でパートナーを持ち上げ、豪速で走り抜ける、まさに筋肉にモノを言わせたパワープレイだな!」


「しかも、彼女、パートナーに負担がかからないよう、縛っている方の足をなるべく地面につけないように走っていたぞ!!これはうちのパンプアッ部に勧誘したいくらいだ!」


「……にしても、すごい咆哮だな!ハッハッハ!」



 バブル・ジーは実況を片耳に聞き、あめちゃんの頬を軽く叩いた。



「帰ってきた?」


「…はっ!ありがとう!バブちゃん!」


 

 あめちゃんが気を取り戻したことを確認し、私たちはまた走り出す。大丈夫。1番通過だ。このまま行ける。



「おや!1年白組も第一難関突破!1年紅組に噛みつけるか!?上級生もファイトー!」



 そのアナウンスに私は次の障害物・飴食いの場所を確認した。さっきの凸凹岩山からちょうど半周の所に位置している。大丈夫。転ばなきゃいける。




「中島ちょーおせーんですけどー」


「はぁ!?とろいのは山張の方だろ!?」


 

 すぐ背後で騒ぎ声が聞こえる。そう思った途端、声の主は私たちの横にまで来ていた。


 …速い。しかも、無駄口を叩きながらなのに。


 彼らはあっという間に私たちの斜め前に移動する。私たちだって全速で走っているのに。負けたくない。



「バブちゃん!あんな焦げギャルに負けちゃだめ!!頑張ろ!」



 あめちゃんの叫びに、私は頷く。


 そうだ。私たちは負けない。



「だぁれが焦げギャルだぁ!こちとら時代最先端突っ走っとるんですけどぉ!」


「ちょ、山張!相手にすんな!」


 

 前を走る組の1人がこちらを振り返り、すごい剣幕で声を荒げる。あの人間は山張苺だ。3日の命を儲けたから、ちゃんと覚えている。



「いーや!ウチの誉れ高いギャル精神が許さねって!中島もっと走れ!!あんな脳内お花畑女に負けんなぁ!!」



「…脳内お花畑女!?カッチーン!!この玉簾(たますだれ)あめ、怒ったんですけど!!」



「ははっ!いいじゃん!ギャルを舐めんじゃねーよ!その怒りで脳内焼畑栽培でもしてな!」



「ロマンティックの良さがあんたみたいな制服を着崩す焦げパンに分かるわけないのよ!!いつも廊下で見る度にだらしないって思ってたんだから!!」



「ロマンー?てめーは何歳(いくつ)よ!ウチはね、ギャル界の天下とんのー。パンになんかなってたまるかー!!」



 いつのまにか、1年紅組と白組は並走していた。あめちゃんと山張苺は顔を合わせていがみ合っている。


 きっと今私が感じていることと、相手の中島という人間が感じていることは同じだと思う。ただひたすら無言且つ無表情で、前だけを見つめて走っている。



 そうこうしているうちに、飴食いが目の前に迫っていた。


「先頭集団、ダブル飴食いゾーンに入りました!さぁ、手を使わずに白い粉から飴を探し出そう!」


「…簡単に見つかってもつまらないので、バットはちょーっと深くしました!さぁ、1番に突破するのは誰だ!」




 勢いよくバッドの置かれた机に手をつく。もう少しで勢い余って、机をひっくり返す所だった。あめちゃんったら…。


 私は冷静に見下ろす。バッドの中にはただ真っ白な粉が敷き詰められているだけだ。


 ここから手を使わずにどう飴を探し出せばいいのだろう。そう思い、あめちゃんを見やると、バッドに顔を突っ込んでいた。顔を埋めたまま、頭全体を縦横無尽に動かしている。


 マノムには悪いが、あめちゃんのがっつき具合が飢えた犬のようで面を食らった。


 

――私もこれをしなくてはいけないの…?これが日本の体育祭文化なの?こんなに過酷なんだ…。


 


 反対方向を見やると、山張苺も同じようにバッドに顔を突っ込んでいる。そして、中島という人間は、また私と同じように戸惑っているようだった。呆然と突っ立っている。



「あふちゃん!でひあ!」


 顔の向きを元に戻すと、真っ白顔のあめちゃんが嬉しそうに私を見ていた。前髪や首元まで粉は飛び、眉毛はなくなり、顔の隅々まで白で覆い尽くされている。白一面にいきなり現れる黒目がちな瞳が少し怖い。



「……バブちゃん?」


 私がまだ白くない理由が理解できないと言いたげな声であった。


「バブちゃん、やって?」


 あめちゃんの目が冷たく燃えている。




「中島!?何つったってんだよ!?」


「え、あ、俺の彫刻フェイスが……」


「ふざけてんじゃねぇーーー!!」


 山張苺が中島の後頭部を鷲掴みしたのが、うっすら視界に入る。それと同時に、私の頭にもぎゅっと違和感。――え?




「バブちゃん」


「中島!!!」



「はやくやってーー!」

「はやくやれーーー!」



 押されるがまま、純白の世界にダイブした。真っ白なはずなのに、飛び込んだ視界は真っ黒だ。闇雲に探し続け、やっと見つけた飴玉は粉でぼそぼそしている。



 私が飴を咥え顔をあげると、あめちゃんは「いくよ!」と私をリードしていく。


 結果、ひと足先に次の走者にタスキを渡すことができた。ひとまず、勝てた。それなのに、コースを外れた時にまず感じたのは、カルチャーショックによる思考放棄と口にふわりと広がる苺味であった。





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