22 -雨の日-
「バブちゃん!見てー!雨降ってるよ~!」
あめちゃんは寮部屋の窓から、外を眺めていた。私はあめちゃんから借りた古い少女漫画を読みながら、「うん」と返事をする。
「私、お休みの日の雨は好きなんだ~!サーッて音が心地良いよねぇ」
「うん」
「ねぇ!今日、鈴カステラ作らない?」
「うん」
「……ちょっとだけ、たこ焼きと似てるよ」
私は漫画から目を離し、あめちゃんを見上げた。あめちゃんの頬が染まり、口角が上がる。背後には、細やかな雨が降り注いでいる。雨とあめちゃん。同じ名前だなって思った。
「作りたい」
あめちゃんの表情は、更に晴れた。「やった!早速、行こっ!」と言い、私の腕を引っ張っていく。私たちは、腕を組みながら部屋を後にした。ささやかな雨の音だけが、私たちを包んでいく。
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ピッカラゴロゴロズダーン!
ひとつの派手な雷と共に雨は力を増した。あの曇天は、今や立派な雨雲へと変化していた。幾度なく光る雷が、うす暗い部屋を刹那的に照らす。例外なく、ここにいる誰もが、顔に濃い陰影を落としていた。――電気つけないのか?
僕を含め、体育祭実行委員はコの字型に座っている。もちろん、中央に座るのはあの人である。
「今から体育祭実行委員会の顔合わせを始める。各自自己紹介しろ」
生徒会長、2年白組。青鬼界雄。言うまでもない、大衆の前では猫を被るサディスティック野郎。
「2年紅組、叶屋裕子です。やるからには、過去最高の体育祭にしましょう。よろしくお願いします」
廊下で見た美形の女子生徒だ。立ち振る舞いも喋り方も、どこか周りと違う品を感じる。一体、何故だろう?
「……」
「あ、彼は2年白組の三枝弓一郎君だよ。彼は喋らないから、私が代わりに。」
「彼はIH経験者なんだよ」
紹介された男子生徒は変わらず無言のままであった。制服を着ずに、袴を着ている。毛量の無さそうな長い髪は後頭部でひとくくりにしていた。目は開いてるのか分からないほど細く、どこを見ているかも分からない。――喋らないって、その状態で委員会に入って大丈夫なのか?
「私は副会長の銀英ルイ。毎回、顔を出すことはできないけど、ぜひ力になりたいと思っているよ。よろしくね」
先程、三枝弓一郎を紹介した男子生徒だ。銀髪マッシュに黒縁眼鏡をしている。彼は座らず、生徒会長の後ろに立ち、張りついたようにずっとニコニコしていた。きっと陽気な人なのだろう。――いざとなったら、この人間に助けてもらおう。僕は、そう心に決めた。
「1年白組、山張苺でーす。ウチらしく働きまーす。よろしくお願いしまーす」
いつしかの山姥だ。律儀にその長い爪にはイチゴとレモンが交互に描かれている。僕はただ、彼女が選ばれた理由を知りたい。
全員の目線が僕に向けられる。
「あ、僕は留学生のベグ・ハーロップです。精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
ピッシャガラゴロゴロズドーン!
一際大きな雷が落ちた。あまりの不穏さに、内なる不安がどんどん膨張していく。
〈ひとことメモ〉
無事、鈴カステラを食したバブル。本人は鈴カステラよりも、一緒に飲んだいちごミルクにときめきを感じた模様。




