31 -燃えるいちごアメ-
「第二競技・二人三脚障害物リレー!」
バブル・ジーはあめちゃんと共にスタートラインに立っていた。互いに肩を組み、左足はあめちゃんの右足に括りつけられている。
「この競技は各組から走者を選び、1位から6位までの成績順にポイントが入ります!第一走者を待ち受けるのは激痛足ツボマットを走り抜けてからのダブル飴食い!」
「さぁ、彼らはどんなドラマを見せてくれるのでしょうか!!」
元々勝利に拘りはないけど、敗北することは嫌いだ。勝負事では、誰にも負けたくない。それに、今は士気高まる紅組に貢献したいという気持ちもある。ここで、負ける訳にはいかない。
「バブちゃん……行くよ!!」
「うん…!」
あめちゃん気合いの一言に私は返事をし、まっすぐ前を見据える。
「位置について、よーい……」
「どん!!」
「せーの!いち!に!いち!」
まずは右足。次に左足。あめちゃんの掛け声に合わせて、足を交互に前に出す。大丈夫。練習はした。きっと、大丈夫。
「さぁさぁ、皆無事に走り出しました〜!走者たちは今、地獄の激痛足ツボマットへ差し掛かろうとしています!!両組ともがんばれ!!」
「おっと!!マットは土足厳禁ですよ!?3年紅組戻ってくださーい?」
力のこもった実況が耳に入る。目の前には、凸凹したマットが並んでいた。二人三脚で走る練習はしたが、障害物を避ける練習はしていない。ついさっきまで、どんな障害物が来るか分からなかったのだ。でも、大丈夫。絶対、大丈夫。
「あめちゃんは左足から靴脱いで」
掛け声を上げ続けるあめちゃんが頷いたことを横目で確認する。
あと3歩…。3、2
「ここ!」
私の声に合わせ、あめちゃんは左足、私は右足の靴を脱ぐ。そして、次にもう片方の靴を脱ぐ。うん、息ぴったりだ。空いている手で靴を持つ。
次はこの岩山マットを走り抜けるだけ。
「いくよ!せーの!!」
あめちゃんの掛け声で、一歩を踏み出す。
びりっと電流が足裏に通った。いや、これは電流ではない。でも、じんじんと痺れるような波が足裏に押し寄せる。ついつい、膝がガクッと少し曲がってしまった。ただの岩山マットじゃないの?
「い゛ったーい!!」
あめちゃんが絶叫する。その弾みでバランスが崩れかかったのを私は両足で踏ん張る。転びはしなかったが、またびりっと痛みが走る。
「いい叫びですねー!!どうやら走者は激痛足ツボマットに大苦戦の模様!!未だ誰も通り抜けておりません!」
私たちの前には2組いた。皆一様に、痛みに耐えながらちまちま進んでいる。
私は息を吸い、ふーっと吐く。負けたくはない。
「あめちゃん、私に身を委ねて」
「…へ?」
「私が走り抜ける。いいから、ちゃんと掴まって」
肩に置かれたあめちゃんの手をぐいっと引っ張る。そうしてもなお、あめちゃんはぽけーとしていた。
両足にかかる痛みが……そんなものはない。走ればいいだけのこと。
一歩を踏み出した。
あめちゃんに借りた少女漫画を思い出す。
そう、私は白馬を乗りこなし野原を駆け抜ける王子と同じだ。
痛みなど考える隙もない。
守るべきものがある。
王子には姫が、私にはプライドがある。
そう、私は走る。黄金の長髪を風に揺らしながら走る。
王子として、いち悪魔として、こんなところで負けるわけにはいかないの…!
王子の如く颯爽と校庭に着地する。そう、それは敵国・ガラルドによる銃撃の雨をくぐり抜け、姫を無事城に戻すシーンのように。1巻7話149ページ。物語最初の山場。私はこのシーンが好き。
「グレイス…あっ、あめちゃん。着いたよ」
あ、王子にのめり込みすぎた。つい姫の名前が口走る。
「あ、あ、あ……」
「びゃぁぁぁぁぁあぁぁぁあああああああ!!!」
頬を赤く染めたあめちゃんの凄まじい叫びに私は思わず目を閉じた。




