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第五十話 死後の一手

ついに五十話です。

今まで読んでくださった皆様、誠にありがとうございます。

次回は12月12日投降予定です。

「…………」



 凛が言い終わると同時に、凍砂は前のめりに倒れる。



「『異能狩り、大門凍砂。異能を持つ人間にその超人的な肉体で戦う添木満の協力者。万火廣による変幻自在の攻撃が強み。ナナシと同様にロード・ヴァルキュリアの最大戦力』剣崎はそう言っていたけど、そんな貴方でも流石に四対一は無謀だったみたいね」

「…………」



 そんな凛のつぶやきも、凍砂に届くことは無い。



「瓦礫は、軽い」



 スタスタと福喜多を埋めた瓦礫の元に歩み寄った凛は、心力を使い瓦礫の重みを取り除く。それと同時に瓦礫の中から福喜多が脱出する。



「……やったみてぇだな」

「ええ。貴方達がアイツの意識を奪ってくれたおかげ。流石に、被害はゼロには出来なかったけれど……」



 凛は倒れている二人の方に目を向ける。



「傷が無ぇな。魂だけを斬られたのか」

「どちらにしろ、もう戦力にはなりえない。洗脳も溶けただろうし」

「そうだな。あ〜あ! 怒られるだろうな……二人も戦力ぶっ潰すと」

「彼とのトレードなら、流石に許されると−−」

「ガハッ!」

「「っ!?」」



 二人が話している後ろで、突然凍砂が苦しそうに吐血する。



「……凛。コイツ……どうやって殺した?」

「……心臓停止。けど、確かに触れてた。能力は確実に発動したはず」

「残念ながら……能力は不発だ」



 凍砂はよろよろと立ち上がり、二人にそう告げる。



「オイオイオイオイ! 最っ高じゃねぇかっ! 凛の能力でも死なないとかっ! どれだけタフなんだよっ!」

「流石に、死んだのは初めてだったけどな。俺をそこまで追い詰めた事は褒めてやる。ただまあ、俺に能力を見破られたのが運の尽きだったな」

「地面は、液体!」

「現実の書き換え、確かに強力な心力だ。だが、万能って訳でもないな」

「っ!?」



 凍砂が地面を強く踏み込み、粉々に砕く。すると、凛の能力は発動しなかった。



「そう驚くなよ。お前、遅延の能力の女の刀が壊されたとき、刀を直すんじゃなくって、刀を作ったな? それも鉄よりも強度の低いコンクリートでだ。

 わざわざデメリットのある選択をしたって事はそれ相応の理由があるって事だ。お前の場合は能力の発動対象から外れる……とかだな?

 それさえ分かれば、能力で殺されても対処が出来る」

「……まさかっ!」

「その通りっ! 自分の体をぶっ壊せば、お前の能力が俺に通用することは無ぇっ!」



 ポタリ……と滴り落ちる血の事はお構いなしに、勝ち誇ったように笑う。そんな凍砂の元に福喜多が突っ込む。



「随分ハイになってるなっ! どうしたっ!?」

「言っただろっ! 死んだのは初めてだって! コッチもハイになってるんだよっ!」

「うおっ!」

「私は、認識されないっ!」

「無駄だっ!」

「なっ!?」



 心力を発動させた凛に対して、瞬時に作成された鎖刀が、凛の腹部を真横に切り裂くっ!



「お前の能力、効果にも限界があるだろ。影響が小さい物ほど効果は大きく、逆に影響が大きい物ほど効果は小さくなる。

 さっきは三人の相手をしてたからかお前を認識出来なくなってたが、タイマンで認識が阻害されるほど大きな効果は生み出せないだろ」



 言い終わると同時に、振り下ろされた鎖刀が凛の頭部にぶつかる寸前−−



「凛っ!」

「チッ!」



 戻ってきた福喜多が鎖刀を受け止め、その衝撃を拳の先に集め、凍砂に向かって打ち出す! そのまま吹き飛んだ凍砂の事を無視し、福喜多は凛の元へと駆け寄る。



「ケホッケホッ!」

「凛っ! 凛っ!」

「ごめん……。殺せて……無くて……」

「喋るなっ! 静かにしてろ! クソッ……血が……」



 福喜多は自分の服の袖を破き、傷口を抑えるが、そこからも血は滲み続ける。



「もうダメみたい……。自分の体の事は自分が一番分かる。これはもう助からない……」

「なら心力ならどうだ! お前の心力なら傷も……!」

「だめ。私の体はもう壊れた。私の心力はもう私には使えない……。だから……。瀬那の心力は、−−」



 福喜多に触れた凛は、心力を発動させる。その腕には、オーラが形を成した曲線が描かれていた。



「凛……」

「私は……楽しそうに戦う貴方が大好きだった……。だから……私の事は気にしないで?」

「…………」

「最後に……私の力を貴方にあげる。これなら、貴方はきっともっともっと強くなる。

 貴方の雄姿をあの世から……見守ってる……か……ら……」

「凛っ!? 凛っ!」



 力なく倒れた凛の体を揺らし、何度も呼びかける福喜多だったが、その声に答える者は居ない。



「死んだみたいだな」

「……黙れ」



 吹き飛ばされた先から戻ってきた凍砂の言葉に、福喜多は静かに返す。



「今投降すれば、命だけは見逃してやるぞ?

 あのパーカー野郎も、お前も強力な心力を持っている。その能力の性質上、お前ら相手に魂の破壊がどれくらい有効かもよく分からん。

 だから、戦うってんなら、手加減は出来ない。どうする?」

「……凛は、俺の戦う姿が好きだと言ってくれた。あの世で、見守っているとも言ってくれた。なら……俺は……ただその義務を果たすだけだ」

「そりゃ残念だ……よっ!」



 凍砂は福喜多の後ろへと周り、羽交い締めにする! しかし−−



「無駄だっ!」

「っ!?」



 その力も、分散されてしまい福喜多の力の源となってしまう。福喜多が殴りかかると、その拳圧のみで、風が巻き起こるっ!



(なんだ? 今の威力……。俺の全力の攻撃よりよっぽど強い。パーカー野郎が最後に何かやったか?)

「不思議そうだなっ! どういう仕組みか教えて欲しいか?」

「……そうだな。教えてもらえれば勝ちの目も見つかるだろうしな」

「良いぜっ! どちらにしろ今のままじゃ張り合いが無くって楽しくもなんとも無ぇっ! これじゃあ凛にも申し訳が立たねぇからなぁ!」

「っ!?」



 フッと福喜多の姿が凍砂の視界から消え、一気に距離が詰められるっ! 凍砂は、そのまま振るわれた拳をギリギリで万火廣で受け止める!



「凛が俺に残した能力はな……今まで俺が分散、収束させたエネルギーの蓄積だ。こんな風になっ!」

「グッ!」



 万火廣が『分散』によって消滅させられ、そのまま拳が凍砂に振り下ろされる! その勢いで凍砂の体が幾つもの階層を貫通し、最下層の床を突き破る!



「あっぶねっ!」



 なんとか飛行船の割れ目に手を引っ掛け落下を防ぐ凍砂。しかし−−



「随分とだらしねぇ姿だなぁ! あ!?」

「そういうお前は、随分と余裕そうだな!」

「っ!?」



 背後にジェットパックを作り、その上で自身全力で飛び上がった凍砂は圧倒的な加速によって福喜多の背後を取り、鎖刀を全力で突き刺す! 



「チッ!」



 鎖刀が刃元から折れ、凍砂は慌ててその場から離れる。



「オラッ! オラッ! オラッ!」



 そんな凍砂に迫った福喜多が大振りの拳を振るう! その攻撃は凍砂に当たることは無いが、その一つ一つが大きな風を巻き起こす!



(マズイな……。今まで能力が作用したエネルギーが蓄積するって事は、戦えば戦う程この攻撃の威力が高くなるって訳だ。どんな攻撃なら通るか分からない以上、攻撃を続けるしか無いってのに、攻撃を続ければその分不利になる……)

「ま、なんとかするしか無ぇか」

「そんな事、出来ると思うか!?」

「さあな。まぁ、やってみれば分かるだろ」



 全力で福喜多の足元に滑り込んだ凍砂は、即座に火炎放射器を生成、そのまま福喜多の全身を包み込むように炎を放出する。



「チッ! ちょこざい!」

(炎はダメか……。分散の対象が物理的衝撃、じゃなくってエネルギー全般を指してるんだな。余計に面倒だな)



 炎の中から振るわれる手を半身を反らして躱し、凍砂は次の手を探る。



「ハッハッハッ! どうした!? もう手立てが無くなった訳じゃ無ぇだろ?」

「ああ。勿論」

「ウグッ!」



 突如伸びた凍砂の手が福喜多の口の中に突っ込まれ、そこから液体が滴り落ちる。



「チッ!」

「おっと……。危ねぇ危ねぇ」

「テメェっ何しや……がっ……」



 液体を嚥下した直後から、福喜多の視界がクラクラと揺れ始める。



「麻酔だ。いくら衝撃を分散させることが出来るお前でも、薬物に対してはどうしようも無いだろ? 既に規定量をお前の体の中につぎ込んだ。ゆっくりと眠って−−っ!」

「無駄だっ!」

「ガハッ!」



 足を掴まれた凍砂は、そのまま横に大きく振り投げられる! 凍砂の体が壁にめり込み、痛みとともに体から息が絞り出される。



「あ〜あ……。これなら上手く行くと思ったんだが……どういう仕組みなんだか」

「麻酔か。確かに、普通の薬品は俺の弱点でもある。ただし、『普通』の薬品ならな」

「はぁ……そういう事か」

(さっきからコイツにいろんな武器を消滅させられて来たが……それと同じって事か。つくづくコイツの能力と相性が悪いな)



 万火廣は極小の物質の集合体。それが、凍砂の魂に反応する事でその性質を変化させる。しかし−−福喜多の心力は分散、収束。自身の体に触れた万火廣の変化物は、効果を発揮する間も無く分散によって塵となる。



「炎みたいな変則的なエネルギーも、薬物も効果が無い。なら……」

「?」

「あらよっと!」

「っ!?」



 凍砂は福喜多の元へ駆け寄ると、そのまま体を掴み、天井へと投げ上げる! 



「シンプルな破壊力で、お前の防御力を超えるしか無いよな?」

「チッ!」



 一瞬動きを止めた福喜多に追い打ちをかけるように、凍砂はモーニングスターを作成し、それを全力で叩きつける! 福喜多の顔に一瞬陰りがよぎる。



「やっとお前の焦る顔が見れたなぁっ! どうだ? いくら全身に衝撃を分散させられるからって、無限にダメージを無効化出来るわけじゃねぇっ! このままお前の限界を超えたダメージを−−」

「甘いぜ?」

「っ!?」



 モーニングスターが消滅し、天井が崩れる。そのまま凍砂は眼前に迫る拳を、万火廣から作成した壁で阻み、威力を減少させながら受け切る。



「ゲホッ! ゲホッ!」



 凍砂の口から鮮血が垂れ落ち、視界がぼやける。



(……流石に無理しすぎたな。パーカー野郎の心臓停止からの蘇生のダメージが今になってだいぶ響いてきた)

「オイオイオイっ!? もう限界か? だいぶ苦しそうじゃねぇかっ!」

「……そうだな。だから……次の攻撃が最後だ」

「ほう?」



 凍砂の言葉に期待を深める福喜多の足元にコツンと、何かが当たる。



「?」


 

 視界を下に向けると、黒い缶のような物が転がっており、そこから白いガスが吹き出るっ!



「アガッ!」

(催涙ガスかっ!)



 喉と目を激しい痛みに襲われながら、福喜多はその成分を分解する。



「言っただろっ! 薬品は確かに俺の体に効果はあるが、一瞬だって!」

「…………」

「あ?」



 視界が晴れた福喜多は辺りを見回すが、凍砂の姿は見当たらない。すると福喜多の首に鎖がかけられ、その体が大きく持ち上がるっ!



「上かっ!」

「正解だ。だが、もう遅い」



 福喜多を持ち上げた鎖がフッと消え、その体が重力にしたがって落ちる。



(しまった……。空中じゃ動きが−−)

「終わりだ」

「ウグッ」



 落下する凍砂のスピードをジェットパックで加速させ、その上で作成した福喜多の体よりも大きな超重量のハンマーを振り下ろす! 凍砂が持ちうる最大最高の火力が、福喜多の体に炸裂するっ! その体は地面に叩きつけられ、床が大きく窪む。



(前と後ろ。同時に俺の最大火力で潰した。これなら分散を使った所でそんなに衝撃を逃がす事も出来ない。終わ−−)

「まだまだぁっ!」

「ウグっ!」



 安堵の息を吐く凍砂のみぞおちに拳が深くめり込み、その体が大きく吹き飛ぶ。



「ゴホッゴホッゴホッゴホッ!」

「あ〜。アブねぇアブねぇ。流石に、少し体を痛めちまったぜ。褒めてやるよ。凛の力が無かったら死んでただろうな。ま、タラレバの話をしても意味はねぇが」

「…………」

(パーカー野郎のおかげ……。ハンマーを殴り返して衝撃を軽減させたって所か。って……それは今どうでもいい。マズイな……さっきまでとは痛みの質が違う。どっか内蔵が傷ついたな。そして−−)

「オラよっ!」

「アガっ!」



 福喜多の拳が振るわれると同時に周りの壁が吹き飛ぶ。



(俺の攻撃を蓄積して更に攻撃力が増しやがった。もうさっきの攻撃も通らないと思った方が良いな)

「残念だったな!? さっきお前は今のが最後って言ったよなぁ!?」

「ああ。そうだな。流石にそろそろ潮時だ」

「……?」

「万火廣『天津真浦あまつまうら』」 



 その直後、黒く小さな装甲が凍砂を多い、鎧の様に身を包んだ。

最強の奥の手が、今その姿を現す!

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