第四十七話 作戦開始
遅れてすいません。
次回は十四日の七時投稿予定です。
時は遡り、再びレストランにて
「それで……結局どうするんですか?」
添木父が今日中にカノン・リールズを倒すという方針を示した後、俺はその内容について聞く。
「うん。まずは飛行船の性能についてだ。あの飛行船……といっても僕はその存在を確認出来てないんだけど、その飛行船は存在の秘匿に全力を注がれている。けど、その代わりにある欠点があるはずなんだ」
「欠点?」
「そう。ありとあらゆる情報を遮断するその性質上、船外と船内での情報の伝達が極めて難しい可能性があるんだ」
「なるほど……。電波を発信してないんなら確かに情報の伝達なんて出来んわな」
「あ、そういう事か」
先輩の納得するような言葉でやっと添木父の言ってた事が分かる。
「そう。これだけなら特に問題もなさそうな物なんだけど、なにせ目に見えない飛行船だ。戻る時に何処にあるのかってのを把握する必要がある」
「あれ? それじゃあ結局どうにかして情報を得る必要があるんじゃないですか?」
「いいや? そんな事は無いよ。情報を得られないなら、最初から情報を仕入れておけば良い」
「あ、そうか。誰かが飛行船を降りている間は飛行船の場所を変えなきゃ良いのか」
先輩は一人納得したように手をポンと叩く。
「ん? どういう意味ですか?」
「だから、飛行船を降りてる間に、飛行船が動いちまうから、どこに戻れば良いのかが分からなくなるって話なんだろ? なら誰かが飛行船を降りてる間は飛行船を停止させとけば、この問題も解決ってわけだ」
「そう! 外との情報を取ることが難しいのなら情報が必要ない集団を選べば良い! そして誰かが飛行船から降りている間は飛行船が動かないって事は−−」
「敵を誘い出せれば……そのまま飛行船の居場所が分かる?」
「正解! いや〜鋭いね! 小清水さん!」
「は、はい……」
なんだか妙にテンションの高い添木父に気圧される小清水。
「お前のお父さんどうしたの? なんか変だけど」
「ここ数日忙しいせいで眠れてないから深夜テンションなの。ずっと取り繕ってたみたいだけどそろそろ限界みたいね」
「? 何かあったのか?」
「一昨日悠香の心力が暴走したでしょ? あの事件の関係者の特定と関係者全員への口止めで忙しいみたい」
「あ〜……。なんか、ごめんなさい。迷惑掛けちゃって」
暴走の張本人、悠香が俺らの会話を聞くと、申し訳無さそうに謝る。
「良いよ良いよ〜。心力を隠すのは僕の仕事だし、久しぶりに出来た理亜の友達のためだからね〜」
「そんなことより、さっさとカノン・リールズ掃討作戦の話を終わらせましょう?」
「ん。そうだね〜」
肯定の言葉と同時に添木父は頬をパシッ! と叩き気合を入れ直す。
「そんな訳で昨日の夜、僕は湯ノ花から色々聞いてきた」
「おお……。急に元に戻った。って……アイツそんな簡単に色々教えてくれたんですか?」
「まさか! そんな簡単に教えてくれる訳ナイナイ! 前は出張で居なかったんだけど、虚偽を見破る能力者が帰ってきたから、その人に色々調べて貰った結果、救援を要請するためだけの装置が手に入った。多分、一昨日の剣崎達の乱入はこれを使った物なんだろうね」
「つまりこれを使って?」
「そう。これで湯ノ花が救援を要請したように装って、降りてきた人を足止め間に飛行船の場所を突き止める。これが僕の作戦だ」
そう声高に宣言する添木父。しかし
「そんな上手くいくもんか? 捕まってる湯ノ花を助けに来るのか、飛行船の場所を上手く特定出来るのか。侵入だって簡単かどうか分からねぇぞ?」
と先輩が苦言を呈する。確かに、それは俺も思っていた事だった。あんだけ秘匿に力を入れられている飛行船だ。味方からの情報流出があるからと言ってそんな簡単に見つかるとは思えない。
「うん。その事に関しては気にしなくて良いよ。今日は他の協力者も居るからね……あれ?」
そう自信満々に言いながら辺りを見回すと不思議そうに首を傾げる。
「さっきまでここに居たよね? 人」
「? いえ? 僕は見てないですけど……」
「私と伏島が来た時は居なかったと思うぞ」
「理亜は見たよね?」
「ええ。さっきカウンターの下に隠れてた」
「ヒッ!」
添木が告げ口をした瞬間、カウンターの方から小さな悲鳴が聞こえる。そちらに向かって添木父はスタスタと歩いていき、カウンターの裏を覗き込む。
「な〜にそんなところに隠れてるの!」
「だって〜……あの人大門さんと同じ位強いじゃないですか〜! 僕みたいな奴絶対殺されますって〜!」
「そんな訳ないでしょ? 凍砂だってそんな事はしないんだから」
「ヒイィィィ!」
添木父に首を引っ掴まれながら現れた男は恐怖からか大声を上げる。
「……これもしかして怯えられてるの俺?」
「伏島ってよりもナナシの方だろうな」
「呼んだか?」
「ひぃぃぃぃっ!?」
先輩とナナシの名前を出した瞬間、左手からナナシが現れる。それを見た男はさらなる怯えを見せる。
「うん。とりあえず面倒な事になるからまた後でな」
「分かった」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ナナシがすぐさま引っ込み、やっと男が落ち着く。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「は、はい……」
「全ク、軟弱ナ奴ダ」
「「「「?」」」」
突如聞こえてきたくぐもった声。誰からの声なのかと辺りを見回すが、そんな声を出す人がこの場に居るはずが無い。
「ちょっと! 出てこないでください!」
「断ル。ニンゲンヲ食エル久シブリのチャンスダロウ? コンナニ心ガ踊ル事ハ無イ!」
今度は、俺たちが驚く番だった。男の右腕が黒い液体に包まれ、そこから口が現れる。……なんだかシンパシーを感じる登場だな。
「という訳で、僕の協力者の忌部涼介君と彼に寄生した宇宙人の……」
「繧ュ繝。繧、繝ゥダ」
「え? なんて?」
聞いた事もない言語に、思わず聞き返す。
「繧ュ繝。繧、繝ゥダ。聞キトレナイのナラ気ニスルナ」
「宇宙の言語らしいよ? 全く聞き取れないから別の名前で呼んでるけど」
「別の名前?」
「学名がCytopathic extraterrestrial life form。細胞変質性地球外生命体って意味なんだけど……それを略してサイ」
「名前は分かった。それで? 貴方達の能力は何なの? パパの協力者って事はそれ相応の能力があるのでしょう?」
「もちろん! サイはね、ありとあらゆる生物に変形出来るんだ。犬の嗅覚も馬の脚力も、コウモリの聴力も自由に使える。今回はその能力を使って飛行船を見つけて貰おうと思ってる」
「なるほど。自然の力は偉大ってヤツだな」
先輩が納得したように頷く。
「それと……剣崎は来ると思うよ。心力を使える程の魂の適正を持ってる奴が戻ってきたら可能性が低くても確実に助けに来るって、湯ノ花が言ってた」
「……なんだか微妙に信憑性に欠ける情報源ね」
「任セトケ。アル程度ノ予定外ノ出来事ナラ、オレがナントカしてやる」
サイはこちらまで黒い液体を伸ばし、不敵な笑みを浮かべながら話す。
「おお。そりゃ頼もしい」
「……ずっと思っていたのだけれど、貴方の元ネタってヴェノ−−」
「それ以上は止めておけいましょうか? 添木サン」
確かに俺も思っていたけれども。それを言うのはあまりよろしくない。
「コッチダ!」
そんな作戦会議から二十時間後……。飛行船内部に侵入を果たした俺たちは迷路のような通路をコウモリ……もといサイの案内で走り回っていた。どうやらコウモリの超音波で飛行船の内部を把握出来るらしい。コウモリにそんな事出来るのか? なんて思っていたが……
「オレノ知能ハお前ら人間ノ中デモ特二高イ奴ト同ジ位ダ。ソノ生物ノ能力ヲソノ生物以上二使ウ事ダッテ容易イ」
と言われてしまった。
「それにしても……」
「ん? どうした?」
「思ったよりも簡単に侵入できましたね」
「添木親子がうまい具合に剣崎を足止めしてくれたからな。おかげで飛行船の場所の特定に時間をかけられた」
今回の作戦、飛行船に突入したのは俺、先輩、ナナシ、大門さん、忌部さんとサイの五人? と一匹だ。下で剣崎の足止めをするのが添木親子の役目、そして残りの二人は戦闘には関われないという事で自宅待機だ。
「だからってそんなに悠長には出来ないぞ。理亜の手助けがあるからと言っても相手は戦闘に使えるタイプの心力使いだ。時間が経てば突破されるぞ」
走りながらも呑気に先輩と話していると、大門さんが話に割り込んでくる。
「……それ大丈夫なんですか? あの二人」
「そこは気にするな。満のことだ。不味くなったら撤退するはずだ」
「それなら良いんですけど……」
なんだか心配−−
「っ! 下がってください!」
突如、危険察知が俺の前方で激しく反応する。慌てて後ろに下がると目の前に壁が落ちてくる。
『ったく……人の飛行船の中でウロチョロウロチョロと……。どういう教育を受けてきた訳?』
「そっちこそ、急に道を閉じるなんて随分と危ないことするじゃねぇか! 潰れたらどうするつもりだ? ああん!?」
通路全体に響く声に対して、負けじと言い返す先輩。その物言いと金髪が相まってまるでヤンキーのようだ。
『柄悪いな〜。殺すつもりでやってるんだからどうするもこうするも無いよ。バカなんじゃないの?』
「バカだぁ? そういう事は……しっかりと目的を果たしてから言いやがれ!」
言い終わるや否や、先輩は降ろされた壁を蹴り上げ、道を開ける!
『ちょっ! 急すぎるでしょ!』
「ハッ! 道を閉じたのを殺すためだなんだと言ってたけど……剣崎が居ない内はお前たちの最善は私達の足止めだろっ! ならっ、私達はひたすらに進めば良い! お前のおしゃべりになんか付き合ってやらねぇよっ!!」
『このっ!』
「オラオラオラァ! こんなモンかぁ!?」
再び何重にも降ろされた壁も、先輩はなんでも無い様に破り、突き進んでいく。俺たちはその後ろを眺めながら着いていく。……先輩が一人で突き進んでいくので仕事が無い。
「随分元気だな……狩ノ上」
「昨日の戦闘で先輩何も出来なかったですからね。多分ストレス発散も兼ねてるんじゃないですか?」
「なるほどな。ま、今は狩ノ上のストレス解消より、時間優先だ。俺も行くか。サイ。はどっちに曲がるんだ?」
「左ダ! モウ少シしたら角ガ見エル!」
「分かった」
返事すると同時に大門さんの手元に大きなハンマーが現れ、それで壁を一気に破壊する! 道が大きく開けると、確かに左側に曲がり道が。
「行くぞ」
「はいっ!」
先輩と大門さんに着いていき、角を曲がった瞬間、後ろの通路が閉じられる。
「……は?」
『勝手に人の家に侵入しておきながら、今度は器物損壊? ホンットいい加減にしてよね? もう良いや。疲れるからやりたく無かったけどこれ以上壊れるよりはマシだ』
がシャリと、重厚感のある音が天井から聞こえる。上を見上げると、真っ黒な銃口がこちらをじっと見つめていた。
『全員このまま、蜂の巣にしてやる!』
「クッ!」
銃口が光り、銃弾の雨が俺に向かってくる! そう思った時だった。目の前に壁が出来上がり、銃弾を防ぐ。
『なっ!』
「撃つならさっさと撃つべきだったな。おかげで伏島も守れた」
ポトリと、天井にある銃の先が全て落ちる。その手には既に先程のハンマーは握られておらず、変わりに両端に小さな刀が付いた鎖を持っていた。
『ッチ! やっぱりお前は倒せないか……』
「なんだ? 分かってたのか?」
苛立つような声に、大門さんは意外そうな顔で聞き返す。
『勿論。身代わりだったとしても剣崎さんがやられたんだ。僕なんかが勝てるとは思っていない。だから……』
「?」
『お前は他の奴らに任せる事にした!』
突然、大門さんの足元の地面が抜け、重力にしたがってその体が落ちていく。
「ッチ!」
鎖刀を何処かに引っ掛けるためだろうか。刀の先を天井に向かって大きく投げる大門さん。しかし−−
『もう遅いよ』
再び放たれた銃弾が刀を妨害し、そのまま落っこちていく。
「大門さん!」
「気にするな! 俺は自分でなんとかする! お前はお前の身を守れ!」
その言葉を最後に地面が閉まり、大門さんの姿が見えなくなる。
『ハハハハハハハッ! さぁ! これで邪魔者は居なくなった。この弾幕の雨を君たちは−−
生き残る事が出来るかな?』
絶体絶命!
己に降り注ぐ死の雨を、掻い潜って生き残れ!
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