表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

第五十一話 天津真浦

次回は十二月二十六日の予定です。

「天津真浦? 何だそりゃ?」

「鍛冶の神様だよ。火廣金(匕ヒイロカネ)って知ってるか? 太古の昔に存在したって言われてる伝説の金属だ。そこから、この武器の万火廣って名前がつけられたらしい。万火廣の最後の手として、鍛冶の神様の名前は相応しいと思わないか?」

「どうだかなっ!」



 凍砂の問いかけに、福喜多は拳で返事をする。



「なっ!?」



 しかし、凍砂はその拳を片手で受け止める。



「そう驚くなよ。天津真浦の状態の時、万火廣はある一定以上の衝撃を吸収して、俺への負荷を軽減してくれる。だから、今ならお前の攻撃もある程度は受けれる」

「そうか……。だけど……良いのか? 肝心の顔面ががら空きだぞ?」

「さっきまでお前と戦ってた俺がそんな事に気づかないと思うか?」



 凍砂に迫った拳は、目の前に現れた壁によって防がれる。



「無駄だっ! お前の武器は俺には効か−−?」

「俺の武器が……なんだって?」



 福喜多は、分散によって消えるはずの壁を見つめ怪訝そうな顔をする。



「なんで消えねぇ?」

「消えたそばから作ってやってるんだよ。これなら、お前がどれだけ万火廣を分散させたとしても意味は無ぇよな?」

「ウグッ!」



 壁から飛び出た無数の腕が福喜多を捉え、壁に縛り付ける。そんな福喜多の元に複数の球体が飛来する。



「クソッ!」



 悪態をつくと共に腕を振り払った勢いで風を巻き起こした福喜多は、球体を押し返した瞬間、それらが爆発する。



「…………」

(今の球体……万火廣か? ……なんか妙だ。さっきまでアイツ、二個以上の物を作成して来たか?)

「気づいたか? そうだ。本来、俺の万火廣は二個以上の物を作成出来ない。っていうか出来ないように設定されている。俺の脳がパンクしちまうからな。だが、天津真浦を使っているときはそのリミッターを解除してもらっている。分かるか? 脳への負担と万火廣の消費は跳ね上がるが、その代わり−−」

「このっ!」



 迫ってくる拳を避けた後、壁で福喜多を捉え、その中で大量の爆発を起こす。



「俺は無限に武器を作ることが出来る」

「ガハッ!」


 

 全方位からの爆発によって衝撃の分散の限界を超えた福喜多は、苦しそうに息を漏らす。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。流石、本気を出しただけはあるな。だけどな、これだけじゃあ子供でも死にはしねぇっ!」

「馬鹿言うな。これは確認だ。今のでやっと、お前を倒せるって確信が持てた」

「は?」



 凍砂の言葉に、福喜多が怪訝な顔をした瞬間、その四肢が大量の鎖に巻き取られる!



「お前、万火廣を同時に分散させられないだろ。じゃなきゃ、わざわざ俺の攻撃を受けてから武器を消す必要がねぇ」

「クッ!」



 四肢に巻き付いた鎖を分散によって一本づつ消滅させていく福喜多だが、それでは順次追加されていく大量の鎖からは逃げられない。



「やっと、動きを捉えることが出来たな」

「だからなんだ? お前がやっと与えられた。その消費が跳ね上がった天津真浦とやらで、万火廣が無くなる前に俺を殺すことが出来る訳が……」

「出来るさ。お前はこの弓矢に突き刺されて死ぬ」



 作り出したメカニックな弓矢を福喜多に見せながら、凍砂はそう宣言する。



「馬鹿がっ! そんな弓矢を受けた所で、俺の分散を超えられる訳が……」

「そうだな。ところで……これからお前の全身はこの大量の弓矢に刺される訳だが、お前はその衝撃を一体どこに逃がすって言うんだ?」

「なっ!」



 凍砂が作り出した千を超える弓矢が浮かび上がり、福喜多に矢じりを向ける。



「それじゃあな。福喜多。まさか天津真浦を使わされると思ったが、それもこれで終わりだ」

「このっ。クソッ! 俺は凛に……必ず報いるって……」

「…………」



 鎖からなんとか逃れようとする福喜多を見た凍砂の脳内に、二十年前のある光景が浮かび上がる。



「……今の界隈に潜り込んでから二十五年が経つが、お前たち程俺を追い詰めた奴は居ねぇ。……って事を、あの世で凛にも伝えてやれ。安心しろ。異能狩り、『大門凍砂』が保証してやる。お前らは確かに強かった」

「…………」



 福喜多の抵抗が、弱まる。



「そうか、お前……凍砂って名前なのか」

「ああ。お前みたいな強い奴になら、名前を教えてやっても良い」

「……ありがとな。凍砂」



 悔しそうに、それでも笑みを作った福喜多に大量の弓矢が向かい、その体を貫いた。





「…………。チッ!」




 既に息絶えた福喜多の遺体。その目元を伝う涙を見て、凍砂は荒々しく舌打ちする。



「泣くほど大切な物があったなら、そんな簡単にこの世界に踏み込むんじゃ……」

(いや、それは俺が言える事じゃねぇな……)



 そんな風に福喜多に過去の自身を重ねていた凍砂の視界がぐらりと揺れ、天津真浦が解除される。



(あ〜……。天津真浦の方が限界か。時間制限はだいたい五分って所か)

「おい。阿南! どうせデータ取ってるんだろ!? 少し手ぇ貸せ!」

『おお! おお! 私の愛しい凍砂クンじゃないか? どうした? 私に呼びかけるなんて珍しい!』



 凍砂が呼びかけると、万火廣から返事が低い男の声が帰ってくる。



「とぼけんな。これ(万火廣)を作ったお前の事だ。どうせ今の状況分かってんだろ? さっさと協力しろ」

『フム……。さっきの戦いのおかげでデータは十分。良いぞ。お前を治して帰還を手伝って……』

「違ぇよ。治してくれるのはありがたいが、まだ帰るつもりはねぇ。俺が頼みたいのはそこに転がってる四人をここから運び出す方だ。お前も出来るだろ? 万火廣の操作」



 阿南の言葉を遮り、凍砂は地面に倒れている四人を顎で示す。



『二人は死んでいるようだが?』

「良いんだよ。俺が殺したんだから、最後の処理位は俺がやる」

『相変わらず、そういう所は効率が悪いな。それさえ直せば、キミは更に完璧に近づけるだろうに』

「興味ねーな。さっさと俺の傷も治してくれ。ほれ」

『…………』



 万火廣が変形し、勝手に凍砂の体の治療を始める。その間に、万火廣の一部が分離し、廊下に倒れている四人を運び出す。



「流石、万火廣を作った張本人だな。使い方が小慣れてら」

『なんだ? 急に。皮肉でも言ってるつもりか?』

「感心してるんだよ。ついさっき大量に作って自分の限界を感じてる所だしな」



 肩を竦めながら凍砂は自嘲気味に笑う。



『そうか、それよりも随分と万火廣が消費されているな。何に削られた?』

「最後の福喜多の止めと……衝撃吸収だな」



 天津真浦でまとった鎧が持つ衝撃吸収は、それ相応の万火廣が消費される。万火廣の大量消費は、それだけ福喜多が手強かった事を表していた。



『明日、研究所(ラボ)に来い。そろそろ万火廣の補充が必要だ』

「それなら、俺の仲間たちも連れてって良いか? お前ならいい感じの武器も作れるだろ」

『来ても良いが、私は気に入った奴にしか武器を作らないぞ』

「ま、そんなに期待しちゃいね〜よ。作ってくれたらラッキー位のもんだ」

『なら好きにしろ。……少し痛むぞ』

「ッ……!」



 凍砂は痛みに顔を歪めた後、静かに目を閉じる。



「治療には、もう少し掛かりそうだな」



 敵陣の中でありながら、凍砂は少しばかりの休息に身を委ねた。







 時間は少し遡り、優達がナナシと離れた直後−−



「それで、サイ。次はどっちに行けばいい?」

「コッチだ。もう少シ歩カナイと行ケナイだろうな」



 再びコウモリに变化したサイが示した方向に体を向け、走り出そうとした瞬間−−



「……っ! 先輩っ!」

「うおっ!」



 危険感知が俺達を貫く攻撃を察知し、慌てて先輩を押し倒す。すると、俺たちが元居た場所を刀が飛来し、そのまま戻っていく。あれは……戸岐の刀か?



「ふ、伏島……。お、重い……」

「あっ! すみませんっ!」

「ゴホッゴホッ! お前……自分の体が硬くなってるんだから……気を……つけろ。ゴホッ!」



 最後にナナシが残してくれた置き土産、右腕の硬質化に文句を言う先輩を起こし、刀が飛来した方向に向き直る。



「サイ。敵はどんくらい遠くだ?」

「気をツケロ! アイツ……ドンドン迫ッテ来ル! 既にソコマデ……」

「遅いぞ」

「クッソっ!」



 奥から迫ってきた戸岐の刀を視認した直後、コウモリの体を突き飛ばし硬質化した腕で受けるっ!



「……先程の回避と言い、前回よりも随分と勘が良いな」

「そういう能力なんでなっ!」

「チッ!」



 刀を受けた右腕から電撃を放つと、宙に浮かんでいる戸岐は忌々しそうに横に回避。



「なんだか妙な移動方法だなぁ! オッラァ!」

「クッ!」


 

 その移動先を予測した先輩が飛び出し、蹴りが繰り出されるが、刀でそれを受け止めすぐさま反撃が繰り出される。



「っぶねっ!」

「……厄介だな」

「私よりも厄介なのがいるぜ? サイっ!」

「任セロ!」



 そう言いながら飛び出てきたサイの体が黒い粘液に包まれ、その体積がみるみる大きくなっていく。そして−−



「…………」

「グォォォォォッ!」



 黒い粘液の中から、叫び声を上げながら真っ黒な体毛に覆われた約三メートルの獣。ヒグマが叫び声を上げながら現れる。



「そんな熊畜生に変化した所で何になる? その程度一発で真っ二つに……」

「無駄ダ」

「なっ!」



 呆れた様に戸岐が刀を振り下ろすが、その刀はヒグマの表皮に刺さるだけで全くダメージを与えられない。



「知ッテイルカ? コノ『ヒグマ』ッテ言ウ生物ハ、散弾銃デスラ弾キ、耐エウル耐久力ヲ持ッテイル。人間ガ振ルウ刃デ斬ラレル程柔ラカイ物デモ無イ。ソノ上−−」

「アガッ!」

「片腕デモ簡単二人間ヲ吹キ飛バセル」



 戸岐が驚いた一瞬の隙をつき、サイが重い一撃を食らわせる。



「ヒュー……ヒュー……」

「う〜わ。えっぐ……」



 吹き飛んだ後に立ち上がる戸岐の姿を見て、俺の隣に戻ってきた先輩は顔をしかめる。その脇腹の肉は抉れ、血がボタボタと垂れている。……正直あまり目にしたい光景ではないが、それと同時に作戦会議前の添木父の忠告を思い出す。



「サイは宇宙人だ。一応味方こそしてくれてるけど、その行動に伴う道徳は僕達とは全く違うし、普通に敵の命も奪う。そもそも……主食が人間って話だしね。

 だけど、極力それを邪魔しないでね。無害の人を傷つけない代わりにそういう奴らを食っていいって事で約束させてるから」

「あ〜……。そういえば最初に出てきたときも久々に人間を食べるチャンスだ〜みたいな事言ってましたね……」

「そう。逆に食事の邪魔しちゃうと、コッチが何されるか分かったモンじゃないから、出来るだけ穏やかにね。たぶん、サイの戦いを見たらその危険度が分かると思うから」

「はぁ……」



 あの時はイマイチ実感が沸かなかったが、今ならその脅威がよく分かる。あんなのに襲われたら先輩はまだしも俺なんてひとたまりもない。



「サァ! 一ヶ月振リノ食事ダ! ソノ血肉ヲ! 骨ヲ! 肉体ノ最後ノ一片マデヲ−−」



 直後、のっそりと近づき、食事をしようとしたサイの体が真っ二つに割れる。



「サイっ!」

「……この負傷は私の油断が招いた物だ。だが、油断をしたのはお互い様だったようだな」



 直後、真っ二つに割れたサイの体が見えなくなる。そして、先程までの声が俺の耳に響く。



「俺ノ事ハ気二スルナ。切断サレテモ再生スル事ガ出来ル生物二変化スレバ問題ハ無イ」

「そ、そうか……」

「ダガ……俺ハ傷ガ治ルマデ戦闘ニハ参加出来ナイ。悪イガ、二人デ戦ッテクレ」

「……ああ。分かった」



 サイに返事をした後、俺は戸岐を見据える。



「話は終わったか?」

「……その怪我で随分と礼儀正しいんだな」

「私はこの世を正しく導くために行動している。そんな卑怯な手を使わないさ。だが……この怪我で二対一。流石に本気は出させてもらうぞ」

「チッ!」



 戸岐がそう宣言すると同時に天井が開き、そこから六本の刀が降ってくる。それも本来よりはだいぶゆっくりなスピードで。そして、空中でその動きが止まる。それを見て、先輩が大きくため息をつく。



「はぁ〜。サイがなんとかしてくれると思ったけど、やっぱりそう上手くは行かないか……」

「そうですね……」

「ま、前回のリベンジのチャンスってことだ。サイもだいぶアイツにダメージを与えてくれたしな。このチャンス、全力で生かすぞ!」

「はいっ!」

良ければ、高評価、ブックマーク等々よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ