27 -ゴーゴー!サマー!
バブル・ジーは寮部屋の床に寝っ転がっていた。
体育祭に向けての全校競技の練習が終わり、1日の義務は残すところ、放課後の部活動のみとなった。ベグが不在の今、私がやさしい悪魔部に顔を出さなくてはいけない。
でも、今日だけはサボらせてほしい。
全校競技の練習で体力がもうない。デヴィ学園でも運動をすることはあって、私は苦もなくそれをこなしてきた。
それでも、今日行った運動はいつもと違う筋肉を酷使するような、全く別物の運動という感じがした。とにかく、疲れた。今日はここから1ミリも動きたくない。
こんな姿を見たら、あの2人は失望するだろうか。不動の女王と噂されるままの姿ではない私に、がっかりするだろうか。
ここに来てから、私は新しい自身の一面を垣間見た気がする。でも、それが良いことなのか、悪いことなのかよく分からない。
そんな考え事をしながら、私はすっと瞼を閉じた。
――――
「バブちゃん!!どうしたの!?具合悪いの!?」
瞼を開けると、そこにはあめちゃんがいた。私の肩を掴むあめちゃんは、驚き、心配しているように見えた。
床ではなく、せめてベッドまでは動くべきだったかもしれない。大丈夫、と答えながら、私はそう、ぼやっと考えていた。
「大丈夫ならよかったよ〜」
「あのね!バブちゃんに言いたいことがあるの!」
体を起こし、改めてあめちゃんを見やる。いつもに増して、楽しそうだ。
「何?」
「ズバリ!問題です!テデン!」
リズムよく答えるあめちゃんを私はまじまじと見つめる。一体何なんだろう。
「明日から、何かが始まります。その何かとは、一体何でしょう!」
言い終わると同時にあめちゃんはこちらに手を差し伸べた。そして、チクタクチクタク、と楽しそうに首を揺らす。
私は少し考え、
「わからない」
と答えながら、あめちゃんの手を握った。
その瞬間、あめちゃんの目は点となった。徐々に目が開かれると共に、顔が赤くなってく。
「きゃわい〜い〜!!バブちゃんって、ほんっとうにかわいいよ〜!!」
あめちゃんは、そう天井に向かって吠えた。身悶えている。私はこの状況がよくわからない。
「今のはクイズを出す時のジェスチャーなの!バブちゃんも今度私に何かクイズ出してよ〜!」
上げた顔を下ろし、深呼吸した後、あめちゃんはそう言った。私は頷く。クイズ…何かあるかな。
「あ!そうそう!今のクイズの答えは、夏服!でした〜」
「…夏服?」
確かにここ数日はとても暑く、ブレザーではなくシャツ姿で過ごす生徒が多い。つい最近まで5月であったのに、もう夏だなんて。時の早さに戸惑うと同時に、試験の存在を改めて実感する。
「そう!しかもね、この学校、身だしなみに関係する校則とか無いし、シャツのタイプ幾つか選べるの!」
あめちゃんは立ち上がり、クローゼットの方へ駆けて行った。
「普通のワイシャツでも勿論可愛いんだけど…」
「見て!このシャツ、襟が丸襟なの!」
そう言って、ハンガーにかかった1枚の半袖シャツをこちらに見せた。あめちゃんは目を爛々と輝かせている。
「しかも、袖が少しふわってなってるのが、最高に可愛いし、ピンタックがついてて、本当にかわいいの〜!」
「本当だね」
ファッションにあまり興味はないが、確かにデザインは凝っていると感じた。あめちゃんに似合いそうなデザインだ。
「でしょでしょ〜!それにね、ネクタイを着けなくていいから、時間短縮にもなるの!大事でしょ!そういうの」
「うん、そうだね」
「ってことで、明日から一緒にこれ着よ!」
あめちゃんは満面の笑みを浮かべる。
いつもの私なら、考えることもなく無難にワイシャツを選ぶだろう。あめちゃんの誘いに乗る理由も、断る理由もない。
それでも、理由がなくても、今の私はあめちゃんと同じシャツに少し心惹かれている。
私はあめちゃんから目をそらし、よく考えた。
こういう経験は試験と共に終わり、それから一生経験しなくなる。それだけは、以前から確定事項のように感じていた。
あめちゃんがいるから、私は少し揺らいだのだ。あめちゃんがいなければ、こんな経験もうしないだろう。
それなら、今だけは、いつもの私と違った行動をしてみてもいいかもしれない。あめちゃんの奔放さに身を任せて、新しい経験をすることを良しとみなしていいかもしれない。
試験は有限で、自ずと終わるのだから。
そしたら、元の私に、周りが望む私に戻れば良い。
私は顔を上げた。
「うん、着る」
口角が上がっていることに、言ってから気づいた。
〈ひとことメモ〉
ピンタックが何か気になる方はぜひ画像検索を。




