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第二十八話 同業者

次回はは5月23日午後七時更新です。

 黒い腕によって無理やり距離を取らされた凍砂は、攻撃出来る範囲まで近づこうと走り出す! 当然、距離を取っていれば一方的に攻撃が出来る高藤は黒い腕を使ってその道を遮る!



「結構力強ぇな……。ま、止まるほどじゃないが」

「それはどうでしょうかっ!」



 襲いかかる腕の殆どを体をひねりながら避け、必要最低限の腕のみを蹴り飛ばしながら歩を進める凍砂。その動きを見て、散発的な動きでは止められないと考えた高藤は、すべての腕を一箇所に集め、同時に攻め立てる! しかし、それは先程と同じように大きく飛び上がることで回避される。



「全部一度に腕を使って大丈夫なのか? こんなふうに避けられたら一気に距離を詰められるぞ?」

「それも織り込み済みですっ!」



 高藤が大声を上げると、腕は空中に居る凍砂に向かって襲いかかる! 空中では、流石の凍砂も自由な動きは難しい。そのまま身柄を拘束される。



「おっと……流石に同じ動きは駄目か……」

「あなたの情報は依頼者から得ています。いくらあなたと言っても、私達を舐めないほうが良い」

「お前みたいな小物が、俺のことを知ったところで、どうしようもないだろうがな」

「……今、なんと言った?」

「あ? なんだ?」

「今、私のことを小物と言ったのか……?」



 静かに問いかける高藤の声には怒気が孕まれている。それを見た凍砂はニヤリと笑う。



「何怒ってるんだ? 今のお前の言動。誰がどう見ても小物だろ」

「呆れた物言いをするなッ! 私達心力使いは選ばれし者なのだ! 小物などでは全く無い!」



 単純な煽りに面白いくらい反応する高藤。それを見て凍砂は更に煽りを加速させる。



「ならさっさと俺を殺してみろよ? 異能の一つも持ってない俺を倒すのなんて、選ばれし者のお前なら簡単だろ?」

「良いでしょう! このままあなたを握りつぶしてその言葉を必ず訂正――」

「そんなグダグダ言っているならさっさとやれよ……。それとも俺を舐めてんのか?」

「なっ!」



 腕の拘束を強め、握りつぶそうとしたその時、全ての腕が弾け飛ぶ。そのまま、凍砂は地面に着地。



「なるほど……。全部に掴まれると抜けるまでに数秒かかるな……」

「このっ!」

「遅ぇよ」



 慌てる高藤は全ての黒い腕を総動員し、凍砂を追いかける! しかし、腕のスピードよりも凍砂の方が幾分か速く、追いつくことが出来ない。高藤の方へと向かいながら、凍砂は思考する。



(狙撃がどこから来るのかはさっきの一発で分かっている。あいつの向こう側からだ。それさえ分かっていれば撃たれてからでも対応出来る! このまま一気に――)



 距離を詰めようとした凍砂の頭に小さな違和感がよぎる。



(狙撃が少ないってか……少なすぎるな。さっき跳んだ時も、その後の高藤に捕まったときも、全く攻撃される様子がない。何か制限があんのか? いや、それよりも今考えるべきは……)

「死角からの攻撃だな」



 そう結論付け、足を止める。それと同時に右側から弾が飛んでくる。


 それは凍砂の足を掠めながら、更に向こう側へと飛んでいった。



「チッ……。もう少し早くに気付ければ被弾しなかったな」

「おや、これも避けますか……なかなかに厄介ですね」

「厄介はどっちだ。俺の油断を誘うためにわざわざ無防備な姿を晒したんだろ?」

「さて? なんのことでしょうか?」



 白々しい笑みを湛える高藤。それを見て、凍砂は敵にまだ策があると直感する。



(狙撃はどうやって射線を変えているのか分からない上、狙撃手の位置も分からない。相手の底力も不明)



 自身の状況が不利であると判断した凍砂は、武器の使用を決意。左腕に着けた時計を軽く叩く。



「?」



 その時、時計が液体のように溶け出したかと思うと、真っ黒なボディスーツとなって凍砂の全身を包む。その間、僅か0.1秒


 その一瞬の出来事を目の当たりにした高藤は何かされる前にと、凍砂の四方から黒い腕を襲わせる。



「ちょうど良いな」



 腕に襲われる中、凍砂は落ち着いたようにボディスーツの胸元から飛び出ている何かを引っ張り出す。その手には、二本の小刀とそれらを繋ぐ一本の長い鎖が現れていた。



「コイツが異能に通用するか、試させて貰おうか」






 大門凍砂の使用する武具、『万火廣(ヨロズヒヒロ)』は時計の形を取っているが、その実、持ち主の魂を感知し自在な物質へと変形することが出来る極小の物質の集合体である。


 万火廣はそれを凍砂専用に調整された物。時計に強い振動を送ることで彼専用のボディスーツへと変化するよう設定されている。



「行くぞ?」



 掛け声と共に、襲いかかる黒い腕を鎖刀を用いて凍砂は全て弾く。



(全て弾かれた!? いや、それよりも……先程より明らかにスピードが上がっている! あの服のせいか!)



 ボディスーツによるフィジカルの強化。それはただでさえ驚異となる凍砂の身体能力を120%まで引き上げ、最強をより最強たらしめる。



「やっと小物らしい表情になったな」



 高藤の直ぐ側に到着した凍砂はその首元目掛けて刀を振るう。しかし、刀が首に触れる寸前にその鎖が大きく弾かれる!



「ッ!?」



 大門は慌てて飛び退く。どうやら鎖に弾を当てられたようだった。



(振り下ろしている鎖に直接弾を? 今の多方向からの狙撃といい、なんかタネがありそうだな……)

「考える暇など与えません!」



 どこか違和感のある狙撃、その正体を探る凍砂の邪魔をするように黒い腕が再び襲いかかる!



「腕に攻撃してもダメージは薄そうだな……」



 攻撃を避け続ける凍砂は、黒い腕への攻撃は効果が薄いと考えて鎖刀を消滅させ、拳銃を作成。作り終わると同時に高藤に向かって発砲する! しかしそれはたった一つの腕に防がれる。



「そんな豆鉄砲でこれを貫くことは出来ませんよ? この黒腕は確かにあなたなら簡単に弾けるかもしれません。だからといってその程度の攻撃を守れないほど弱くはありません」

「みたいだなっ!」



 拳銃を消し、凍砂は鎖刀を振るう。二人の間には鎖刀では埋められないほどの距離があった。攻撃が届くことはない……はずだった。



「なッ!?」



 刀が最高速度になる直前、鎖がジャラリと音を立てて伸びる。それに合わせて、刀が高藤の首へと向かう! しかし黒い腕はその長くなった鎖をしっかりと掴み、大きく振り回し投げ飛ばす。



「うぉっと!」



 投げ飛ばされた凍砂は刀を地面に突き立て、勢いを殺す。



「チッ……。流石に首は狙い過ぎか……」

「分かりましたか? あなたの攻撃が私に届くことは無い!」

「そう言ってる割に、今のは危なかったんじゃないか?」

「このッ! どこまでも……!」



 挑発に簡単に乗り、ギリッと歯ぎしりした高藤は再び黒い腕で凍砂を狙う! それと同時に断続的な銃弾。



「先程までの攻撃だけでなく、狙撃も含めた更に濃密な攻撃の数々! これならあなたでも防げないでしょう!」

「その程度で止まるとでも?」




 確かに、初見で同じような攻撃がされたのならいくら凍砂と言えど多少の被弾は避けられなかっただろう。しかし、先程から何度も行われた黒い腕との攻防。その経験によって、凍砂は黒い腕の捌き方を完全に心得ていた。



「何ッ!?」



 最小限の動きで黒い腕をいなし、銃弾を鎖刀で弾く。その攻撃が途切れた一瞬、凍砂は再び高藤の元へと走り出す!



「クッ!」



 会心の攻撃を避けられたからか、慌てたような高藤の声。それに合わせて、一部の黒い腕が高藤を守るように立ち塞がる!



(その程度の守りならこの刀で無理やり叩き切れる! さっき躱した腕のおかげで射線は通っていない! これで――)



 刀が黒腕を捉え、凍砂が己の勝利を確信した瞬間、腕がゴムのようにぐにゃりと曲がる。



「ッ!?」



 予想とは違う腕の動き。それに気を取られた凍砂は攻撃に転じた腕を、モロに腹に受けてしまう。そのまま壁に叩きつけられた凍砂は



「ゴホッ! ゴホッ!」



 と強く咳き込む。ぶつかった衝撃でボロボロと崩れる壁によって砂煙が舞っていた。



「私の黒腕を弾けたからと言って、簡単に切り落とせると思いましたか? 残念。この腕は私の魂を元に生成された物。

 あなたは先程私の腕を弾いた時ダメージが薄かったとお思いだったようですが、それは全くの間違い。魂に傷つけることが出来ないあなたの攻撃など、私の黒腕を前にしては児戯にも等しいのです!」

「ハッ! そうかよ……。この程度で勝ち誇って自分の能力をペラペラと話すなんて相変わらず小物みたいだな」

 


 勝ち誇るように告げる高藤の言葉を凍砂は鼻で笑い飛ばす。



「先程から、小物小物と、あなたのような選ばれることの無かった者に私達の偉大さは分からないのでしょうね……」

「俺は今までいろんな人間と会ってきた。その中には確かに大物だって言えるような奴も居た。」

「急にどうしたのですか? 最後に何か言いたいことでも?」



 床にへたり込んだまま、凍砂はおもむろに語りだす。反撃する様子が無く、困惑する高藤。しかしそんなことはお構い無しに、凍砂は滔々と語る。



「だがな、そういう大物って言えるようなやつには大抵共通点があるんだ。圧倒的な自己。そういう奴らにはそれがある。

 他人の評価なんか全く気にせず、ただ自分の目的をひた走る。それに周りの人間は付いて行って、結果、風格が出来る。何が言いたいか分かるか?」

「さぁ? そもそも私はあなたの持論に興味なんてありませんから」

「他人から依頼を受けて俺を殺しに来たり、小物だなんだと言われただけで頭に血が上る。そんな奴が大物なんてなれる訳ねぇんだよ。バカ野郎」

「フッ……」



 再び煽られた高藤は目をスッと細める。凍砂は知っていた。戦闘において相手を怒らせれば、それだけで相手の動きが粗くなる事を。高藤も例に漏れずそのタイプであることは一連の流れで分かっていた。


 そんな高藤を怒らせるために行われた挑発だったが、有利なのは自身だと思っている高藤にその挑発は意味をなさず、冷静な口調のまま、座り込み続ける凍砂に近づく。



「ならばあなたはそんなバカ野郎にも負けるような人間だったと言うことですか? 今も私の打撃を受け、立つことすらままならないと言うのに……。

 分かりました……。そんなあなたには死を持って自身の矮小さを思い知らせて差し上げましょう! さぁ! 私達を侮った罰を喰らいなさい!」



 高藤は大声でそう言い切ると、全ての腕を使って凍砂を仕留めにいった。

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