23 -女神の笑み-
「俺たちは次から来ないから、裕子、案がまとまったら俺に提出してくれ」
自己紹介やスケジュール確認も済み、生徒会長は席を立った。叶屋裕子が返事をしたのを確認し、部屋を後にする。
「私も次回を楽しみにしているよ。それではお先に」
そう言い、副会長も退出した。
部屋には体育祭実行委員会の4人だけが残される。もうお開きであるのなら、僕も帰りたい。鬼がいない今、もう僕は自由の身だ。緊張も気力も抜け、すっかり脱力状態となっていた。
「ふーっ」
叶屋裕子が大きく息を吐いた。
「あの2人が会議の場にいると、緊張するね」
「早速、大まかな方針だけ決めちゃおう」
いかにも頼れる先輩って感じだ。僕は早く帰りたい。
「ぶっちゃけ、ここのひとたち、皆勝手に楽しむからなんでもよくねーって思いましたぁ」
山張苺が長い爪に髪を絡ませながら言った。
今頃、マノムは何をしているのだろう。僕は無賃労働をしているよ。
「うん、私もそう思う。生徒会長は全員が活躍できるようにと言ってたけど、去年の体育祭が楽しくなかったわけではないし、破陽羅武生はどんなことでも全力で取り組もうとするもの」
「生徒会長は完璧主義だから、考えすぎてしまうだけだと思う。1回彼の言葉は忘れましょ。それに引っ張られて、奇をてらった競技にする必要はない」
叶屋裕子の案に全員が賛同し、次回まで案を幾つか持ち寄ると決め、今日の委員会は終わりとなった。僕はいち早く、席を立ち、部屋を立ち去ろうとする。
案とかなんとか、適当に挙げておこう。こんなのに一生懸命頭を使い、時間を割くのが勿体ない。
「待って。ベグ君」
叶屋裕子の声に僕は振り返った。
「今日、体調悪かったの?黙り込んでいたから」
女神のような笑顔であった。あまりの美形さに、僕は思わずどぎまぎしてしまう。
「あ、い…」
「具合が悪かったのよね。でなきゃ、あんなに非協力的なわけないもの」
「次までにはしっかり治して。しっかり頭を動かしてちょうだいね。分かってると思うけど、生徒会長はいつでも顔を出せるよ」
叶屋裕子は変わらず笑顔であった。なのに、何故か僕の背筋には悪寒が走る。気のせいだろうか、言葉の圧が彼女の心情を物語っている様な気がする。
あからさまに脅しに来る、青鬼界雄とは違う何かが、彼よりももっと深い所で根づく何かが叶屋裕子にはあった。
「はい。……ちゃんと治します」
僕は瞬時に悟った。ーーこの人を満面の笑顔にさせてはいけない。




