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9 -踊-


 突如現れた巨人に僕たちは言葉を失っていた。


 こんなのもう、人間じゃない。その巨人は破陽羅武学園の制服を身につけていた。どこから来たのかはわからないが、足下の設備や人を踏まないように恐る恐る一歩を踏みしめているように見える。その穏やかな目からも、この巨人が何か害をなすようには思えなかった。


「皆さん!メルちゃんです!えぇ、私も久しぶりに彼女を見ました!さぁ、彼女の進路から離れてください!彼女ならどうにかしてくれるかもしれません!!皆さん端に動いてください!!」


 ヘリコプターから聞こえる声に力が増す。生徒はそのアナウンス通りに校庭の端へとはけていった。やばいぞ。どうにかしなくちゃ。邪魔されたら困る。しかし、こんな巨人相手にどうすればいいんだ…

 

 バブルは一筋の汗を浮かべ、マノムは驚きながらもそれを楽しむ様子で隣に立っていた。僕が…僕がなんとかしないと。握る拳に力をこめる。しかし、対策が頭に浮かばない。なんせ、巨人を見たのは勿論今回が初めてだし、人間界の知識として今まで学んできてもいない。…こんなのどうしようもないじゃないか。


 巨人は校庭の真ん中へと辿り着いた。生徒たちはじっと、彼女を見守っている。ゆっくりと落ちてくる隕石は既に、その岩肌を目視できるほどに近づいていた。きっと、ここが都市の高層ビル群であったら、今頃大惨事となっていただろう。


 言っても、彼女に何ができるんだ。先程の校長先生みたいに早く失敗して退場してしまえばいい。そしたら、今度こそ、僕たちが行くんだ。


 巨人は見上げる。そして手を伸ばした。膝を軽く曲げ、地上を蹴る。その風圧で校庭に砂吹雪が舞った。巨人は空中に浮かび、両手を隕石に触れる。そして、そのまま隕石を指先で押し返した。そのさまは、バレーボールのトスの動きによく似ていた。隕石は元きた道を戻るかのように空の彼方へ飛んでいった。


 巨人が再び地面に足をついた影響で、校庭に砂嵐が舞う。生徒たちはこの一連を息を呑んで見守っていた。やがて、砂が落ち、元の校庭を取り戻していく。頭上には不自然な影もなく、ただの青空が続いていた。


 群衆は喜びの声を上げた。生徒たちは各々校庭の中央へ走っていき、巨人を囲みだす。周りの人と手を取り合い、巨人を中心とした大きな円が出来上がった。そして、マイムマイムと意味のわからない歌を歌い、踊りだす。異様なほど、軽快な調べに鳥肌がたった。


「メルちゃんありがとう!私たちを、この破陽羅武学園を、救ってくれてありがとう!あなたはこの学園のヒーローです!さぁ、皆さん歌いましょう!踊りましょう!共に喜びを分かち合いましょう!」


 ヘリコプターからの声は涙ぐんでいた。いつのまにか奇妙な歌には生徒による生演奏がつき、ヘイ!ヘイ!と揃った掛け声が校庭に響き渡っている。


 僕たちは失敗してしまったのか?まだ、それを受け入れることができず、屋上から茫然と騒ぎを見下ろしていた。


 マイム、マイム、マイム、マイム、マ・イ・ム!ベッサンソ!


 どんな悪魔崇拝よりもおぞましい光景であった。

〈ひとことメモ〉

メルちゃんは破陽羅武学園の生徒だが、他の生徒が彼女を見る機会はほとんどない。

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