19 -恐怖政治の実態-
静かだ。
生徒総会真っ最中。壇上で何かを話す人間の声だけが、講堂に響いている。
私語を話す者がいないのは勿論、物音を立てる者も少ない。かと言って、寝ている訳でもなく、皆揃って壇上の方へ顔を向けている。
初日の自由奔放さからは想像できない群衆の姿であった。
話者が生徒会長に代わる。
先の鬼のような姿とは打って変わり、聖者のように語り始めた。ただのスポットライトが後光へと変化していく。
皆、騙されるな。これは、営業スマイルだ。――多分。
静寂のまま、呆気なく生徒総会は終わった。帰りはクラスごと順番に帰るようで、今はその順番を座って待っている。
始まる前は一体どんな恐怖政治が展開されるのか、恐怖心でいっぱいだったが、どうやら怖がり損であったようだ。
壇上の生徒会長はどこから見ても、人が良さそうな立ち振る舞いであった。僕が廊下で見た姿が見間違えだったのだろうか、とさえ思う。でも、あの姿も確かに青鬼界雄そのものであった。
――これは、ますます関わりたくねー。
二面性のある人間なんて、面倒なだけだ。僕は顔を歪ませる。
まぁ、いくら生徒会長だからといって、生徒全員に関わる訳ではないし、こちらから避けていれば大丈夫だろう。うん。
そう自分に言い聞かせた所で、ちょうど1年紅組の順番が来た。僕はそのまま人波と共に講堂を後にした。
――――
同日、放課後、やさしい悪魔部。
初夏の朗らかな日差しが部室内を優しく照らす。
僕は滝のように汗を浮かべて、命の危機を感じていた。(命を落とすことはないので、正確に言えば、精神崩壊の危機。ってか、そんなのどうでもいいわ!助けて!誰か!助けて!なんでこんな時に限って、誰もいないんだよ!チクショー!)
「お、お茶でも飲みますか?」
「それを言うのなら、俺が座った時点で言うべきだ」
「それに、ミルクティーを持参しているからいい」
御伽噺の商人の如くごまをする僕をよそに、正面の人物は赤い水筒の蓋を開け、こぽこぽと茶色い液体を注いでいく。
「あはぁ……そうですか」
僕は不自然な笑みを溢し、更に多くの汗を流す。
(早く!早く誰か来い!マノムなんて、あいつ絶対どこかで昼寝してるだけだろ!さっさと来い!)
「お前に頼みたいことがあって来た」
僕にとって、時の人である生徒会長・青鬼界雄は水筒を置くと、両腕を太ももに置き、前のめりになって僕を真っ直ぐに見つめた。視線の圧が流れる汗を加速させていく。
「はい!僕たちやさしい悪魔部、全身全霊を尽くし、生徒会長の望みを叶えさせて頂きます!」
嫌だ……逃げたい。誰か……
「部活にじゃない。お前に頼みに来た」
眼光がギラリと輝く。僕の寿命が縮まった。
お願いだから、誰か助けてください。
〈ひとことメモ〉
人間ほど多様ではないが、悪魔も様々な性格や意思を持ち合わせている。




