宣言と勉強と。
日付が変わり、すっかり朝の8時半頃。侍女たちに起こされベッドから出る。まだ5歳、少し我儘な困ったお嬢様で許されているみたいだ。周りに嫌われてないようでほっとする。
「お嬢様、体調の方はもう良くなられましたか?」
「うん、心配してくれてありがとうマリア」
ふっくらした侍女頭、マリアに顔色を確認される。昨日、記憶が戻って急変した私の態度は彼女らには体調不良と認識され、1日ふかふか天蓋付きベッドで過ごすこととなった。
余談だが貴族のベッドは最高の寝心地だった。最初はこんな豪華なベッドで寝れるか!なんて庶民ぶってみたもののよく考えればエマ・バートンとしては5年もこれで寝ていたのだ。寝れないわけがない。
「今日は何のお勉強をするの?」
「、お勉強、ですか?」
着替えさせてもらいながら質問する。
これまでの記憶だと貴族の子供には当然最低限の学が必要で、ちゃんとした教育を受けるのも受けさせるのも義務だと考えられているのだが、
「お嬢様がそのような質問をなさるのは初めてですね、、」
心底驚いた、という顔で呟かれる。エマはあまり勉強が好きでなかった。頭が悪いわけではないが飽きっぽい性格のため何かをずっと続けることが苦痛だったのだ。文字だって、専属教師が王子の名前を出しながらお菓子を与えながらと苦戦していたようだ。
しかしながらこれからもそうする訳にはいかない。頭の良さだって1つの好感度ポイントなのだ。そのことに気がついた今、折角の学習の機会を手放してはならない。
そしてなにより律自身は勉強が結構好きだった。
同時に負けず嫌いでもある。そうでないと音楽なんてやってられない。王子は兎も角、バートン家以下の貴族たちに負けて学校で馬鹿にされるなんて絶対嫌だ。この世界では受けた教育も1つの家柄自慢なのだ。家族の為にも、恥を晒すわけにはいかない。
「あのね、私、変わろうと思ったの。」
子供らしく、素直に伝える。
「沢山のことを知りたいし、勉強も得意になりたいし。お友達が沢山できるような、素敵な人間になろうと思って、、、今からでも間に合うかは、分からないけれど」
「お嬢様、、」
「だからね、マリア。もし私が間違ったことをしていたら教えてほしいの。勉強でも、お作法でも、振る舞いでも。」
私が、生き延びるために。
マリアはひどく驚いたように私を見た後、にっこり笑って言った。
「承知致しました、お嬢様。、、お嬢様なら、きっと大丈夫ですよ。」
ーーーーー
そんな朝を過ごし、私は今どデカいテーブル(明らかに高級)に1人でつき、食事をとっている様をガン見されている。
言わずもがな昼ごはん、、を兼ねた、マナーのお勉強だ。
「お嬢様、フォークの握り方が。」
「お嬢様、ナイフはそのように扱ってはいけません」
「お嬢様、お口周りが汚れております」
正直すでに成人を迎えていてこんなにダメ出しされるとは思っていなかったがまあ仕方ないとも言えるか、、、と心の中でため息をつく。なにせ私はお箸文化に慣れきった生粋の日本人なのだ。本来のエマとそんなに変わらないレベルからのスタートにはなるが、諦める気はない。
マリアをはじめ、朝食時に両親やメイドたちなどなど多方面に頑張ると宣言した手前きちんとしなければ。
それに、今日はまだ楽しみが残っている。
「ご馳走様でした。」
「お嬢様、それではお部屋に戻りましょうか。」
「ありがとう、セレナ」
今日、私よりやる気を出した周りは朝から凄まじい詰め込み教育を行った。前世で言う国語、算数、歴史、外国語、体育、、、そして今終わったマナー教育。因みにトントン拍子にこなして5歳のレベルではなくなってしまった教科もあるが早いに越したことはないだろう。嬉し泣きした先生もいた。
そんなこんなで現在、粗方マストな教科は終わったはずだ。
そう、、、
あとは音楽!!!!
何の楽器をするんだろう、、どうだろう、もしかしたら楽器はもう少し大きくなってからかもしれない。始めるなら絶対早い方がいいけど、、、、。あぁでもダンスでも何でも、音に触れられるなら何だっていい、、、!!
「それではお嬢様、本日は大変お疲れ様でした。頑張っていらっしゃいましたね。」
「ふふ、ありがとう。ねぇ、それで次は、、、」
さあ音楽って言って、、!ダンスでも構わない、、!!
「お次はもう何もありませんよ、お嬢様の意欲が素晴らしく、予定よりずっと早く全て終わってしまったのです。皆感心しておりました。」
「、、、、、へ?」
私の専属メイドの1人、セレナは明日からはきっともっと大変になりますね、応援しておりますよとにこにこしている。かわいい。私はセレナが大好きなのだ。
、、ってそうじゃなくて、
「せっ、セレナ、楽器は、、、?!」
「、、、、"がっき"、ですか、、??」
、、、、、あれ??