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第四十六話 作戦会議

次回は11月7日投稿予定です。

「チッ……仕留め損なったか……。スグル、ナオ。平気か?」

「俺は大丈夫。ナナシが治してくれたからな」

「私もだ。そもそも相手にすらされてなかったからな……」



 苦々しく先輩はそうつぶやく。戦闘することに楽しみを見出している先輩からすると、相手にされないことはそれだけで屈辱だろう。



「とりあえず今日は終わりだな。飛行船の位置も分からん上に透明じゃ探しようも無い。手詰まりだ」

「そうだな〜。私もそろそろ家に帰らないと両親が心配するだろうし……。特に怪我とかしなくて良かったな……」

「あ、すみません! 引き留めちゃって」

「いや、あれは引き留めるも何も無いだろ。心力関係の事件が起きたなら無視する訳にもいかないしな……」



 そう言う先輩の目は俺の胸元に向かう。



「? どうかしましたか?」

「いや、ホントにキレイに治ってるなと思って……」

「ん? そうですね」



 俺も目を自分の胸元へと向ける。確かに今まで何度か怪我をしたが、どれも痕も無くキレイに治っている。これだけキレイに治せるのなら戦闘中の怪我も心配無いな。



「一応忠告しておくか……」

「ん? どうしたんだ? ナナシ」



 俺達の家に到着するまでの間、適当に先輩と話しているとナナシが小さくそう呟く。



「お前が勘違いしてるみたいだからな。釘を刺しておくぞ」

「え?」

「俺の心力の一つ『治癒』は肉体を元に戻すイメージで使う。その肉体のイメージの元となっているのはスグルの肉体だ」

「……なるほど?」

「つまり、他人には効果が薄いんだ。特に、女には」

「なるほどな。例えナナシが近くに居ても私は出来るだけ怪我をしない方が良いってことか」



 納得したように先輩は頷く。なるほど。確かにこの勘違いは危険だ。



「そういう事だ。おそらく死ぬ事は滅多に無い。だが、致命傷を喰らったら後遺症は覚悟してもらうことになる。そういう状況になったら迷わずスグルを肉盾にしろ」

「え? 俺の扱い酷くないか?」

「当たり前だろ。怪我しても即死じゃなければなんの問題も無いお前と後遺症の可能性がある他の人じゃ優先順位が違う。お前の魂を破壊出来る奴なんてそうそう居ないだろうしな」

「え〜……」



 確かに死なないかもしれないけど普通に痛いんだよな……あれ。



「ま、あれだ。せいぜい私の肉盾として頑張れってこった」

「…………」

「……冗談だよ。そんな目すんなって」



 先輩の信じられない物言いに思わず呆れた目を向けると、先輩はバツが悪そうに言い訳をしてくる。どうやら冗談で場を和ませようとしてくれたようだが、それにしたって今のはナシだ。



「スグル、ナオ。今度こそ到着だ。今日のことは明日色々考えるとして、一旦休憩だ」

「お、サンキュー。それじゃあ伏島、また明日な」

「はい。お疲れさまでした」


 最後に別れの挨拶を済ませ、お互い家に帰って行った。






 翌日、起きてから二時間程して家を出る。



「お、伏島」

「あ、おはようございます」



 すると、家を出た先で同じように外に出る先輩の姿が。



「どうだ? みんな来れるって言ってたか?」

「はい。大丈夫らしいです」

「おっけ〜」



 返事すると同時に大きなあくび。そして先輩は眠そうに目を擦る。



「寝不足ですか?」

「んあ……。ちょっとな……」

「無理はしないでくださいね。なんなら集合時間もう少し遅くしても……」

「いや、大丈夫だ。こうすれば……」



 先輩はそう言うと気合を入れたような目つきになる。



「……何したんですか?」

「心力を使ったんだ。体が起きてないだけだからな。肉体を強化すれば大分マシになるもんだ」

「へぇ〜そんなもんなんですね」



 朝のあの眠気が無くなるのは素直に羨ましい。



「って……こんなところで駄弁ってる場合じゃ無いな。さっさと−−うおっ!」

「ちょっ!」



 突然グラリと傾く先輩の体。俺は慌てて手を伸ばすが、その手は間に合わず……



「っぶねぇ!」

「うおっ!」



 先輩が完全に倒れる直前、自身の足で無理やり体勢を支える先輩。しかし慌てて動いたせいだろうか。先輩の足元には−−



「ふぅ……。まさかこんな所で転びそうになるとは……ん? どうした? 伏島」

「先輩……それ……」



 粉々に砕け散ったコンクリートが散乱していた。それを見て、一瞬固まる先輩。



「伏島」

「はい……」

「逃げるぞ」

「あっ! ちょっ!」



 珍しく余裕の無い表情を見せながら走り去っていく先輩に俺は全力で着いて行った。






「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」」



 二人して事故の現場から逃げ切った後、必死に息を整える。



「いや〜久々に焦ったな〜」

「なんでそんなゴホッ! 余裕なん……ゴホッ! ですかっ……。ハァッ! ハァッ!」



 既に先輩がケロリとした表情で笑っている先輩とは裏腹に、俺はゴホゴホと咳き込む。



「だ、大丈夫か……?」

「そう思うなら……少しは……手加減して……くださいっ!」

「お、おう……。い、一応少しは手加減してたけどなっ!」



 余裕の無い俺に先輩は多少引き気味で返事する。なんで俺がこんな目に……。



「そ、それよりも……着いたぞっ! 目的地!」

「は、はい……」



 先輩に促されて、視線を上に上げるとそこには『イミベーダー』の文字が。しかしそのドアには”closed"の看板が掛かっていた。



「これ……入って良いんですかね?」

「良いんじゃないか? もう少しで約束の時間だし」



 そう答えるとすぐさま店の中に入ってしまう先輩。……大丈夫なのかなぁ。と思いながら俺も続いて店内に入っていった。



「あっ! スグ兄! やっと来た〜! おはようっ!」



 部屋に入った瞬間、椅子から身を乗り出し大きく手を振る悠香が出迎えてくれる。



「あれ? もう来てたのか?」



 てっきり寝坊するのかと思ってた。



「ちょっとスグ兄? 今なんか失礼な−−うわっ!」

「悠香ちゃん!?」



 俺の方を向くために後ろを向いてただからだろうか。悠香の座っている椅子が大きく傾き頭から地面に突っ込む。椅子が倒れる大きな音と共に悠香を心配する綺麗な声。



「あ、小清水も来てたのか」

「うん。来る途中で悠香ちゃんに会ったの」

「スグ兄? 大切な幼馴染が痛い目に遭ってるのにその反応は無いんじゃない?」

「お前がおっちょこちょいなのは昔からだろ」

「はぁ〜? 違います〜! おっちょこちょいなんじゃなくって注意散漫なだけです〜!」

「同じような物だろ」

「いいや〜? 全っ然違うから! 似て非なるものだから!」

「いやどっちだよ!」

「……いいかしら?」




 朝っぱらから相変わらずな悠香との会話に思わず辟易していると、添木が呆れたように声を掛けてくる。



「あ、すまん」

「スミマセン」



 ……なんか前にもやった気がするな。こんなやりとり。



「それで? 昨日あの後起こった事はメールの通りで良いのね?」

「ああ。大丈夫だ」



そう。俺は昨日の出来事を既にメールで伝えていた。



「現状は分かった。それで? これからどうするつもりなの?」

「それは……」

「それに関しては俺から話す。スグルは俺の言う通りに連絡してくれただけだからな」



 俺が言い淀んでいると、ナナシが突然俺の左腕に現れる。



「前にも言ったと思うが、俺の目的は暴走する心力使いを全員排除、もといただの一般人にする事だ。


その対象にはカノン・リールズだけじゃなく、先日の日ノ神一派も含まれる。だが……あいつらの動向は基本的には掴めない。俺は心力使いの居場所を特定する心力は無いからな。


 だから、俺はこのチャンスを逃したくない。奴らの根城のその尻尾を掴み、一網打尽に出来るこのチャンスを物にしたいと思っている」

「そんな所だろうと思って、僕も色々準備しておきました!」



 ナナシが話し終えると、待ってましたとばかりに話し始める添木父。



「……居たの?」

「僕今日一緒にここまで来なかった!?」

「いえ……珍しく静かだったから居ないものかと……」

「それでも僕の存在ごと消すのはどうかと思うよっ!? ここ用意したのも僕だし!」



 添木の辛辣な言葉に思わずツッコミを入れる添木父。なんやかんやでこの親子仲が良いよな……。



「話がずれてるぞ。ミチル。準備とはなんだ?」

「あ、うん。ちょっとこれ見て?」



 そんな家族仲なんて知ったことかと言うふうに添木父に話を急かすナナシ。すると、添木父は自分のカバンの中から地図のような物を取り出す。



「これは僕の協力者に調べて貰ったこの街の電波が発信された場所の履歴だ。今の時代ならどんな人でもだいたい電波から場所を追えるからね。

 だけど……この地図上にある電波の発信履歴は全部裏が取れた。

 他にも出来る限りのことを調べて貰ったんだけど全部ダメ。飛行船が浮いているって証拠すら見つからなかったよ」

「徹底してるわね」



 添木父の発言に添木は半ば感心したように呟く。添木父もお手上げと言った風に両手を上げる。



「つまりあいつらを見つけ出す手段は無かったって訳か……。振り出しに戻っちまったな」

「ちょっと! 僕は飛行船が浮いている証拠が無かったって事しか言ってないよ?」

「え?」

「言ったでしょ? 色々準備してきたって。もう言質は全部取ってきた。実行は今日の夜! 今日から明日の朝までに、カノン・リールズを全員逮捕する!」



 



 街が静まり返り、日を跨ごうとする深夜十二時、赤髪の男が地面に降り立つ。カノン・リールズのリーダー。剣崎だ。


 地面に降り立った剣崎は周りを見渡すと……。



「湯ノ花! 迎えに来たぞ! もう隠れなくても良い! 出てこい!」

「なら、お言葉に甘えさせて貰おうかな」

「……やはり罠だったか」

「あ、やっぱりバレてた?」



 暗闇から現れた添木父の姿を見た剣崎は残念そうにため息をつく。



「当然だ。湯ノ花の身体能力は確かに他より高い。だが、だからと言って心力を失った状態で警察に捕まって逃げられる訳も無い」

「なら、わざわざ罠に嵌まりに来る必要も無かったんじゃない? 連絡が偽物だって分かってたんでしょ?」

「舐めるな。彼女は心力を使うに相応しい適正を持っている。選ばれし者だ。例え罠である可能性が高かったとしても1%でも彼女が助かる可能性があるのならば助けに行かない理由は無い」

「そりゃまたご立派な事で」



 剣崎の言葉を聞いた添木父は理解が出来ないと言った様子だ。



「そう言うお前もなかなかに立派だぞ? 心力すら持っていない一般人の身でありながら、私の前に現れたのだから」



 その瞬間、剣崎の後ろに大量の光弾が現れる。



「力も無いまま私を騙そうとしたこと、後悔しながら死にゆくが良い!」



 光弾が添木父の元へと向かっていく。そして、添木父に着弾する直前−−



「ジ・アリエス! ファーストドライブ! ジャッジメント!」

「なっ!」



 添木の声が辺りに鳴り響き、剣崎の光弾が掻き消える。



「理亜? もうちょっと早くに心力使えなかった? 今一瞬ヒヤッとしたんだけど」

「ごめんなさい。光弾のスピードが少し上がってた。本当ならもう少し手前で止めるつもりだった」

「……ならしょうがないね」

「そんな悠長に話していても良いのか? 君の心力の無効化は一定時間ごとに解除されるのだろう? 少しでも動いた方が良いんじゃないか?」

「うん。大丈夫。”僕達”の目的は君の足止めだから」

「何?」



 添木父の言葉に怪訝な表情をする剣崎。すると−−



『剣崎さん!』

「どうした?」



 突然、剣崎の耳元のインカムから流れてくる仲間の慌てた声。



『飛行船内部に侵入者! そこの添木満の仲間たちです!』

「何だと?」

「うん! うまく行ったみたいだね」

「当然、私の仲間達なのだから失敗する訳が無い」

「何をした? あの飛行船の居場所がバレるはずがない」



 満足そうに頷く二人とは対象的に、剣崎は険しい表情で二人に問いかける。



「簡単だよ。君たちの飛行船は今の僕達のどんな技術でも捉える事が出来なかった。だけれどそれだけの技術だ。君たちの間にも情報の伝達に不備があるはず。そう考えて僕は一昨日捕まえた湯ノ花から飛行船の情報を聞き出した。

 そしたらビンゴ! 飛行船から降りた人が場所が分からなくならないように誰かしらが飛行船から降りたらその時点で飛行船は動きを止めるって教えてくれた。あとは簡単。こうやって降りてきた君の足止めをしている間に仲間たちに飛行船の位置を特定、そのまま侵入して貰ったんだ」

「なるほど……罠は罠でも私を捕まえるための罠ではなく、飛行船を捉えるための罠だったというわけだ。なら、私はお暇させていただこう」

「させない。ジャッジメント!」

「チッ!」

「悪いけど、君を飛行船まで帰らせるつもりは無い。この先を通りたければ、僕達を倒してからにしろってね!」






 一方その頃、俺たちは飛行船内への侵入を成功させ、その中を走り回っていた。



「思ったよりも上手く行ったな」

「添木のお父さんの準備が完璧でしたからね」

「そうだな。よっし! これより、カノン・リールズ掃討作戦を、開始する!」



 先輩はやる気満々な素振りで、拳を自分の手のひらに収めた。足音だけが響く船内にて先輩の手の音が小気味よく響いた。

作戦開始!



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