第四十九話 大暴れ
最近遅れ気味ですみません。次回は12月5日の午後七時投稿予定です。
(……ミスったな……)
凍砂は、落ちながら自らの行動を悔いる。
(万火廣の消費を無視してでもジェットパックで戻るべきだったな……。こうなったらどこに戻れば良いのかももう分からん)
そう思いながら見上げた先には無数に分岐した通路。既に合流は難しい状態だ。
(出来れば、分断されるのは避けたかったな。相手の戦力が分散している内に突入した全員で一人ずつ叩く。これが一番安全な戦い方だったんだが……。
こうなった以上は別の手段が必要だな。……俺かナナシ、どっちかは安全のために伏島と狩ノ上に付く必要がある。俺があいつらから分断された以上、ナナシは二人のお守りに手を奪われる。なら俺のするべき事は−−)
「この船の中で暴れまわる事だな」
そんな思考をしている内に凍砂の足元に光が見える。
「やっとか」
壁に万火廣を突き刺し、減速しながら地面に着地。その勢いを利用して素早く走り出す。
(サイとはぐれたせいで、俺に敵の位置を把握する手段は無い。少し面倒だがこうやって走り回って敵を見つけるしか無いな)
凍砂はそんな事を考えながら、万火廣からメカニックなデザインのゴーグルを作成、装着する。ゴーグルにはサーモグラフィー、暗視カメラ、赤外線センサー等々の性能が搭載されていた。
(こんだけやれば流石に見逃すことは無いだろ。……さすがに赤外線と暗視の両方は盛り過ぎだったな。性能過多でラグってら)
「お?」
すると、凍砂の視界の中に小さな赤い光が見える。よくよく目を凝らせば、それは人の形を成している。
(思ったよりも早かったな。これでまずは−−!?)
突如、ゴーグルがブラックアウトし、凍砂の視界が黒く染まる。
「来た来た来た来たっ!」
「チッ!」
「うおっ?」
真っ黒な視界の中、迫ってくる歓声のみを頼りに鎖刀を振り下ろす。直後、凍砂のすぐ横の壁に声の主の拳が深くめり込み、壁が大きく崩れる音が響く。すぐさまゴーグルを外すと、通路の奥には白髪の女と緑髪の男、そしてもう一人、パーカーで姿を隠している人間が居た。
「合計四人か……。随分なご歓迎だな」
「歓迎? お前こそ随分と余裕そうだな。俺たちと出会った時点で、お前の運は尽きてるんだぜ?」
男が凍砂を指差すと、鎖刀がさらさらと砂のように崩れ落ちていく。
(こいつの心力の効果か。攻撃が効いてないのも同じ心力の効果か? それとも他の奴らの心力か? どちらにしろ情報が足りなくて判断が出来ねぇな……。なら、まずは様子見で……)
再び鎖刀を作成し、三人に向かって刀を投げつける。
「?」
「ホッホッホッ。ワシの前でそのような攻撃をするとは、随分と愚かよのう」
白髪の女がそう笑った瞬間、凍砂の投げた鎖刀が減速する。
「返す刀はいかがかな?」
刀が減速しきる直前、緑髪の男の心力が刃を凍砂へと向ける。
「要らねぇよ」
「ありゃ」
凍砂は向けられた刃を掴み、思い切り奪い取る。
(力はそんなに強く無いな。遅くなったのは反応からして白髪の方だが……戻ってきたのは緑髪の心力……だよな? イマイチハッキリしねぇな)
「俺の事は無視かぁ!?」
そんな凍砂の思考を邪魔する様に、壁から腕を引き抜いた男が再び凍砂に殴りかかる。
(コイツの心力だと俺の万火廣が消される。なら……素手で戦ったほうが無難だな)
凍砂は瞬時に万火廣を小さくまとめポケットに収納し、男の腕を掴むと同時に背負投げる! その勢いのままに男は地面に埋まる。
「ハハッ! 素手でも強ぇ! お前、名前は!? 俺は福喜多 瀬那だっ!」
「さあな。お前らみたいな悪人に名乗るつもりはねぇ。知りたきゃ無理矢理にでも聞き出してみろ」
「言えてらっ! 磯上!」
「分かってます……よっ!」
「チッ!」
福喜多の呼びかけに応じた緑髪の男……磯上の能力によって凍砂の体が宙へと引っ張られる。ポケットから鎖刀を取り出した凍砂は刃先を天井に突き刺し、磯上の力を振り払う。
(アイツの心力……見えないのが厄介だが……それだけだな。見た所ただのサイコキネシスで、そんなに力も強くない。アイツだけでもさっさと処理しちまうか)
凍砂は着地と同時に三人が居る方へと走り出す。
「うわわっ。これ僕狙いじゃない!?」
「よく分かってるじゃねぇ……か!」
凍砂が鎖刀を思い切り振り切ろうとした瞬間、甲高い金属音が辺りに響いた。それは、鎖刀が白髪の女の刀に阻まれた音だった。
「ホッホッ。振り切るまでが随分と遅かったのう。何か考え事でもしておったか?」
「…………。それよりも、そんな動きにくい格好で刀を振り回して大丈夫か? それとも、負けた時用の保険か?」
「そう心配するで無い。慣れると案外気楽なものぞ? こんな風に……なっ!」
「……チッ!」
白髪の女は軽やかに刀を振り回し、凍砂はそれを上半身を反らして避けた……はずだった。
「?」
「どうした? 今度は避ける判断が遅れたかのう?」
凍砂の頬を一筋の血が流れ、白髪の女はニヤリと笑う。
「……薄皮一枚斬った位で得意になるようじゃ、程度が知れるな」
「血を流しながらでは、その言葉も強がりにしか聞こえぬなっ!」
「……ッ!」
白髪の女が振り下ろした刀に反応した凍砂は大きく後ろに飛び退くが、今度は胸元に赤い線が走る。
(……何か妙だ。今の二つの攻撃も、いつもなら普通に対応出来てるスピードだ。他の心力を使われている様子もない……。なら……俺が鈍ってんのか?)
白髪の女と切り結んでいた凍砂は、普段よりも強めに斬りつけ、女を大きく弾く。
「クッ!」
急いで近づこうとしてくる女に対して凍砂は、ナイフを作成し、投げつける。しかしそれは、白髪の女に届く前に、減速する。それは、先程の鎖刀と同じ様に。
「無駄じゃ! そのような攻撃がワシに届く事は無いと心得よ!」
「ああ。知ってるよ」
「なっ!」
減速したナイフを刀で弾いた女に凍砂はグッと近づく。
「お前の能力、ラグ……正しく言えば遅延だろ? 物体がお前の元に届くまでの時間や、俺が回避し始めるまでの時間を遅延させる。
そうすれば俺みたいなギリギリで攻撃を避ける奴には簡単に攻撃が当てられるって訳だ。だが、結局は遅延だ。どんだけ能力を行使したとしても、いつかは辿り着く」
「このっ!」
振り下ろされた刀を、凍砂は鎖で受け止める。
「こんだけ近づけば、その長物も上手く振れねぇだろっ!」
凍砂の刀が、女の喉に向かって突き出される!
「ッ!?」
「もうっ! 僕の存在忘れるなんて許さないよ!」
凍砂の刀は、磯崎の心力によって首元で止まっていた。
「うるせぇ。お前の心力も見えないだけで、そんな大した物じゃねぇ。こうやって無理やり−−」
「カハッ!」
「丨西鶴さんっ!」
凍砂の刀が、磯崎の心力を突破して、白髪の女−−西鶴の首筋に食い込む。
(これでまずは−−)
「出来ないよ。貴方の刀は、ゴムで出来てるもの」
「?」
凍砂が西鶴の首を掻き切ろうとした瞬間、後ろに居たパーカーを着た人間が小さく呟く。直後、凍砂の刀はゴムの様にグニャリと曲がり、強度を失う。
「ナイスだっ! 磯崎! 凛!」
「チッ。起きたか」
先程まで地面に埋まっていた福喜多が凍砂に襲いかかるが、凍砂はゴムの様に曲がった刀を投げ捨て、その腕を掴み、攻撃を逸らす。
(なんだ? 今の。刀がゴムになった? あのパーカー野郎の心力だろうが……どんな能力だ?)
「考え事をする暇なんぞ与えんぞ!」
「うるせぇ。今忙しいんだよ」
「なっ!」
凍砂は福喜多の体を使って西鶴の刀を受け止める。
「俺を使ってくれるなんて、光栄なことだなぁ!」
「そうか。なら、もう一度使わせてくれ」
「キャッ!」
「うわっ!」
暴れようとした福喜多を通路の奥に投げ捨て、敵を全員薙ぎ払う。
「この地面は、壁」
「「ウグッ」」
パーカー女、凛の目の前の地面がせり上がり、三人を受け止める。
(地面が壁に……。材質変化の心力かと思ったが……どうやらそうでもないみたいだな。
言ったことを現実に変える? だとしても条件があるな。もしそうなら俺の心臓を止めるなりなんなりして俺を殺せば良い)
「凛。何か分かったか?」
「うん。異能狩りの『本当』の武器は私の心力じゃ変えられない。だけど、作られた武器の方は出来る。あとは……私がサポートするから全力で戦って」
「ああ。任せとけっ!」
返事と同時に凛を除いた三人が凍砂に向かって走り出す!
(……話を聞いておいて良かったな。万火廣が変化させられないのが分かったのは大分デカい。
福喜多の能力は俺の斬撃を耐える……っていうか無効化だな。無効化の能力と並外れた膂力。そして万火廣で作成した武器の消滅。多分これは肉体に触れない限りは起きないから、自分の身一つでどうにか捌くしか無いな。
そして、パーカー野郎の能力……。万火廣の本体や俺の肉体は変化させられないなら、魂に関連するかどうかが能力使用の条件か? 能力の情報が少なすぎて判断に困るな……。
なら……)
「悪いが、お前らは一旦後だ」
「うおっ!」
凍砂は福喜多達の頭上を飛び越え、同時に巨大なハンマーを生成。そのまま天井を破壊し、通路を塞ぐ!
(しばらくしたら抜けられるだろうが……今はこれで十分か)
「…………」
「どうした!? 仲間と分断されるのは不安か!?」
「コンクリートは、液体」
「チッ」
凛の言葉の直後、凍砂の足がコンクリートに沈む。
(福喜多達が来るまでの時間稼ぎか! なら……!)
凍砂は、万火廣から鎖刀を生成。そのまま凛に向かって投げつける!
「刀は、ゴム製」
「甘ぇ!」
「ッ!?」
ゴムの様に柔らかくなった刀が凛の真横を通り過ぎた直後、凍砂は鎖を横薙ぎに振るう! 鎖がその動きに引っ張られ、凛を絡め取り、そのまま凍砂の元まで引きずり込む!
「クッ!」
凛は、慌てたように腕を振り下ろす! すると、鎖は真っ二つに切り裂かれる。その手の先には、真っ赤に染まった鉤爪が三叉に分かれて生えていた。
「……それがお前の武器か? 見た目に反して随分と物騒な物を持ってるんだな」
「私の能力とは、これが一番相性が良い」
直後、凛は凍砂に向かって飛びかかる! 凍砂は、すんでの所で分厚い金属板を生成し、凛の鉤爪を防ぐ!
(速いッ! 遅延の心力が掛かっていたら防げなかった! そしてこのパワー! 人並み外れてやがる! 肉体の変化も可能なのか? それなら魂の関連性は? それとも自分限定か?)
「凛! 待たせたな!」
「ん。上出来」
瓦礫がドサリと音を立てて崩れ、その先から福喜多が飛び出してくる!
(もう来たか。分断の手を見せた以上、もうそう簡単には分断させてくれないだろうな)
そう考えながら凍砂は、凛の鉤爪を弾き、福喜多の攻撃を躱す! そのまま福喜多の腕を掴もうとし−−
「さっきもそれやろうとしてなかった? ワンパターンだよ?」
「チッ!」
磯崎の心力にそれを阻まれる!
「鉤爪は、伸びる」
「クッ!」
そこを畳み掛けるように凛の能力で伸ばされた鉤爪が凍砂を襲う!
「!?」
しかし、凍砂は地面と平行になる程体を反らし、鉤爪の攻撃を回避する! しかし……
「ワシの事を忘れるで無いぞ?」
「…………っ!」
凍砂の頭上から、刀が振り下ろされる。心力の効果によって、凍砂の反応が、遅れる。
「ッ!」
なんとか致命傷は避けたものの、流石に完璧とは行かず、凍砂の脇腹からダラダラと血が流れる。
「チッ!」
「どうやら、仕留め損なったようじゃの」
「だけど、やっと有効な一撃が入った。西鶴。首、見せて?」
「ああ」
「貴方の傷は、治る」
凛が傷に触りながら、そう言うと、西鶴の傷が塞がる。
(なるほど……。魂があるやつを変化させるには触れる場所が必要って訳か。なら、アイツに触られる訳にはいかないな)
「どうしたっ!? 動きが止まっているぞっ!? ダメージを受けたのがそんなにショックだったか!?」
「四対一でやっとこれだけの怪我しか与えられなかった癖して、随分嬉しそうだな」
「そう強がんなよ? どんだけ小さいとしても傷は傷だ。それに対してこっちは完全に無傷。どっちが有利かなんて猿でも分かると思うぜ?」
「無傷? お前らは何か勘違いしてるみたいだな」
「?」
凍砂は、福喜多の拳を往なしながら、ニヤリと笑う。
「心力の対応が最も難しいのは能力が分からない初見の段階だ。その後は能力が分かっちまえば大して難しくねぇ」
「まるで能力が分かってしまえば簡単に勝てると言っているようじゃのう」
「だからそう言ってるんだよ」
「っ!?」
横薙ぎに振るわれる刀の刃先、それを片手でつまんだ凍砂はそのまま刀を摘み取るように刃の根本から折る。
「お前の能力が遅延させてるのは俺の反応だ。それさえ分かれば、対処は簡単だ。常にお前の刀に意識を割いておけば、反応が遅延されることは無い」
「このっ!」
「お前もだ、緑髪野郎。見えないだけで、そこまで高くない出力のサイコキネシスが攻撃に転用された所で、怖くもなんとも無い」
「なら、俺の能力も分かったんだろうなぁっ!?」
「勿論。収束と発散だろ?」
「っ!?」
「図星みたいだな。お前が壁を殴った時の印象で気づかなかったが、お前が俺に殴りかかったときの力の掛かり方はあんな風に壁を崩せるほどの力じゃ無かった。なら……その力の元は何処にあったのか?
簡単だ。俺の刀の力を一旦全身に発散させて、その後自分の拳に収束させたんだろ? それならダメージを受けることも無く、威力の上昇も出来る。裏を返せばお前の拳は……」
福喜多の拳が、凍砂の手のひらで受け止められる。
「力の元が無ければそこまで脅威でもなんでも無い」
「このっ!」
「自分の能力が馬鹿にされて苛立ったか? 安心しろ。今はお前の発散をどうにかする手立てが無い。倒すのは最後にしてやるよ」
「なら、まだまだ勝ち目はあるって事じゃな?」
「…………っ!」
突如背後から伸びてきた刀を紙一重で避ける凍砂。西鶴の手にある刀は、鉄ではなく、コンクリートで出来ていた。
(パーカー野郎の能力か。地面を刀に変えたみたいだな。……リソースが無限にあるのは厄介だな)
「西鶴! 俺を斬れっ!」
「了解じゃっ!」
「……チッ!」
西鶴の刀が福喜多の肉体を打ち、そのエネルギーが全身に分散する。そして−−そのエネルギーが福喜多の腕に収束し−−
「これなら、まだお前の脅威になれるだろ?」
凍砂の体を吹き飛ばすっ!
「ゴホッ! ゴホッ!」
(福喜多の攻撃に対する反応を遅延させられたな……。そして西鶴の刀が福喜多のエネルギーソースになってやがる)
「や〜っと良いのが入ったなぁっ!」
「チッ!」
壁に叩きつけられた凍砂に再び追撃を行う福喜多。凍砂は、それをなんとか回避しながら、反撃のチャンスを伺う。
「どうしたっ! 俺たちの能力が分かれば勝てるんじゃなかったのかっ!?」
「……ああ。悪いがその程度で崩される程、俺は弱くない」
直後、福喜多の真上で爆音が響き、天井が崩れ、福喜多を生き埋めにする。
「福喜多さんっ!」
「他人の心配をしている場合か?」
「カハッ!」
瞬時に生成した鎖刀で、磯崎を切り捨て、返す刀で西鶴の刀と刃を交える。
「クッ!」
「諦めろ、お前にこの場をどうにかするだけの力量は無いだろ?」
「あ……が……」
一瞬で石の刀が砕け、そのまま西鶴の胸に刀が突き刺さる。
(なんとか、上手く行ったな。万火廣爆弾がいいタイミングで爆破してくれて−−)
直後、凍砂の胸元に小さな手のひらが触れる。
(しまっ−−)
「もう遅い。心臓は、止まる」
その瞬間、凍砂の心臓が眠るように、動きを止めた。
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