16 -対峙!山姥!ひぃ!-
届け出から、1週間が経った。
既に部室は用意され、最低限の家具も揃い、この狭い一室は僕たち3人の拠点となっていた。扉前には、『やさしい悪魔部 〜あなたの悩み解決致します〜』と書かれたコピー紙が貼られている。
全校生徒にも、新聞部のおかげで新しい部活ができたことは周知の事実となっていた。
――なのに、何故。……何故!
「何故、誰も来ないんだぁぁぁぁあああ!」
ベグ・ハーロップは頭を抱え、うなだれる。
バブルはソファで読書をし、マノムはだらけている。各々が思い思いの時間を過ごしていた。
暇なのだ。昼休みになっても、放課後になっても、客足がつくどころか、誰1人訪れない。
「今頃、中間テストの対策に悩む生徒でごった返しているはずなのに……!」
僕は歯を食い縛る勢いで悔しさをあらわにした。
「佐藤が言ってたじゃん。皆、地道に勉強した方が後々楽になることを理解してるってさ」
マノムが怠そうに転がりながら言った。
「なにそれ!!なんでこの学校の生徒はこんなにも、変なところで大人びてるんだよぉぉぉおお」
「1人くらい、他人の力を借りようとする人間がいてもいいじゃぁぁぁぁああん!!!」
僕の情けない叫びが虚しく部室中に響き渡っていた。
トントントン。
僕はその乾いた音をいち早く察知し、叫ぶのをやめた。大股で扉の前へ闊歩していく。
聞こえた音は、控えめに扉を叩く音であった。ドンドンドン、ではなく、トントントンである。いかにも悩みのある人間がだす音って感じではないか。
お客様1号の大切さを僕は知っている。新設された部活という話題性に溢れているおかげで、1号の評価は学園中に広がるだろう。それが新たな客を呼び寄せる良いものとなるか、逆に悪いものとなるのか。この1号にかかっていると言っても過言ではない。
僕は扉前で一度呼吸を整える。そして、爽やかな笑みを浮かべ、扉を開けた。これぞ完璧なお出迎えだ。
「ようこそ!やさしいあ……ひぃぃ!」
――ひぃぃぃ
お客様1号を見るなり、僕の脳は落雷を受けたかのように思考停止状態になった。頭を占めるは、『回れ右』の赤文字。僕は勢いよく扉を閉め、2人の元に泣きついた。2人の痛い視線など、今は気にしてられない。
「来たんだ!や、山姥!学園購買部の、山姥がここにいる!!」
そう、あの誰もが恐れる山姥さんが扉の先にいたのだ。何故だ、何故だ。僕は壊れた脳を必死に奮う。
――もしかして、もう時間切れだというのか。初日の隕石、100年分の命を、もう取り立てに来たというのか。いや、でも、しっかりと試験期間以内と僕は聞いたはずだ。何故、地獄にいるはずの山姥さんがこの人間界にい
「山姥とか酷くね〜。こちとら、時代最先端突っ走ってるんですけどぉ」
あれこれ考えているうちに、山姥さんは扉を開けて中へ入ってきていた。僕は彼女をまじまじと見つめる。
――声が綺麗だ。全くしゃがれていない。……山姥さんじゃない?
「1年白組の山張苺でーす。お願いがあって、今日は来ましたぁ」
山姥さんと同じ見た目――焦茶色の肌に、白い瞼と唇、枠を飛び越えた大きすぎる黒い目。極め付けは、ガーゴイルを彷彿とさせる、狂気的な長さの爪――を持つ、山張苺という人間は、華麗にウィンク&ピースを決めていた。
<ひとことメモ>
地獄には悪魔の他にも、ガーゴイルのような怪物がうようよいる。それらをペットとして飼っている悪魔もいれば、苦手な悪魔もいる。




