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第二十九話 魔弾の射手

「さぁ! 私達を侮った罰を喰らいなさい!」



 近距離からの大量の黒い腕による打撃。遠距離からの打撃は躱されてしまうと考えた高藤は、凍砂を仕留めるべくハイリスクな行動を取った。


 そしてそれは、凍砂が動けないからこそ出来る行動でもあった。



「フッ!」



 ギリギリまで黒い腕を引き付けた凍砂は鎖刀の鎖部分を伸ばし、高藤の方へと投げ、地面に突き刺す。そして、鎖を縮めることで自身の体を高藤の方へと引っ張る!



「さっきから随分簡単に罠に掛かってくれるんだな。動かないからって動けないとは限らないぞ?」

「グッ!」



 僅か一瞬の攻防。そのスピードについていけなかった高藤は脇腹を切りつけられ、ドクドクと血を流す。



「そう簡単に致命傷は与えられないか……。で? 罰はもうおしまいか?」



 初めて傷を与えたところでの挑発。有利な状況ではなくなり、余裕が消えた高藤は……。



「このっ! 私達を舐めるのも大概にしろッ!」



 激昂と共に黒い腕が再度、凍砂に襲いかかる!

 


「またそれか……攻撃が単調なんだよ……」



 何度も見た同じ動きに凍砂は呆れた様子を見せる。だが、それは今までの攻撃とは様相が違っていた。



「!?」



 今まで、黒い腕の隙間から飛んでくる銃弾は一発だった。しかし、今回はそれが三発に増えた。その多方面からの攻撃に手が足りなくなった凍砂は、なんとかそれを躱しつつ、思考を巡らせる。



(どういう仕組みだ? 狙撃手は一人のハズ……。じゃなければ最初からいっぺんに撃ってこない理由が無い。何か条件が……)

「そんな考え事をして良いのですか?! 動きが疎かですよ!」

「ウグッ!」



 凍砂の腹にいくつかの黒い腕がめり込み、その勢いで吹き飛ばされる。吹き飛んだ先に銃弾が飛来し、凍砂の足を貫く。



(マズイな……。狙撃の方をなんとかしないとアイツに攻撃が当たりそうに無いってのに、仕組みを考察する余裕が無い。このままじゃジリジリと削られていく。なら……)



 鎖刀の中間を持った凍砂は、それを旋回させ、全ての腕を弾きながら高藤へと近づく!



「無駄なことをっ!」

「ああ。だが、これで隙が出来た」

「クッ!」



 一瞬の隙の内に腕を一纏めにし、片腕で抱え込む。それと同時に黄金の輪を作り、全ての腕を通す。すると、黄金の輪が縮み腕を拘束。高藤はなんとか外そうと腕を暴れさせるが、その間は凍砂へと攻撃が届かない。



(今のうちに……!)



 再び高藤本体を狙うために、凍砂は走り出す! その間も弾丸が飛来するが、その数は一つ。走りながら凍砂は考える。



(移動し始めた途端弾が一つに……あの場所じゃないと多方向からの同時攻撃は出来ないのか?)

「このっ!」



 そんな思考をよそに、慌てて腕の輪を外そうともがく高藤だが、全力で迫ってくる凍砂の攻撃には間に合わない。そのまま刀が首に届く寸前−−




 凍砂が動きを止める。その少し先を銃弾が通り過ぎる。しかし、その数は先程と同じ一発のみ。



「同じ事するわけねぇだろ? しっかり対策するっての」



 言いながら凍砂は刀を振り下ろす。フェイントを入れ、銃弾も避けた。さっきから弾丸は一発しか飛んできていない。今度こそ当たる。その確信が凍砂にはあった。しかし−−



「ガハッ!」



 その確信とは裏腹に反対から飛来してきた弾丸に脇腹を貫かれ、動きが止まる。その隙をついて、黒い腕の束が凍砂を吹き飛ばす。



(どういう事だ……? 弾丸は一発しか飛んでこないハズ……。予想が外れたか?)



 凍砂は考えながら弾が飛んできた方向に目を向け、気がつく。地面に、壁に、小さなひび割れが入っていることに。



「なるほど……跳弾か」

「ご名答でございます」



 高藤はニヤリと笑みを浮かべながら凍砂を称える。



(たとえ一発ずつしか弾を撃てなかったとしても、序盤に撃つ弾をより多くの場所に跳弾させることができれば、距離に差が出来て到着するタイミングも同じになる。別々の場所を跳弾させれば弾の方向も変わってどこから弾が来るのかわからなくなる。っところか。

 移動してから弾の数が一発になったのは……それぞれどれくらいの時間で弾が届くのかを測ってたのか? ならこれからはどこに居ても三発の弾が飛んでくるな。いや……慣れてくれば更に多くの弾が……)

「しかし、気づくのに時間がかかりすぎましたね。脇腹を撃たれてしまっては、さすがのあなたも先程までの動きは出来ないでしょう。狙撃者の位置も分からないでしょうし……」



 初めて入った有効な一撃のおかげか高藤は上機嫌に話す。すでに腕を拘束していた輪は外されている。



「時間がかかりすぎたってことは無いぞ? これくらい、俺からしたらこんなの怪我の内にも入らねぇ。残念だが、跳弾ってタネを暴いた時点で俺の勝ちだ」

「ならそれを否定させていただきましょう!」



 黒い腕と銃弾の波状攻撃が凍砂へと襲いかかる! それを避けるか、鎖刀で弾くかして、被弾をゼロ抑える。しかし、凍砂の予想通り銃弾の数が増え、手数が足りなくなる。



(……流石にマズイな。俺の動いた先に銃弾が飛ぶようになってきてる……。行動が読まれ始めたな。こうなったら……)



 凍砂は万火廣から壁を生成し、左方向からの弾を防ぐ。余裕が出来た凍砂は黒い腕の上に飛び乗りそこから再び高藤へと迫る! 右手側からの攻撃も、旋回する鎖刀に弾かれ意味をなさない。



「無駄です!」



 突如、後ろから引っ張られ凍砂はバランス崩す。振り向いてみると、腕から生えた腕が凍砂の事を引っ張っていた。



「チッ!」



 バランスを崩し、初めて慌てた様子を見せる凍砂の一瞬の隙を高藤は見逃さない。一気に体を締め付け、動きを封じる!



「こんな拘束、一瞬で……!」

「一瞬でもあなたの動きを封じられるなら十分です! マキ! 撃ちなさい!」



 一瞬でしかない凍砂の動けない時間。その短い時間に急所に攻撃を当てるため、最短距離での狙撃がなされる。その銃弾は凍砂の脳天めがけて一直線に飛び――



「……そこか」



 弾丸が当たる寸前、万火廣でヘルメットを作成し、弾丸が致命傷になることを防ぐ。狙撃手の位置が分かった凍砂はすぐさまドーナツ上に壁を生成し、腕の拘束を緩めてそこから脱出する。


 地面に着地すると同時に刀が消え、服の背中に二つのジェットエンジンが作られる。それを使って凍砂は弾丸が発射されてきた方向へとエンジンの反動を使って吹き飛んでいく。



「じゃあな」

「待てっ!」



 高藤の声を無視して、向かう先は街の高層ビルの一つ。そこから何発もの弾が飛んでくるが、来る方向さえ分かっていれば当たることはない。そのまま難なくビルの屋上へと到着。そこには長い銃身のスナイパーライフルを持った女が居た。






「お前がマキか? やっとそのご尊顔を拝めたな」

「クッ!」

「当たんねぇよ……この場所じゃ」



 悔しそうに顔を歪めながら、マキと呼ばれていた女は銃を撃つが跳弾もしないただの弾丸など、凍砂にとって躱すことは容易い。そのままマキの胸ぐらを掴んだ凍砂はビルから飛び降りる。



「そんな迂闊に私に近づいて良いのかしらっ!? 私の心力も分かってない癖にっ!」

「そう強がんな。普通の人間にあんな複雑な跳弾の角度計算が出来るはずがねぇ。お前の心力は大方、演算能力の強化ってところだろ? つまり戦闘能力は無い。俺に近づかれた時点で、お前の負けは決まってるんだよ」

「ウグッ!」



 言い終わると凍砂は、マキをビルに向かって投げつける! 窓ガラスを突き破り、向かい側の壁に叩きつけられたマキはヨロヨロと立ち上がろうとしたが、その後に飛んできた大きな棒状の金属が壁にめり込み、体を拘束される。それと同時に凍砂の背中にあるジェットエンジンが一つになる。



「そこで大人しくしとけ」

(よし……これで厄介な狙撃の方は処理できたな。思ったよりも簡単に引っかかってくれて助かった……)



 先程、弾丸がヘルメットを押し込んだ事で流れた血を手で拭いながら、凍砂は安堵する。そう。先程の一連の流れでの彼の狙いは始めから狙撃手の位置の特定だった。たとえ高藤を倒したとしても位置が分かっていない狙撃手の方には逃げられる可能性があった。


 そのために凍砂は一瞬の、小細工をする余裕が無いほどの僅かな隙を見せ、跳弾無しの直接攻撃を狙ったのだった。



(もう少し狙撃が早かったら危なかったかもだけどな……。ま、結果オーライだな)

「追いつきましたよ!」

「おっと……」



 高藤の居る方に向かうために、落下し続ける凍砂。だが、そのすぐ横を掠めながら黒い腕がビルにめり込む。



「追う手間が省けたな」



 そう言う凍砂の視線の先には、ビルの壁を支えとして宙に浮いている高藤の姿があった。



「舐めないでいただきたい……。あなたが現在、不利な状況にある事は分かっています。大人しく勝ちを譲って貰いましょう!」

「何が不利だって?」

「カハッ!」



 ジェットの噴射を使って高藤に近づいた凍砂は、そのまま鳩尾に拳をめり込ませる!



「どうした? 俺の方が不利なんだろ?」

「どれだけ煽ろうと、あなたの不利は覆りませんよ? 今のでそれがハッキリしました。あなたが先程から行っている物質生成。それは、同時に二つまでしか生成出来ないのでしょう?」

「……」



 笑いながら話を聞いていた凍砂の顔から笑みが消える。



「図星と言ったところでしょうか? あれだけやれば私でも分かります。先程、銃を撃った時も、ここに来るためにジェットを二つ作り出した時も、あなたは鎖刀を消していました。一度目に生成していたのは銃身と銃弾。二度目はジェットエンジンを。それ以上は作り出せないのでしょう?」

「……」


「もう一つ聞きましょう。あなたは何故今、鎖刀を使わずに拳で殴ったのですか? 答えは簡単。一つはマキの拘束。もう一つは空中での体勢維持のためのジェットエンジンに使われているからです。

 空中での体勢維持に気を使い、武器も無しに、魂に干渉できなければ突破する事が出来ない心力を掻い潜ることがあなたに出来ますか?」

「……」



 意地の悪い笑みを浮かべる高藤とは対象的に凍砂は完全に押し黙る。


 確かに、凍砂は万火廣を用いて二つよりも多くの物質を生成する事は出来ない。


 それは、持ち主の思考を受けて変化するという性質による。万火廣で生成したものは持ち主の思考を受けただけで、簡単にその形を変える。そのため物体の形を保つには、強いイメージが必要となる。


 そのため、凍砂が安定して運用できる武器の数は二つまでだった。



「どうやら無理なようですねぇ!? さぁ、大人しく私に−−」

「ククッ……ククククッ。ハハハハハッ!」



 勝ち誇った顔で話し続ける高藤の声が遮られ、大きな笑い声が辺りに響く。



「どうしたんですか?」

「いや、悪い……。そんな事で勝ち誇っているのが滑稽でな……。そんなんだからお前は『小物』なんだよ」

「この……っ! その呆れた口を二度と開けなくしてやるっ!」



 意地悪く言い放たれた凍砂の言葉に激昂し、口調が再び崩れた高藤から大量の黒い腕が放出される!



(さっきよりも腕が多い……。伏島が言ってた心力の進化か……)

「ま、数が多くなったところでどうって事は無いな」



 凍砂はそうつぶやくと、ジェットエンジンを消し、鎖刀を作成する。



「バカが! そんな棒切れで私の黒腕を突破出来るとでもっ!?」

「余裕だな」



 体を傾け、ビルの壁を強く踏みつけた凍砂はその脚力のみで高藤へと飛び出す! そのままの勢いに鎖刀を用いて、全ての黒い腕を切り刻む!



「なっ!? なんだと!? 私の黒腕がっ!?」



 斬られるはずの無い自身の心力が切断され、高藤の顔が驚愕に染まる。大門凍砂の持つ武器、万火廣の性質は、持ち主の魂を感知し自在な物質へと変形することが出来る極小の物質の集合体。


 それによって作られた鎖刀には現在ある効果が付与されていた。その効果は……魂への干渉。


 これにより凍砂は現在、高藤の黒い腕ですら破壊が可能となった!



「これで、やっと……詰み。だな」



 高藤を守っていた黒い腕も、狙撃も、全てが対処された。もう高藤を守るものは何も無い。そのまま凍砂は鎖刀を胸元に突き刺した。魂に激しい損傷を加えられた高藤は意識を失い、落ちていく。



「ま、酔い覚ましくらいにはなったかな……」



 改めてジェットエンジンを作り出し、落ちていく高藤を担ぎ上げながら、凍砂はそう呟いた。

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