13 -花園の住人たち-
「お、お客さんかな。いらっしゃい」
「あめ君もおはよう」
あめちゃんの大きな声で訪問者に気づいたのか、奥から違う人間が顔を出す。人が良さそうな男子生徒であった。
「部長〜おはようございます!」
あめちゃんが元気よく挨拶を返す。それを見て私も「はじめまして」と一礼する。
「はじめまして。私は銀英ルイ。秘密の花園部の部長を務めているよ。よろしくね」
そう言い、片手を差し出す。私は促されるまま、握手をした。銀映ルイという人間は名前の通り銀色の髪をしていた。黒縁眼鏡の下にある目は笑っているせいで、どんな瞳をしているか分からない。
「君のことは知っているよ。昨日来た留学生だろう?」
「はい、バブル・ジーです」
「バブちゃんはイギリスから来たんですよ〜」
あめちゃんがそう言うと、その人間は嬉しそうに目を見開いた。
「そうなのか!私の母もイギリス人でね、幼少期はロンドンで過ごしていたんだよ」
「せっかくだから、紅茶を淹れよう」
その人間は部屋の奥へと消えていった。あめちゃんは私を手前にあるソファに促す。私はその花柄のソファに座り、部室を見渡した。人形に食器に置物。アンティークの雑貨で溢れていてよく見えないが、奥の方には本棚と作業机があるようだ。暫くすると、ティーセットを持った人間がやってきた。
「秘密の花園部はね、各々が信じる浪漫は勿論、世の中に存在する全ての煌めきを追うことを主とした部活なんだ」
カップに注がれる赤茶色がどんどんと濃くなっていくのを私はじっと見守っていた。彩度を増すたびに、林檎の甘い匂いが広がっていく。
「バブ君は入部希望なのかい?それとも、あめ君に無理やり連れて来られたの?」
人間はポッドを置く。それにつられ、私も顔を上げた。人間は私をまっすぐ見つめる。その目からは何も読めない。平気で嘘をつきそうでもあるし、誠実そうでもある。果たして、この人間の近くにいて問題ないだろうか。
はっと気づく。
ーーこれは人に本性を決して見せない人間が持つ目だ。
隣ではあめちゃんが「違いますよー」と不自然に顔を歪めていた。
「まだ決めていません。よく考えます」
私はそう答えた。事実、2人に相談せずに、勝手に入部するつもりはない。それと、この空間に嫌悪感を抱くこともなかった。
「うん、そうするといいよ。兼部もできるからね」
銀英ルイはカップを口に運ぶ。私もひと口それを飲み、立ち上がった。口の中には甘い余韻が残っている。
「私、そろそろ行きます。ありがとうございました」
そう一礼し、通ってきた扉の元へ向かう。長居しても意味がない。ドアノブに触れる。
「…たこ焼き買ってこよっかなぁ。ね!部長も食べたいでしょ?!」
背後にいるあめちゃんの声が私の動きを止めた。銀英ルイは「ん?うん、そうだね」と答える。顔だけ振り返ると、あめちゃんは子犬のような目で私を見上げていた。
ーーたこ焼きが食べれる。
私はそのままソファに戻り、ぽすっと腰を下ろした。
<ひとことメモ>
銀英ルイは3年紅組。




