1 -人間界へ-
「だって、僕たち悪魔じゃん」
「そんなにキメなくていいよ」
僕の一言にマノムは意地悪く笑った。それと同時にマノムのウェーブのかかった金髪がふっと揺れる。何故、こんなにも一挙一動が美術作品となるのか。ひたすらに、憎たらしい。
[仮試験終了。エリートたちは学園長室に]
アナウンスが暗い部屋に響く。
「お、どうなっても恨みっこなしねー」
マノムは席を立ち、僕の肩を叩く。どうして同じ悪魔でありながら、彼の頭はこんなに上にあるのか。そうマノムの後ろ姿を見ているうちに、僕の横をバブルが通り過ぎる。空っぽの部屋に残された僕は慌てて2人の後を追った。
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デヴィ学園。1人前の悪魔を育むべく創設された地獄における唯一の教育機関であります。悪魔として生まれてきた者、又は堕天した元天使が当学園に通っています。
当学園では「基本的世界の構図」から学習が始まり、悪魔の振る舞い、人間との関わり方など悪魔として必要な知識、技術を学ぶことができます。親身になって教育致しますので皆さん安心してくださいね。
通常、卒業後は地獄での勤務になりますが、当学園における成績優秀者「エリート」は人間界で働くチャンスが与えられます。人間界での勤務は出世コースなので、えぇ、素晴らしいでしょう。皆さんもぜひ目指してください。寮生活において、交友関係において、地獄において、未来において、「エリート」はとっても魅力的な地位でありますからねぇ。
あ、ちょうど6学年のエリートが来ました〜。皆さん拍手!…はーい。この3人は、知識・技術・実践の分野でそれぞれ1位常連生です。これから人間界での勤務をかけて試験を受けるところなんです。どうか拍手で応援してあげてください。
…はーい。皆さんも彼らのようにぜひ勉学に励んでくださいね。では、転入生説明会を終わりにします。そちらのドアから出てくださいねぇ。
「あ、3人とも仮試験合格ね〜」
天国からの転入生を帰し、学園長が振り向きざまにそう言った。随分と呆気ない合格発表だ。学園長は仰々しい自身の席につき、くるくると椅子を回転させている。
「まーねぇ、私も仮試験なんて要らないと思うんだけど、やっぱり伝統だからさぁ」
学園長は蛇のような髪を指で絡めては、離す。その度にカールの強い髪は行儀良く元の肩上に戻る。いつ見ても、その不自然な動きは本当に蛇のようだ。なお変わらず、椅子は回転を続けている。
「でも、特別卒業試験は絶対に手こずるわよ」
椅子の回転をタイミングよく止め、鋭い目線を送る。
「次の試験内容は…」
「仮試験と同じ。ビジネスです」
学園長の言葉を遮り、バブルが口を開く。
「人間の欲望を技術で実現する代わりに、それ相応の命を貰う。それがビジネスです」
「…そうね、でも」
「本試験は100年分の命を集めるまで帰れない。期限は人間界における3月まで。期限内に集められなかったら失格」
次にマノムが話す。学園長は仏頂面でそれを聞いていた。
「もう確認することないですよねー」
「…ないわ」
「毎年同じ問題で手抜きしてるからですよー。じゃ、いってきまーす」
僕がそう言ったのを皮切りに、各々挨拶を済ませ学園長室の扉を開ける。学園長は終始面白くない様子で僕たち3人の門出を見届けていた。
「人間界〜美味しいものたっくさ〜ん」
「たこ焼き食べたい」
マノムは両腕を頭にまわし、ご機嫌そうに歌っている。バブルは前回の訪問で随分たこ焼きが気に入ったようだ。僕たち3人は転送装置のある部屋に向かうべく、殺風景な廊下を進んでいた。
「ってか、僕らなら日帰り旅行になっちゃうな」
「それは当たり前」
僕の一言にバブルがボタンを押しながら応える。開かれたドアの先にはお馴染みの巨大な転送装置が5台置かれていた。まさに人間界へのエレベーターだ。
「明日には1人前の悪魔か…」
「えー1日で終わっちゃったら、全然美味しいもの食べれないじゃん」
「たこ焼きは食べる」
「いや、タイ料理!パクチー食べたい!」
「たこ焼き」
僕の感慨をよそに、2人は食事論争をおっ始めていた。各々が転送装置に入り、壁にあるシートベルトをつける。
「ねぇ、中間とって焼肉はどう?」
「絶対ない」
「ありえない」
僕たち3人は人間界へと向かった。
Beg Herlop
Manomm
Bubble•zee




