28 -前日だよ!-
ベグ・ハーロップは校庭で顔をしかめていた。
正確にいうと、慣れないテント設営に手こずっていた。
「ベグ君!腹に力を入れるんだ!」
「はい!」
今は最終段階に入っていて、出来上がったテントを移動させているところだった。
意外とバランス感覚が取れなくて、僕の持つ支柱だけがゆらゆら揺れている。
「ベグ君!がんばれ!」
「はい!」
さっきから僕を鼓舞してくれる生徒は、いつしか画面で見たマッチョの1人であった。名前は知らないが、パンプアッ部の3年生らしい。今日の準備には、生徒会とパンプアッ部の協力を得ている。
パンプアッ部に所属する生徒は殆どがこの男子生徒のようにマッチョであった。きっと、そういう力自慢的な部活なのだろう。皆同じく、熱血で爽やかな雰囲気を醸し出していた。裏がなく、簡単にコロッと悩みを吐露しそうだ。いつかターゲットにしよう。
そう目論んでいる間も、僕の持つ支柱は依然揺れている。おかしいな。しっかり両手で持っているのに。
「猿島さん。彼は僕と同じで貧弱な人間なんです」
僕の隣の支柱を持つ赤毛の男子生徒がそう言った。貧弱って……
「ここです。下ろしてください」
赤毛の男子生徒の合図で、やっとテントを下ろすことができた。そのまま、固定する。
「本日協力してくださった皆さん、集まってください」
青鬼界雄の声が拡声器伝いに響く。その声につられ、生徒は集まる。
「今日は手伝っていただき、ありがとうございました。明日は体育祭当日です。しっかり休んで、明日に備えてください」
生徒会長は集まった生徒にそう声をかけた。そして、そのまま無言で隣の生徒の肩を組み出す。
周囲の生徒は一瞬ぎょっとし、理解した生徒から徐々に肩を組み出した。僕もそれにつられ、肩を組む。
そうして、生徒は円になった。
「明日!楽しみましょー!」
青鬼界雄のかけ声が響き渡る。
「おー!」
生徒一丸となって、声を出した。(何て言うのか迷って、僕が少し遅れたのは秘密にしておく。それと、少し晴れやかな気持ちになった事も、黙っておこう)
顔を上げた生徒は皆、清々しく笑っていた。いよいよ明日で、今まで準備してきたことの全てが昇華されるのだ。そう、明日はいよいよ体育祭だ。
夕日が校庭に伸びるとともに、カラスの声がうっすら聞こえた。




