21 -まじぱなーい-
気が進まない。
窓の外の曇天と僕の心はリンクしていた。『体育祭実行委員会』と書かれた貼り紙をただじっと見つめたまま、扉を開ける気にはなれない。今日は体育祭実行委員の顔合わせ。扉を開ければ、僕と同じように生徒会長にスカウトされた人間が集まっているのだ。
このまま扉を開けたら、いよいよ後戻りできなくなる。容赦のない土下座の日々が僕を待っているんだ。そう思うと、手足は止まり、体が固まる。そうして、扉を睨み続けたまま、時間だけが過ぎていった。
「入らないの?」
背後からの声に僕は振り返る。その女子生徒はとても綺麗だった。背が高く、上品で優しそうな表情をしている。彼女からは、マノムが犬になる前のオーラと似たようなものを感じる。ーー圧倒的美形から溢れる輝きだ。
「私、先入っちゃうよ」
その女子生徒は、扉を開け、部屋の中へと入っていった。
ーーまともそうな人だ!
僕はひとりで感動していた。本当にどこからどうみても、普通の人間であった。変な見た目でもなく、変な言動もしない。この学園で普通の人間なんて、佐藤はじめ以来ではないだろうか。
この部屋に入ったということは、あの女子生徒も体育祭実行委員ということなのだろう。背中にのしかかる負の感情がだんだんと軽くなっていく。
そうだ。きっと、大丈夫。なんせ、生徒会長がスカウトした生徒達だ。僕みたいに、常識の備わった人間に違いない!
僕は完全に負の感情を振り落とし、満面の笑みで扉を開けた。
グサッ。
扉を開けた瞬間、僕のすぐ横の壁に小さい矢がささる。満面の笑顔のまま、冷や汗が一筋、僕の頬を伝っていく。ーーへ?
「うっわぁ!まじぱなーい!あんたガチの天才じゃーん!」
「……」
部屋の奥には、おもちゃの弓を持った男子生徒といつしかの山姥がいた。さっきの女子生徒は席についたまま、笑顔で彼らを見守っている。
僕は1回頷き、回れ右をした。
「邪魔だ。早く座れ」
背後には、かの生徒会長と銀髪の男子生徒がいた。
もう、逃げ場は何処にもない。また一筋、汗が流れていく。
窓から見える曇天は徐々にその黒さを増していた。
〈ひとことメモ〉
デヴィ学園生は自身の見た目を技術で変えることを禁じられている。卒業すれば、そんなルールもなく
、自身で大体のことを決めることができる。(しかし、人間界との行き来だけはきつく制限されている)




