20 -僕は悪魔で、-
「頼みとはなんでしょうか…」
僕は半泣き状態でそう言った。部活にではなく、僕個人への指名だ。どんな内容でも、地獄よりも劣悪な環境に身を置く羽目になるのは明らかであった。…もうやだ。僕は土下座なんてしたくないよ…。
目の前に座る青鬼界雄はパソコンを机の上に置き、キーボードをいくつか叩いて、画面をこちらに見せた。
「これを見ろ」
言われたまま、ディスプレイに視線を落とす。
画面に映っているのは、破陽羅武学園のグラウンドだ。しかし、いつもの姿とは違う。いくつものテントが設営され、地面には白い粉でコースが作られている。
――体育祭だ。
僕はすぐに理解した。
良かった。今まで、必死になって勉強してきたことは、決して無駄になどなっていなかったんだ。
そう心にほの温かいものを感じていると、突如数人のマッチョがコースを走り去っていった。一瞬で画面から消えていく筋骨隆々な人間たちに、僕は唖然とした。
こんなの、野生動物の群れじゃないか。これがこの学園の体育祭なのか?これじゃ体育祭というより、十二支争奪戦じゃないか。
「駄犬面で俺を見るな。まだ続きがある」
生徒会長に言われ、上げた顔を大人しく下ろす。
次の走者が画面に映る。僕は胸を撫で下ろした。廊下でよく見る、平均的な体格をした走者であった。
実を言うと、さっきのようなマッチョを学園内で見たことがなかったから、生徒揃ってドーピングにでも手を出したか、それとも、勝利を渇望するあまり外部の人間を呼んだのかと一瞬頭をよぎっていた。
6人の走者はコースを走っていく。真っ直ぐに進み、あ、1人転んだ。えっと、先頭はカーブに差し掛かろうとしている。あ、転んだ。また1人転んだ。まだ、誰もカーブを走りきっていない。1人転び、起き上がる。そして、また誰かが転ぶ。……徒競走ってこんなに転ぶものだったか?
「これで分かっただろ。この学園は著しく運動に弱い。」
「学園独自の入試様式のせいで、どうしてもこの学園には個人主義的な文化系が多く集まっている。そんな奴らからしたら、豚のように走らされる体育祭なんて、ただの拷問だろ?」
生徒会長はそこまで言うと、パソコンを閉じた。そして、また僕の目を潰すかのように睨みつける。
「そこでだ。お前には体育祭実行委員をやってもらう」
「多数派を代表する生徒として、全員が活躍できる体育祭を企画してくれ」
生徒会長は流れるようにすらすら話すが、僕の脳内はちょっと待った!状態であった。突然すぎるし、訳わかんないし、やりたくない。まぁ、案の定、口には出せないが。
でも、僕は断らなくてはいけない。体育祭実行委員なんて、いかにも時間を浪費しそうではないか。しかも、僕自身が動かなければいけないから、命を稼ぐこともできない。――これは無駄働きだ。
大丈夫。僕は悪魔で、相手はただの人間だ。
「あの、部活が忙しいので…」
「俺のスカウトを断るのか?」
「いえ、やらせていただきます」
はははっ、いっけない!こいつは人間じゃなかったぁ!
僕は泣きたい心で笑った。
<ひとことメモ>
ビジネスは技術で人間の要望を叶えなくてはならない。自分で肉体労働をした結果、人間の願いが叶っても、その人間から命を儲けることはできない。
※占いや提案系の願いの場合、腕時計に表示されるものを読み上げる。自身の考えを述べてはならない。




