10 -始まる日常-
「えー、改めて作戦会議をしたいと思います」
あれから午後の授業は中止になり、生徒は寮での待機となった。今、僕たち3人は1階の共有ラウンジの一角で、しょんぼりと座っている。
「これは長期戦の方が良さそうだね〜。3月までに集めればいいんだから地道にいこーよ」
マノムがソファの上でくつろぎながら言った。僕は「うん」と気持ちのこもっていない返事をする。現実を受け止めるのは辛いことだ。しかも、僕たちが集めなくてはならない命は100年分から200年になってしまった。3人を包む空気は、どうしてもどんよりと重い。
「あ!バブちゃん、ここにいたの?」
いつのまにか、授業中騒いでいた女子生徒が背後にいた。バブルは「あ、あめちゃん」と明らかに戸惑った様子で返事をしている。
「さっきは怖かったねぇ…ねぇ!今から映画見るの!よかったら、一緒に見よ!」
あめちゃんという生徒は、バブルがうんともすんとも言わないうちに、腕を掴み、颯爽とバブルを連れて行った。
「まず、邪魔の入らない3人だけの場所が必要だな」
連れ去られるバブルを見守りながら、僕はそう呟いた。
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バブルが連れ去られたのを機に、マノムと2人で寮部屋に行ってみることにした。数時間前の自分たちがこの姿を見たら、ひどく失望するだろう。まぁ、しょうがない。今の僕たちに失敗を引きずる暇はない。
エレベーターで3階に上がる。寮生活において必要な荷物とお金は学園長が用意しておいてくれたはずだ。
「美味しいものでも食べなね」
僕の腕の中にいるマノムは、こちらを見ずにそう言った。マノムが誰かを気遣うことは珍しい。なんだか面白くて、僕はふっと笑ってしまった。「うん、ありがとう」僕は心からそう返した。
エレベーターの扉が開き、長い廊下が姿を現す。木目調の床に白い壁が柔らかな雰囲気を醸し出している。僕たちは「303」のドアを開けた。
「お、来たね。ベグ君とわんちゃんは左側のスペースを使って」
扉の開いた音に気づいたのか、佐藤はじめは読み途中の本を机に置き、こちらを向いた。僕は軽く返事をし、部屋を見渡す。寮の部屋は扉を境界に対照的な作りになっていた。両壁に沿ってベッドが2つあり、その背後にクローゼットがある。ベッドの隣には学習机が2つ並び、その間に小窓が位置していた。
個人スペースが分かりやすい相部屋でほっとした。これなら、荷物が混ざることもないだろう。僕はマノムを床に下ろし、左側に固められた荷物をほどきだす。
「やっぱり、ベグ君日本語上手だね。もう日本人レベルだよ」
佐藤はじめはまた本を手にし、ベッドに腰かけながらそう言った。ーー留学生が流暢な日本語を話すなんて、不自然だろうか。僕は一瞬どきっとし、彼の表情を見やる。しかし、こちらを見る佐藤はじめは何も考えていなさそうな穏やかな顔をしていた。
ーー大丈夫か。
僕はその菩薩の表情に、そう安堵した。
〈ひとことメモ〉
学生寮は4階建て。一階共有フロア。2階から4階は男子学生フロアと女子学生フロアで分かれている。




