25 -manomm in the zoo-
「ねぇねぇねぇ!君の飼い主は誰なの?」
「新しく来た留学生だよー」
「へぇー!そうなんだ!」
カバのプチはそう返事をし、大きな水たまりのような池に入ったり、出たりを繰り返し始めた。水に飛び込む度に、水しぶきが派手に飛ぶ。
「そうかぁ、それなら、お前さんとこの、おかっぱ頭と同じ所だなぁ」
ゾウのフルールは長い鼻で目の下あたりを掻きながら言った。
「あんたのくるくる頭と同じじゃなくて、マノムの飼い主も幸せね。あの子、関わりづらそうじゃない」
クジャクのエリザは小さな頭を180度回し、フルールと僕を交互に見やる。
「サオリはいい子だよ!それにシンジーもいる!」
水中でも聞こえるのか、プチは勢いよく水面から顔を出した。
「今日はシンジーが来てくれる日なんだ!僕、シンジー大好き!」
「ねぇねぇねぇ!君もシンジーに会ってよ!もっとここにいてよ!」
「うん、じゃあそうするー」
「ちょっと待った」
僕がプチの誘いに答えた時、エリザが止めた。
「マノム、あんた、ここ暑いでしょ」
「体調崩すから、今日はほどほどにしときな」
エリザの言葉を聞いたフルールは、僕をまじまじと見つめ、「確かにもこもこだぁ」と残念そうに頭を掻いた。
「僕は全然大丈夫だよ。シンジーに会ってみたいし」
「いーや!だめ」
「大丈夫だって」
「帰りなさい」
僕とエリザはどちらも譲らない。本当に僕は大丈夫なのに。ベグじゃあるまいし、ヤバくなったら途中で抜け出すことくらいできる。
終わらない言い合いは水しぶきによって終戦を迎えた。それはプチのものではなく、フルールの鼻から出たものであった。
打ち上げられた水はキラキラしながら、辺りに落ちていく。虹も見える。体に落ちた水は、冷たくて気持ちよかった。
「マノムは寂しいんだぁ」
フルールは水を散らすと、のんびりとした声でそう言った。
「んー。退屈なだけで、寂しくはないよ」
僕は正直に返す。
「無理しなくていいのにぃ。わしらも同じ気持ちだよぉ。なんせ、サオリは1日に数時間しか、わしらといてくれない」
「私たち、殆どほったらかし状態だものね」
「僕は楽しいよー!水があるからー!」
バシャーン!
「大丈夫。わしらは仲間だ。毛を短くしたら、またここに来なさい」
フルールはその長い鼻で僕の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「うん、そうね。話し相手が欲しくなったら、いつでも来てちょうだい。待ってるわ」
「え〜帰っちゃうの〜?次は僕と遊んでね!」
なんか帰らなきゃいけない空気になったから、僕はそのまま彼らに別れを告げた。
扉を抜け、外に出ると、風が穏やかに吹いていた。僕は道なりに歩き、寮の方へ向かった。まだ授業中だと思うが、なんとなく校舎には行きたくなかった。
――寂しい、ねぇ…。
言葉を噛み締めてみても、やっぱりそうとは思わない。変わらず、暇なだけだ。
それでも、この週末に美容室に連れてってもらおうかな、とは思った。これから、本格的に夏がやってくるし。
頼むなら、バブルだな。ベグはきっと雑用で忙しい。
鳥の鳴き声に惹かれ、頭上を見上げた。青空には飛行機雲がひとすじ、どこまでも続いている。




