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第三十九話 狂愛

次回は8月29日投稿予定です

「うおっ!」



 雷が地面に落ちた瞬間、恐ろしい爆音が鳴り響き、思わず耳を塞ぐ。


 心力が進化したことによって変わった事は二つあった。一つ目は電撃の基本能力の上昇。魂に与えるダメージや電撃のスピード、射程範囲が伸びた。


 そしてもう一つ……。電撃を雷のように上から落とせるようになったことだ。ただ、こっちは初めてだからか、思い通りの位置に落とすのに少し時間がかかる。多分練習すればなんとかなるとは思うが……。とにかく今回は湯ノ花が変な言い訳をしてくれたおかげで助かっ−−



「あっぶな〜! 優くん、こんな事も出来たんだね〜! それとも、心力が進化したから出来るようになったのかな?」

「なっ!」



 煙の奥から、再び湯ノ花の姿が現れる。……マジかよ。どうやったら今のを避けられるんだよ……!



「流石に当たってない訳じゃないよ? でも……優くん雷を落とす前に、意識が上を向いてたよね? だから慌ててその場所から逃げたの。全部を避けられたわけじゃないけど……直撃は避けたから、まだまだ優くんと戦えるよ!」

「……」



 嬉しそうに報告する湯ノ花。しかし、俺としては湯ノ花に知られていない最後の手だったのだ。流石に動揺する。



「このッ!」

「わっ! わわっ!」



 ヤケクソになり、電撃を連射する。黒い稲光が辺りを照らすが、それでも湯ノ花は全てを避けながら、こちらへと近づいてくる。



「せーっの!」

「クッ!」



 胸元へと突き出されるナイフ。しかし、危険感知の心力は顔への危険を示す。慌てて顔を後ろに反らす。


 直後、ナイフが上に動き、俺の顔が元あったところを切り裂く。



「あれ?」



 恐らく俺の行動を予測してのフェイントを含めた攻撃だったのだろう。確かに、危険感知がなければ避けることは出来なかった。だけど、おかげで湯ノ花の体勢が崩れた。


 今なら、コイツお得意の回避も出来ない!


 電撃を放つ。しかし−−



「電撃は限りなく本来の電気と同じ性質を持つ。理亜ちゃんのお父さんもやってたよね? 絶縁体を使った防御」

「なっ!」



 俺の電撃の先にあったのは、先程突き出されたはずのナイフ。その刀身を伝う電撃はその持ちてのゴムで途切れてしまう。


 

「アハハッ! そのびっくりした顔も可愛いよ!」

「グッ!」



 そのままナイフが振り下ろされ、腹の辺りに危険信号が走る。


 なんとか身を捩ってその斬撃を躱そうとするも、流石に避けきれず、再び脇腹から赤い液体が滴り落ちる。



「このッ!」

「おっと……。危ない危ない……」



 再びナイフを振り下ろそうとする湯ノ花の頭目掛けて電撃を放ち、距離を取らせる。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」



 さっきからずっと戦ってるからか、息が切れる。途中で出来た休憩なんて、悠香との会話ぐらいだ。当たり前だ。


 だが、湯ノ花は違う。俺の電撃の軌道を読んで、最小限での回避が出来るからか全く疲れた様子が全く無い。一応雷を落とした時にある程度魂にダメージを与えたが、それもどれくらい効いているのかはよく分からない。


 だが、今でも俺の電撃を避けられている以上、それほど影響は無いのだろう。以前、不利なのは俺の方だ。


 確かに俺の電撃は進化した。だが、進化によってより素早くなった電撃も、俺の拳も、閃光も全て避けられる。先程初めて見せた雷も今となっては簡単に避けられてしまうだろう。



「う〜ん? やっぱり変だなぁ……」



 突然、湯ノ花がそんな事を言い出す。余裕たっぷりに首をかしげ、顎に指を当てている。



「どうして私の攻撃が当たらないの? 優くんなにかしてる?」

「当たらない? さっきからちょくちょく俺の事切ってる癖に何言ってんだ」

「だってね! 私優くんの考えてる事が分かるから、優くんがどうやって攻撃を避けるとか分かってるハズなんだよ! だから優くんが避けられないように切ってるつもりなんだけど……優くん、なんか私の考えと違う動きをしてるんだよね……」

「だから言ってんじゃねぇか。お前の俺への理解が足りてないってな!」



 湯ノ花に向かって再び電撃を放つ。一か八か、避けられないように今回は一直線に。だが、それも簡単に避けられてしまう。



「それは違うよ〜。だって私、優くんの事はよく分かってるよ? 今だって優くんが電撃を撃ってくるのも分かったよ? 今の油断しきってる私に避ける時間を与えないようにまっすぐ撃ったんだよね? だから優くんが何か変わったと思うんだけどな……あっ!」



 何かに気づいたように湯ノ花が大きく目を見開く。



「そうだよね、そうだよね! 優くん、悠香ちゃんの暴走を抑えたんだし、悠香ちゃんにあげた心力持ってるよね〜! うっかりしてた! 確か能力は……危険の感知!」

「チッ……!」



 思わず舌打ち。だが、危険感知の事は分かった所でどうにかなる物じゃない。このままなんとか攻略の糸口を……



「じゃ、こうしよ!」

「……は?」



 瞬間、俺の視界が真っ白に染まる。そして、どこからか声が響く。



「ねぇ? びっくりした? びっくりしたよね? だってこの煙のこと、さっきまで電撃が地面に当たった衝撃で出来た物だと思ってたもんね! けど……よく考えてみて? 優くんの電撃は物理的な影響は与えられないでしょ? 悠香ちゃんが作り出した氷は普通の物だから、地面に当たったからってこんな煙は出来ない。違う?」

「ッ……」



 湯ノ花の言葉を無視し、俺は神経を集中させる。目が使えない以上、頼りになるのは危険感知だけだ! 危険感知が反応した瞬間動けば……



「あがっ!」



 瞬間、体から平衡感覚がなくなり、ゴンッ! と鈍い音が響く。少し遅れて後頭部に鈍い痛みが走る。



「ねぇ? なんで無視するの? あっ! もしかして私に気が付かなかった!?」



 煙が晴れると、俺に馬乗りになった湯ノ花が現れる。……なんでだ? 足をかけられたことに全く気が付かなかった! 危険感知が働かないなんてことあるのか?



「あは〜。やっぱりそうなんだ〜。ウフフッ! やっぱり私は、優くんを愛してるんだな〜!」

「何をやったんだ? お前」



 何故か俺の危険感知が効かなかったことに気づき、自身の頬を赤く染める湯ノ花。



「ん? なんにも特別なことはしてないよ? ただ、優くんをとってもとっても愛しただけ。私の優くんへの愛を危険なんて言うなんて、私はそんなの絶対許さないんだからね?」

「……ッ!」



 俺の目を奥深くまで見通すような黒く濁った瞳。それに思わず気圧される。



「アハハッ! その怯えた顔。とっても可愛いよ!」

「クッ!」



 興奮したように笑う湯ノ花をどけようと、電撃を放つ。しかし、それはナイフによって簡単に受け止められてしまう。



「もうっ! 優くんしつこいよ! そんな人には……こうっ!」

「うぐぁぁぁぁぁっ!」



 腕にナイフが突き刺さり、鋭い痛みが俺を襲う。



「あぁぁぁぁ……。優くんッ! 可愛いよ! 痛い? 痛いよね? だってそんなに辛そうに顔歪めてるもんね! でも……そんなに可愛い姿見せられたら、もっといじめたくなっちゃうよ!」

「ウグッ!」



 言い終わると同時に、湯ノ花は何度も俺の腕目掛けて、ナイフを振り下ろす。


 そのたびに、俺の左腕に激痛が走る。避けようにも、ナイフで既に深い傷を付けられてしまった右腕は思うようには動かない。



「ねぇ? 辛い? でも優くんにはどうする事も出来ないよね? だって電撃は簡単に避けられるし、雷は優くんにも当たっちゃう」

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」



 激痛を耐える事に精一杯で、ただ荒い息を吐く事しかできない。だが、それは湯ノ花にとっては気に入らなかったようで。



「ねぇ? 何か返事してよ? じゃないと私……」

「アガッ!」

「我慢できなくなっちゃうよ! ねぇ!」



 突き刺されたナイフをグリグリと押し込まれ、さらなる激痛に見舞われる。


 痛い痛い痛い痛い痛い! なんでこんな目に……! 違う! なんとか抜け出す手立てを……!



「ねぇ? 優くん?」

「なん……だ……」

「もういい加減諦めたら? 痛いでしょ? 苦しいでしょ? 確かに諦めない優くんもカッコいいけど、私は完全に諦めきった優くんが見たいの。だから……諦めて? そうしたら楽にしてあげるよ? どう?」

「ふざ……けんなよ……。俺は……悠香を……助けるって……だから……諦めなんて……絶対に……!」

「ふ〜ん……」



 先程までの笑顔から一転、無表情になった湯ノ花。その声は底冷えするような低い声だった。



「ガッ!」



 そして、無言でナイフが振り下ろされる。



「ねぇ? 絶対に諦めない? 本当に? これでも?」

「グッ!」



 淡々とナイフが繰り返し俺の腕に振り下ろされる。その度に俺の左腕が赤く染まっていく。



「どう? 諦める気になった?」

「……」



 笑みを称えながら聞いてくる湯ノ花に対して、無言で睨みつける。もちろん、諦めるつもりなんて毛頭無いという意思表示だ。



「そっか。残念だな……。優くんが絶望した顔はとってもとっても可愛いのに……。あぁ……、もうダメ……我慢できない! これも諦めてくれない優くんが悪いんだからね? ねぇ!? ねぇ!? ねぇ!?」




 もはや痛みでほとんど自由に動かない体。その中心の、心臓がある辺りを目指して、ついにナイフが振り下ろされようと−−



「ウッ!」



 しかし、そのナイフが俺の心臓を刺すことは無かった。代わりに、激しくしみるような痛み傷口全体に広がる。そして、ポタポタと冷たい水が俺の顔に落ちてくる。



「もう……何? 悠香ちゃん? 私今忙しいんだけど?」

「……めて」

「え? 何?」

「もう止めて! これ以上、スグ兄をイジメないで!」

「ん? イジメてなんて無いよ。ただ、優くんをとっても魅力的にしてあげてるだけ。悠香ちゃんも分かるでしょ? 優くんは苦しんでるときが一番魅力的だって」

「そんな事無い! 私は、スグ兄の事が大好きだけど……それでも! あなたが言う所には、魅力なんて全く感じない!」

「悠香……。止め……ろ……」



 必死に湯ノ花を否定する悠香を俺は制止する。コイツは俺の苦しむ姿をみたいってだけでこれだけ人を傷つける事が出来る奴だ。そんな事言ったら何をされるか分かったものじゃない。



「ふ〜ん……。ま、良いけど。でも、優くん殺すの邪魔されちゃったしな〜。あっ! そうだ! 悠香ちゃん殺せば、優くんも諦めてくれるんじゃない? だって優くんが諦めないのは、悠香ちゃんを助けるって言ったからだもんね?」

「えっ?」

「あがっ!」


 そう言うと、湯ノ花は俺の右腕にナイフを突き刺し、地面に留め置く。そして、立ち上がり悠香の方に向かって歩いていく。



「悠香……逃げろ……」

「い、嫌だ……! スグ兄を置いて逃げるなんてしない!」



 そう言う悠香の膝はガタガタと震えていた。確実に無理をしている。



「ウフフッ! 悠香ちゃんも、優くんにそっくりでカッコいいねぇ! でもね、それは無謀って奴だよ? さっきの暴走状態ならまだしも、今の悠香ちゃんに何か出来る? 氷だって、さっきの水に戻すのが精一杯。ちょっと冷たいけどそれだけで、何か出来る?」

「……ッ……!」



 悠香が悔しそうに歯噛みし、少しずつ後ずさる。そして、悠香は湯ノ花に向かって何度も何度も水をかける。しかし、それで湯ノ花が止まることはなく、少しずつ距離が詰められていく。



「アハハッ! 悠香ちゃんの怯える顔も可愛いっ。優くん程じゃないけどね!」

「クッ!」



 急げ……! 早くこのナイフを……! 早く……早く……!



「うおぉぉぉぉぉ!」



 全力でナイフを抜き取り、立ち上がると同時に湯ノ花に向かって電撃を放つ!



「アハハッ! すごいね! まだ立てるんだ! でも……そんな電撃に当たるほど私は甘くは−−」

「悪いが……俺の狙いはそっちじゃない」

「え?」



 湯ノ花の困惑した声。同時に俺は電撃の向きを変え、地面の水にぶつける! 


 さっき、この水が傷口にかかった時、激しく痛んだ。もしかしてと思って舐めてみたが、それは塩水だった。多分……海水だった時まで時間が巻き戻ったからだろう。


 恐らく、湯ノ花はこの事に気づいていない。怪我をしていないから。そしてアイツの俺の心を読む能力は、さっきの危険感知のように、知らないことがあると100%の精度で読み切れない!


 だから……これがただの水だと思っている湯ノ花は、水を伝えて電撃当てるつもりだという俺の行動を読むことは出来ない!



「ガッ!」



 俺の予想通り、水を伝った電撃に全身を貫かれた湯ノ花は、そのまま地面に崩れ落ちた。

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