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第六話 邂逅

一話の文量が長いと思ったので少し短くしました。

「おっ! 優〜おっはよ〜! で、どうだった?」


 小清水さんと協力関係になった翌日、学校に登校すると同時に響也がニヤニヤとした顔で話しかけてきた。


「どうだったって……何がだよ」


「決まってるでしょ! 昨日小清水さん家に呼んだんでしょ? 若い男女が誰も居ない家で二人きり。何も起きないはずもなく……」


「残念だが、お前が期待してるようなことはなにもないぞ」


「え〜つまんないの〜。それで、結局小清水さんとは何を話したの?」



 不満を顔全面に出しながら響也は聞いてくる。


 そんな顔されても何も無かったんだから仕方がない。



「悪い、小清水さんに他言しないように言われてるんだ」



 流石に心力のことは言えないので、話した内容は秘密にしておく。



「ありゃりゃ。じゃあ仕方ないね。優は小清水さんとは仲良くなった感じ?」


「ん? そりゃまあ多少は仲良くなったと思うけど……どうして急にそんな事聞いてくるんだ?」


「ああ、それなんだけどね、昨日優とお昼食べた後小清水さんの友達の後藤さんにお願いされたんだよ」


「なんて?」


「できるだけ優しくしてやってくれだって。小清水さん、小学生の頃に男が苦手になってそれ以来男と話すのが苦手になったらしくてさ、話す分には問題なくなったらしいけど話しかけるのはいまだに出来なかったらしいからさ」


「ん? 昨日話しかけて来たじゃん」



 家で話すときも、確かに緊張こそしてはいたが普通に会話は出来ていた気がする。



「そう、だから後藤さんもびっくりしたって言ってた。まあ、そんなわけで小清水さんには優しくしてあげてね。


 あ、そうそう。ついでに男が苦手なのは優に治させるよう約束しておいたから。うまくやってよね〜」



 響也はなんでも無いことかのように言ってくる。



「は!? おまっ……何勝手にそんな事約束してんだ!」



 勝手にそんな面倒そうなことを約束されても困るんだが……。



「まあまあ。僕を立てるためだと思って頑張ってよ。期待してるからね〜」



 そう言うと、響也は肩をポンポンと叩きながら、俺の言葉も聞かずに自分の席に戻っていった。



「あれを治すねぇ……」


 一人になった俺は、独り言を吐き出す。そして頬杖をつきながら、昨日ナナシに対して少し声を荒げたときに泣かれたことを思い出した。


 そもそも小清水さんが俺に話しかけてきたのは心力という共通点があったからだ。今までお互いに認識すらしていなかった俺に治せるとは到底思えなかった。






「優くん。今日家でテレビ見ていいですか?」


「良いけど……なんかあったのか?」



 悠香がうちに来てテレビを見るのはよくあることだが、わざわざテレビを見にうちに来るのは珍しい気がする。



「そうなんですよ! 聞いてください!」



 どうやら本当になにかあったらしい。悠香は不満をあらわにして話す。



「昨日録画したテレビ見ようとしたらお母さんが録画消してたんですよ! せっかく一週間も楽しみに待ってたのに……」


「ああ〜、恭子さんお前がなんのアニメ見てるか把握してないもんな。お前もどこかの配信サービス使えば?」


「それも良いんですけどね〜、結局録画してるので見るから契約するのもったいない気がするんですよね〜」



 それに優くんの家でも見れますし。悠香は最後に小さくそうつぶやく。コイツ……俺の家に入ることに躊躇がなさすぎる……。



「別にうちに来るのは良いけど少しくらいは頻度を考えてくれよ。少なくとも、去年みたいに毎日家に来るのはやめろ」


「流石にもうしませんよ。あのとき私が間違えてゲームのデータ消したとき結構ガチでキレてましたからね……」


「そ、その話はもうやめてくれ……。まだ微妙に立ち直れて無いんだ……。ああ……俺の300時間で集めた相棒たち〜」


「ああっ! ご、ごめんなさい! こ、こんなに落ち込むのか……。ほ、ほら! また厳選すれば良いじやないですか! 私も協力しますし!」



 落ち込んだ俺をなんとか励まそうと悠香がすぐ横であたふたしていると激しい爆音が俺達の耳まで届いてきた。



「うわっ! な、なんだ?」


「すごい音しましたね〜。火事ですかね?」


「その割には煙とかは見えないけどな」



 音が鳴った方を二人呑気に見つめる。しかし特に大きな変化は見られない。何があったんだ?



(スグル、気になることがある。ちょっと爆発が起きた方に行ってくれ)



 爆発に気を取られてるとナナシがなんの前触れもなく話しかけてくる。



(え? 今からか? 今悠香と帰ってるんだけど……)


(つべこべ言うな。新しい心力使いだぞ。今の)


(……ホントか? それ)


(さっきの爆発、あれほど大きな音を出してたのに煙の一つも立ってない。おそらくスグルのように物理的な影響を与えられない心力によるものだ。ほら、さっさと行け。いなくなられる前に捕まえるぞ)



 ナナシは爆発の現場に早く行きたいのか俺を急かしてくる。



(はいはい。って悠香どうしよ。連れてく訳にはいかないよな?)


(そうだな。適当にごまかしてくれ)


(ごまかすって……そんなうまく出来るかな……)



「優くん。どうしたんですか? ずっと音の鳴った方見て。早く行きましょうよ」



 俺が考え込んでいると悠香が不思議そうに話しかけてくる。……なんとかやってみるしかないか。



「あっ! そういえば今日、俺予定あるんだった! 悠香、悪い! うちに来るのはまた今度にしてくれ!」


「え? ちょっと!? 優くん?」


「悪い! 急いでるんだ! また明日!」



 俺は言い切るが早いか走り出す。なんか言われる前に逃げてしまおう。






(そろそろじゃないか? 結構走ったけど……)



 まあまあ走り、スピードを落としながらナナシに聞く。



(もう少し奥の方だ。そこの道を右に曲がったところだと思うんだが……)



 ナナシに言われたとおりに歩いていくとそこには空き地があった。



(ん? 誰か居るぞ)



 空き地には四人の男が居た。内二人は倒れている。



(……当たりみたいだな。そこに倒れている二人、魂が傷ついている)


(じゃあ、そこの二人が? どうすれば良い?)


(何かそうせざるを得ない事情があった可能性がある。とりあえずは穏便に交渉。敵対したら俺に任せろ)


(分かった)



 ナナシにどうするかを聞き終わると、一人が俺に気づいてもう一人に話しかけてくる。



「透。また人が来たよ。どう? もう見えるようになった?」


「ああ、大丈夫だ。仁。もう慣れた」


「……ッ!」



 透と呼ばれた男は返事をするとこちらに顔を向ける。その右の瞳は真っ赤に染まり、ゆらゆらと揺れていた。心力を使うときに出るオーラだ。


 今も心力を使っているのか?



「おっと! あまり警戒しないでくれたまえ。別に害する意思はない」



 透と呼ばれた男は手を前に出しながらそう言ってくる。しかし、どんな心力を持っているのかもわからない。俺は警戒を解かずにそのままの姿勢で男を見据える。



「……」


「ふむ……。やはり簡単に警戒は解いてくれないか。ところで、君も『選別者』か?」



 俺が身構えたままでいると、男は突然大きな声で問いかけてくる。状況から考えて心力使いのことだろうか?



「もしそうならどうするんだ?」



 俺は警戒をしたまま話を続ける。



「ああ、別に君に聞いたわけじゃない。そこの塀の後ろに居るお前だ。隠れているのは分かっている。さっさと出てくるが良い」


「なんだって?」



 俺は男が向けた視線の先を見る。



「……よく分かったわね。それがあなたの能力? 選別者というのはこの能力を使える者たちの総称といったところかしら?」



 すると男の視線の先から女の子が出てくる。服装は黒を基調とした可愛いらしいもので、身長は悠香よりも小さい。しかし、その凛としたその振る舞いは大人びた印象を与える。



「そうだ。話が早くて助かる。自己紹介がまだだったな。私は剣崎透(けんざきとおる)だ。そして、こっちは……」


「はじめまして。勝浦仁(かつうらじん)です。まさか今日だけでこんなに心力使える人に会えるなんて思わなかったよ。よろしく」



 勝浦と名乗る男はこちらに近づいてくると、ニコニコとした顔で握手を求めて手を差し出してくる。その穏やかな口調は剣崎と違って好青年のような雰囲気を醸し出している。



「……俺は伏島優だ。よろしく」



 万が一にも協力をする関係になるかもしれない相手だ。一応握手に応じると勝浦はブンブンと腕を振ってくる。そしてそれが終わると、勝浦は女の子の方へと向き直り手を差し出す。



「そっちもよろしく。キミの名前は?」


「……悪人に名乗る名前は無い」


「悪人? もしかして僕たちのことかな?」



 勝浦は困惑したような声を出すが、隣の女の子は敵対心をむき出しにし、勝浦と剣崎を睨みつける。



「そこに倒れている男達、あなた達がやったのでしょう? 人を傷つけておいて悪人ではないと?」


「そう勘違いするな。私達はあの男達に襲われたのだ。つまり正当防衛だ。それに……彼らには資格が無かった」



 剣崎は倒れた男達に軽蔑の視線を向ける。



「資格? なんだそりゃ」


「そのままの意味だ。彼らは心力を持ってはいた。しかしあまりにも才能が無さすぎた」


「はぁ? 別に才能が無くても良くないか?」


「同感。もし他にその選別者とやらが現れたとして、才能がなければそこの男達のようにするの?」


「……」



 女の子が聞くと、剣崎は少し悩むように手を顎に当てた。



「ん? どうした?」


「いや何、どうやら私達と君たちの間に認識に違いがあるようだ」


「違い?」


「そうだ。伏島優。そもそも心力は神から与えられる物だ。本来、選ばれし者のみが使うべき物なのだよ」



 剣崎は気取った口調で話す。



「それで資格がないとあなたが判断したなら害するの? 随分と偉いものね」


「だからそう言っているのだ。我々は選ばれ、力を持った。その力を十全に扱えない者が何故我々と対等になれると思うか? なれないだろう? その点、君たちは十分に才能があるようだ。どうだ? 我々と組まないか?」



 剣崎は俺達に問いかける。



「私はどんな事があろうと、罪なき人に害する者に与するつもりはない」


「そうか。しかし後悔することになるぞ? 添木理亜(そえぎりあ)


「ッ……! 何故私の名前を知っているの?」



 女の子はそう名前を呼ばれると今までで初めての動揺を見せる。



「私の能力の一つだよ。私達と組む気がないなら敵とみなしているのでね。君に対しては能力を使わせて貰ったよ」


「与しない者とは敵対し能力すら使用する……。野蛮ね」


「野蛮? 本来、人間は争う生物だろう? 今は法によって統制されているが、法が無ければ――」


「なあ、透。ずっと話してないでさ、そろそろ終わらせないか? 流石に暇なんだけど」



 添木と剣崎が話していると勝浦が暇そうに言う。



「まぁ、待て。確かに話し過ぎたようだが、伏島優の返事がまだだ。どうする?」


「……一つ質問がある。お前らの目的はなんだ?」


「ん? 言ってなかったか?」



 剣崎はとぼけたように聞く。



「そういえば言ってないね。ほら、透。さっさと説明しちゃって」


「そうだな。我々は心力の自由な使用を求めて活動している。神に与えられたこの力を存分に使用しようというわけだ」


「心力を自由に? それは他人を傷つけるような心力でもか?」



 俺は悠香が襲われたこと、魂が無くなったことを思い出す。それに合わせ、自然と語気が強くなる。


「ああ。せっかく使えるようになった力だ。使いたいだろう? 誇示したいだろう? 


 しかし、奪うことのできない武器のような力だ。社会はそれを許さないだろう。我々はそれを社会に認めさせるために活動する」


「他人を傷つけてか?」


「そうだな。例えば……人の魂を奪ったりな」


「ッ!」



 ちょうど俺が考えていた事を剣崎は不敵な笑みを浮かべながら話す。何故そんなことを知っているのかという俺の疑問をよそに剣崎は話を続ける。



「あれは素晴らしかった! まさに我々の模範となるような行為だ。お前もそう思うだろう? 伏島優」


「は?」



 あんなものが素晴らしい? 虚ろな瞳でベンチに座り、ただただ他人の言うことに従うだけだったあの人が? 剣崎の言葉は分かるのに、その意味が分からない。



「さて……我々の目的話したぞ。答えを聞こうか」


「ふざけるなよ。そもそも俺は他人を傷つけてまで心力を使いたいとも思わないし、人殺しを素晴らしいなんて言う奴らと一緒――」



 俺が剣崎達との協力を拒むと同時に俺のすぐ真横を光の弾が通り過ぎて、先程よりも小さな爆発音が響いた



「ふむ……やはり中々思ったとおりには飛ばないな。」



 剣崎は呑気に反省をしている。こいつ、本当に他人を傷つけることに躊躇がないのか?



「……」


「何を驚いている? 組む気がないなら敵とみなすと言ったはずだぞ? ただし、逃げるなら別だがな」


「逃げるような腰抜けなら興味もないってことか」


「そういうことだな」



 剣崎は先程と同じ光の弾を一つ浮かしている。あいつの心力なのだろうか。



(悪い、ナナシ。交渉失敗だ。後は頼む)


(逃げないのか? 別に逃げても良いんだぞ?)



 ナナシはからかうように言ってくる。



(冗談言うな。人が死んだのを喜ぶようなやつをこのまま放置出来るかよ。お前もそんな事しないだろ? ナナシ)


(そりゃそうだ)


(じゃあ、後は任せたぞ)


「ああ、それと……戦うなら一つ忠告だ。伏島優」


「なんだ?」



 俺がナナシに戦闘を任せようと体の力を抜いたところで剣崎が話しかけてくる。



「君のもう一つの魂は封じさせて貰ったからな。戦うなら自身で戦いたまえ」


「は!?」


 

 封じた? って言うことはナナシが出れないのか? というかなんでナナシのことを知ってるんだ?



(おい! ナナシ! 本当か?)



 俺は慌ててナナシに確認を取る。



(……ああ。事実だ。お前の肉体の主導権を奪えない。おそらく勝沼とか言うやつの心力だろう。さっきから心力を使っている)



 そう言われて、勝沼の方を見ると確かに白色のオーラが背中の方から上がっていた。



(つまりあいつを倒せば良いって訳か)


(そうだ。前回と違って今のお前には心力がある。そう気張るなよ)


(分かった)



 俺はナナシと話を終えると心力を発動させる。



「それで……俺は戦うんだが、あんたはどうするんだ?」



 俺は添木に問いかける。



「もちろん、悪人を放置することなんてしない。私も戦うわ」


「どうやら覚悟は決まったようだな。さぁ、君たちは勝てるかな? 我々、『カノンリールズ』に!」

新たなる敵。その名はカノンリールズ!

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