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第四十五話 隠れ家

次回は三十一日投稿予定です。

 花火を見終わった後、俺たちはナナシに運んで貰っていた。小清水、添木はすでに家に帰った後だ。



「スグ兄じゃあね〜! ナナシさんもありがとございました〜!」

「ああ。昨日は大変だったんだしゆっくり休めよ」

「は〜い!」



 悠香は元気よく返事をすると、玄関へと向かって行った。



「なんか思ったより元気そうだったな。悠香」

「そうですね。ナナシが悠香の記憶は消し去ってくれたので。少なくとも母さんの事に関しては悩み一つ無いと思いますよ」

「へぇ〜。そんな事も出来るんだな」

「伊達に二百年前から生きていないぞ。お前らには教えていないだけで使える能力は山のようにある」

「そう言う割には俺にもその能力を教えてくれないよな」

「数が多すぎるからな。伝えるのが面倒くさいんだ。それよりもそろそろ飛ぶぞ。ナオしっかり捕まっておけ」

「あいあい」



 そう言うと狩ノ上先輩は俺の腕に抱きついてくる。流石にこれだけ長時間くっついていると慣れてくるもんで、今では特に何も思わない。



「『心力模倣《重力操作》』」

「ひゃっっほう〜!」



 俺たちが空に飛び上がる瞬間、先輩は楽しそうに大声を上げる。まるで絶叫アトラクションだ。



「あ〜楽し。すごいな。これ。伏島は前にもこういう事したことあるのか?」

「いいえ、今までは戦闘時に使ってただけですから。こういうのは初めてですよ。っていうか先輩、絶叫アトラクション好きなんですね」

「いや、知らん」

「え? どういう事ですか?」

「前に言っただろ、体が弱いって。医者にそういうの乗るなって言われてたんだよ。体に負担がかかるからって。だから分からん。乗ってみたいとは思ってたんだけどな」

「あ〜……なんかすみません」



 笑いながら言う先輩に対して思わず謝る。病気のことを言われるとなんだか気まずい。



「気にすんな気にすんな。もう終わった事だしな。……伏島はジェットコースターとか乗ったことがあるのか?」

「そりゃまぁ……人並みには」

「それってやっぱりこんな感じなのか?」

「う〜ん……。そうですね……。スピードは同じくらいですけど……やっぱり重力のかかり方は違いますね」

「あ、そりゃそうか。いま私達にかかる重力を弱めているんだもんな。そりゃ違いもでるか」



 納得したようにうなずく先輩。しかしどうやら新たに疑問が浮かんできたようで、再び質問をしてくる。



「そういうえばこれってどうやって動いてるんだ? 重力操作しただけじゃこんな風に動かないよな?」

「風を起こしてるんだ。威力は弱いが重力を弱めている今なら肉体も軽いからな。こんなふうに風を起こせば簡単に移動出来る」

「なるほどな……。戦闘には使えなくってもこういうところで使えるのか……」



 改めてナナシの心力の便利さに感心する。さっき山程の心力を持っているって言ってたし、多分俺が気づいていないだけで他の場面でも色々なところで心力を使っているのだろう。



「さて、そろそろ着くぞ。降りるから準備を−−」

「あだっ!」



 突然、俺の体に強い衝撃。透明な”何か”にぶつかったように俺の体が弾かれる。



「あっ……」



 そのぶつかりどころが悪かったのだろうか、先輩の体が俺から大きく離れる。それは、ナナシの重力操作の範囲から抜け出ると言うことを意味していた。



「ヤバッ」



 ゆっくりと流れる時間の中、慌てて伸ばした手は空を掠め、先輩が恐ろしいスピードで落ちていく。



「ナナシっ!」

「分かっているっ! 『心力模倣《重力操作》』」



 途端、俺の体に重力が元に戻り、地面への落下を始める。しかし、そのスピードは先に落下し、加速がついてしまった先輩には遠く及ばない。



「ナナシッ! もっと速く出来ないのか?!」

「無理だ。重力の変化を大きくすぎるとお前の体が保たん」

「けどこのままだとっ!」

「そう焦るな。『心力模倣《白蛇の頭顱(とうろ)》』」



 瞬間、俺の右腕が白く変色し、大きく伸びる!




「シャーッ!!!!」



 その先は蛇の頭部のように変形し、赤い舌を覗かせながら大きく口を開けていた。



「うわっ!」



 そのまま蛇は落ちていく先輩の下半身をパクリと飲み込み、そのまま俺たちの居る方へと引き上げてくる。



「平気か? ナオ」

「あ、ああ……。し、死ぬかと思った……。なんなんだ? アレ」



 そう言って先輩は上空を見つめる。同じように空を見上げるが、夏の夜空が広がっているだけだった。



「何かにぶつかったようだったな。ナオ、スグルにしっかり捕まってくれ」

「ああ。うへぇ……。なんかネトネトする……。何だ……これ?」



 白い蛇の中から出てきた先輩はそう苦言を呈する。



「唾液だ。蛇なんだからそれくらい当然だろ?」

「うげっ! キッタネッ!」

「ちょっ!! こっちになすりつけないでくださいよッ!」




 ナナシの返答に嫌そうな顔をした先輩は、俺の体で蛇の唾液を拭こうとしてくる。



「ほら、バカな事してないでさっさと行くぞ」

「あ、ああ」

「『心力模倣《重力操作》』」



 再び空へと飛び上がる。しかし、そのスピードは先程までと打って変わってゆっくりだ。多分、空に浮いてる何かにぶつからないようにだろう。



「ここら辺か?」

「いや、分からん」



 なにせ空中だ。目印になるような物も無い。



「…………」

「何やってるんですか? 先輩?」



 黙って片腕をパタパタとさせているのを見て、思わず問いかける。



「いや、その透明な物の場所も見えないんだろ? なら、こうやって手探りで探すしか無いだろ」

「そんな無茶な……」

「あ」



 思わず呆れていると先輩の手の先からコツンと音がした。



「でかした。ナオ。どうやらそれがお前を突き落とした犯人のようだ」

「お、ラッキー!」

「…………」



 うん。もう先輩の運の良さをバカにするのは止めよう。そんなくだらない決意を密かに心の中で固めている内にも、会話は進んでいく。



「それで? これはなんなんだ? 結局」

「さぁな。触ってみた感じは金属っぽいが……。よし、スグル。ここら一帯に電撃を降らしてみてくれ」

「え? 良いけど……。よいしょっ!」



 ナナシに言われ、電撃の雷を空から落とす。すると、その雷が見えない何かを伝い、楕円形を形作っていた。まるでアニメやマンガでよく見る飛行船のような形だ。



「うおっ! 伏島っ! すげぇぞ! 透明な飛行船だ!」

「そうですね」



 子供のようにはしゃぐ先輩を尻目に、俺は飛行船があるはずの宙を見つめる。……なんでこんな物が?



「ナナシ」

「ああ。十中八九心力関係の物だな」

「そうだろうけど……なんのために?」

「分かるわけ無いだろう。俺だって今日始めて見たんだ」

「そうだよな……」

「ハーッ! ハッハッハッ!」

「ん?」



 突然、辺り一帯に響き渡る大きな笑い声。声の元を辿ると月光に照らされながら空中に立っている男の姿があった。



「どうやって飛んでるんだ? アイツ」

「いや、飛んでるんじゃねぇ。飛行船の上に突っ立ってるんだ」

「な〜にをコソコソと話している! 我らのスカイランドに雷を落とした不届き者はお前達か!」

「あ、その事怒ってんのな」



 雷の犯人が俺だからだろうか。どこか他人事な先輩。しょうがないので俺が男に対して話しかける。



「そのことは悪かった! ただ、物に影響は無いから気にしないでくれ!」

「そうかっ! ところで、君たちも心力使いなのか!?」

「そうだ! そっちはなんの目的でこんな物を飛ばしているんだ!」

「この世を正しく導くためだ!」

「…………」



 なんとなくきな臭い理由に思わず言葉に詰まる。どうやら先輩もそれに怪しさを感じたようで



「……伏島、警戒しておけ」



 と注意を促してくれる。



「はい」

「ところで君たち! 心力使いなら私達の組織に入らないか?」

「……そんな急に話を持ちかけられたところで決めることは出来ないな」

「そうか! ならば……ここで死んでもらおう!」



 瞬間、大きく空を飛び、俺の元へと男が向かってくる! その手には、男の身長の半分はあろう刀が握られていた。



「ナナシっ!」

「任せておけ『心力模倣《空鱗(くうりん)》』」



 男の刃が俺達に届く直前、ナナシの心力によってその攻撃が防がれる。



「黒髪に180程の身長。そして何よりも……その左手に生えている口腔。お前が伏島優だな?」

「……なんで俺の名前を知っているんだ?」

「おっと……自己紹介を忘れていたな。私は−−」

「オラッ!」

「グハッ!」



 男との問答の途中で、先輩が男の首に蹴りをかまし、そのまま男が地面に向かって落ちていく。



「…………」

「…………」

「……悪い。ここまで降りて来たのにまさかあんな簡単に落ちるとは思わなかった」



 あまりの呆気なさに申し訳なさげに謝る先輩。正直俺も呆気に取られている。



「ナナシ。どうする?」

「そうだな。反撃の可能性があるアイツをわざわざ助ける必要も無い。ここから落ちたとしても即死はしないだろうから、心力で治してやれば良い。先にこの飛行船を調べるぞ」

「あそっか。心力で治せんのか。……ならなんであんな急いで私を助けてくれたんだ?」

「そりゃお前……。あの距離から落ちてする怪我なんて激痛なんて物じゃ無いからに決まってるだろう。アイツは俺たちを知っていて襲ってきた。すこしは痛い目にあったほうがいいだろう」

「なるほど。サンキューな」

「そう気にするな。元々空を飛ばしていたのは俺だからな。落ちて怪我をされるのは気分が悪い」

「……それにしても随分呆気なく落ちて行っ−−ゴホッ!」



 突然、俺の胸を貫くような痛みが走り、口から血が吐き出る。



「スグルっ!」

「伏島っ!」



 二人に声を掛けられながら胸元を見ると、そこにはベッタリと血がついた刀が俺の胸を貫いていた。コイツ……どうやってっ!?



「再び自己紹介をさせていただこう。私は戸岐(とぎ) 寛貴(ひろたか)。カノン・リールズのリーダー。剣崎様に拾っていただいた野良の心力使いだ」

「オラッ!」

「二度は喰らわん」

「チッ!」



 先輩が再び戸岐に足蹴りを放つが、簡単に避けられてしまう。そして俺の体から刀を抜き、先輩目掛けて−−



「『心力模倣《空鱗》』」

「おっと。君が居たことを忘れていたな」

「俺を忘れるとは、随分と舐められた物だな。カノン・リールズは俺のことを危険視しているんじゃなかったか?」

「すまない。思っているよりも圧が無かった物でな」

「これを見てもそれを言えるか?『心力模倣『白蛇の頭顱』」



 再び俺の腕が白い蛇に変形し、戸岐を喰らおうと大きく口を開ける。



「シャーッ!」

「遅い」



 しかし、戸岐を飲み込もうとした瞬間、蛇の頭がポトリと落ちる。



「クッ! 『心力摸倣《肉体強化》』」

「その程度で私を捉えられると思わない事だな」



 心力によって強化されたはずのナナシの攻撃。しかし戸岐は再び落下し、その攻撃を避ける。



「ハッ!」



 そして落下したはずの戸岐は掛け声と共に恐ろしいスピードでこちらに向かってくる。



「『心力摸倣《破邪衰亡(はじゃすいぼう)》』」



 そう言うと、再生された左手が真っ黒に染まる。



「新しい心力か! 面白い! なら先程と同じようにその腕ごと切り刻んでやる!」



 戸岐の刀と左手が触れ合う瞬間−−



「止めておけ。戸岐」



 突然現れた赤髪の男が戸岐の首を掴み、飛行船の上に連れて行く。カノン・リールズのリーダー、剣崎だ。剣崎に止められてしまった戸岐は憤慨したように訴えかける。



「何故です!? こんな奴に遅れを取る私ではありません! あのまま戦っていれば勝つのは私のはず−−」

「その刀を見てもか?」

「っ!」



 瞬間、ボロボロと崩れ落ちる戸岐の刀。



「見てみろ。お前が伏島優につけた傷も切り落とした左腕もすでに治されてしまっている。お前は今の戦闘で有利を取っていたと思っているようだが、それは大きな間違いだ。あのまま行けばお前はその刀と同じになっていただろう」

「…………」

「というわけで伏島優! ナナシ! 私達は逃げさせて貰う! コイツに良い戒めを教えてもらった事、感謝する!」

「待てっ!」



 そんなナナシの静止の声も聞かずに、剣崎たちの姿は消えていく。



「『心力摸倣《電撃》』……チッ!」



 放たれた電撃は空を切り裂くだけで、見ることの出来ない飛行船はすでにそこには居なかった。

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