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第二十七話 特訓

次回は5月16日午後七時投稿予定です。

「オラオラオラオラァ!」



 森の中に先輩が拳を繰り出すと同時に大きな掛け声が響く。俺たちは現在、添木父の言っていた協力者の一人、大門凍砂さんと戦闘訓練をしていた。どうしてこうなったのかと、俺は今日の朝の出来事を思い出す。






 小清水がご令嬢と発覚した翌日、スマホの着信音で目を覚ます。



「?」



 寝ぼけなまこをこすりながらスマホを手に取ると、液晶には添木満の文字。何かあったのだろうかと思いながら通話に出る。



「はい。伏島です……」

『あ、もしもし? ごめん? 寝てた?』

「いや、大丈夫です……。いつもこれくらいに起きてるんで……。それで、何かあったんですか?」

『うん。ちょっと君と狩ノ上さんに用があってね、今日の一時過ぎに駅前来れる?』

「一時? まぁ……大丈夫ですけど……。なにするんですか?」

『それはまぁ、来てからのお楽しみって事で〜。それじゃ、また一時過ぎに〜』



 それだけ言われると、ぷつりと通話が切れる。……一時過ぎって事は急を要することじゃないってことなんだろうけど……。ホントになんなんだ? そんなことを考えていると、家のインターホンが鳴る。



「誰だ? こんな朝早くから……」



 現在は午前十時。宅配などは頼んでいないので、おそらくはセールスか何かだろう。非常識な時間の訪問に辟易しつつもインターホンへと向かう。



「お、伏島か? 今お前ん家上がっていいか?」

「え? 先輩? 別に大丈夫ですけど……」


 

 面倒臭く思いながらもインターホンに応答すると、それはつい最近まで共に入院していた狩ノ上先輩だった。



「お、サンキュ。さっき理亜のとーちゃんから連絡が来てな。私とお前が名指しで呼び出されたから何か知ってるのかと思ったんだが……。何か知ってるか?」

「いえ、俺も特には……さっき連絡が来て、はぐらかされてしまったので……」

「そうか……っていうか入れてくんね? 外あっついわ」

「ああ。すみません。今開けますね」

「んあ。頼む」






 気の抜けた返事を聞きながら、玄関へと向かう。ドアを開けると、先輩がズカズカと家に入り込んでくる。



「おお〜涼しい〜。いやマジで外暑くね? もう夏休み終わったってのによ〜」

「そうですね……。っていうかなんで俺の部屋番号分かったんですか?」



 先輩の愚痴を聞きながら、俺は先程から気になっていたことを聞く。



「んなもん勘だよ。ここだろうな〜ってところに当たりを付けて、そこらへんを見たら後は表札で分かるだろ?」

「分かるだろって……。普通は当たりが付かないですけど……。まぁいいか。どうぞ。粗茶ですが」



 先輩の勘というか運がいいのは先日の入院生活で分かったことなので無理矢理納得。そして、入れたお茶を座っている先輩に差し出す。



「お、サンキュ。あ〜生き返る〜」

「それで、なんでわざわざ家に? スマホでも何でも連絡すればよかったんじゃないですか?」



 先輩がお茶を飲み終わってから、再び質問。



「家だと親に見られたり聞かれたりするかもしれないからな……。嫌だろ? 受験期に娘が変なことに首突っ込んでたら」

「それもそうですね」



 心力然り、警察である添木父然り、本来なら受験中に関わるような物ではないはずだ。普通の感性の親なら、それを知った時点で止めるだろう。



「って言うわけで一人暮らしで誰かに聞かれる心配の無いお前の家に来たって訳だ。悪ぃな。こっちの都合で邪魔しちまって」

「いえ、別に困ったりはしてないので気にしないでください。ただ……来てもらった所で悪いんですけど本当に何も知らないんですよね……」

「言ってたな。ま、知らねぇんならしょうがねぇや……。そんじゃ、次の話だ」

「次?」



 そういった先輩の表情はとてもいい笑顔をしている。しかし、その目は全く笑っていない。……え? なんでこの人怒ってるの? 全く心当たりがない俺は思わず困惑。



「お前……なんか新しい敵と戦ったらしいじゃねぇか?」

「……あっ!」



 言われて気づく。そうだった! この人なんか色んな人と戦いたいみたいなこと言ってた!



「あっ! じゃねぇ何私の知らない所で勝手に戦ってるんだ! 卑怯だぞ!」

「そんな理不尽な!」



 こっちだって戦いたくって戦っているわけではないのだ。そんなことで怒られたってどうしようもない。



「それは分かってる。だけどな、頭では分かっていても私のこの心のイライラは抑えられないんだよ。だから、いいことを思いついた」

「え? ちょっ……! えっ!?」



 先輩はニヤニヤと笑いながら、俺の両腕を掴み上げる。体が腕から吊り下げられ、身動きが取れない。



「お仕置きだ。少し付き合って貰うぞ?」

「ちょっ! な、何するんですか!?」



 なぜが先輩は俺のシャツをめくってくる。えっ!? 俺、まさかの貞操の危機!? 流石に身の危険を感じ、先輩の腕から逃れようと身をよじる。


 あっ! この人、力強い! 腕動かそうとしてるのにびくともしない! 



「おいおい、そんな抵抗すんなよ。別に取って食おうってわけじゃねぇんだからよ。安心しろ? 痛いようにはしねぇからよ」

「あっちょっ……あっ!」



 抵抗できない内に先輩に服を脱がし切られ、上半身が露わになる。その後、先輩の右腕は俺のズボンへと伸びてくる。



「あああぁぁぁぁぁっ!」






「ハァッ、ハァッ、ハァッ! せ、先輩? もうい、いいんじゃないですか? 昼飯前にも、やったばっかりじゃないですかっ!」

「な、なんだ? お前、もう疲れたのか? お、男の癖に情けないぞ……? それに、頭もスッキリするし、気持ちいいしでいいこと尽くしじゃねぇか?」

「そ、そうかも知れませんけどっ……流石にっ、一日に二回はっ、き、キツイですって!」

「おっ! 来た来た〜! って、どうしたの? 二人共。なんだかげっそりしてるけど……」



 待ち合わせ場所へ息をゼェゼェと立てながら到着すると、先に待っていた添木父に不思議そうな顔をされる。



「ああ。理亜のとーちゃんか……。ふぅ〜。ちょっとランニングをな。伏島とやってたんだ。朝とここに来るまでに二回」

「俺は付き合わされただけですけどね……。おかげでこっちはヘトヘトです……」

「へぇ〜若いっていいねぇ〜そんなランニングとかする時間、僕には殆どないよ〜?」



 なんだか添木父に羨ましがられるが、俺としてはそれどころではない。足が! 足が終わる! そんな風に悶ている俺を無視し、先輩は話を続ける。



「それで? なんでわざわざ私達二人を呼び出したんだ?」

「あ、そうだね。それじゃあ、紹介したいと思います! 本日紹介するのはこのお方! 巷で有名な異能狩りと呼ばれるなんでも屋。大門凍砂さんで〜っす!」

「だからその名前で呼ぶなっての。ダセェだろ」



 そう言われて駅の中から出てきたのは、だらしなく伸び切った黒いスウェットを着た目付きの鋭い男だった。しかしそのだらしない服装からは考えられないほどの筋肉が素人目にも見て取れる。



「異能狩り? なんだそりゃ」

「この前、心力使い以外にも人外の力を使える奴が居るって話はしたよね? 彼はずっと前からそういう奴らを倒してきてくれたんだよ。で、そうこうしているうちに、いろいろな悪〜い組織の人たちからそう呼ばれるようになったんだよ」

「こっちからしてみればいい迷惑だけどな……」



大門さんは苦々しくそうつぶやく。確かに、自分で名乗ってたのならまだしも、知らない間にそんな二つ名をつけられたら困るだろう。



「それで……どうして俺たちにそんな人の紹介を?」

「君たちはつい最近心力という力を身につけ、普通は関わることのない荒事に身を投じている。協力してくれることはすごい嬉しいんだけど……一昨日の戦いを見た感じ、君たちはまだまだ弱い。という訳で、まずは前線二人組である君たちを徹底的にしごきます!」

「そういうことだ。え〜っと……伏島と狩ノ上だったか? 早速今から訓練だ」

「え? 俺今日もうヘトヘトなんですけど……」

「駄目だ。お前らの強化は最優先事項。待ちなんてしないぞ」



 そう言って大門さんは俺の首根っこを掴み、歩き出す。



「あ! ちょっと! やめてください!」

「よっしゃ! 伏島! 早速やるとするか!」

「ちょっ、絶対無理ですって! なんで先輩そんなに乗り気なんですか!?」



 疲れているはずの先輩もなぜか乗り気で、立場的には三対一。必死の抵抗虚しく、俺は大門さんに引きずられていく。



「た、助けてくれぇぇぇぇ!」



 その声は誰にも届くことなく、虚空へと吸い込まれていった。







 その後、街外れの森に来た俺たちは、ここで大門さんと戦闘の訓練をしていたのだ。




「オラオラオラオラァ!」



 狩ノ上先輩の声が森中に響く、しかし、そんな威勢の良い掛け声と共に繰り出される攻撃も、大門さんには通じず、全て受け流されてしまう。



「もっと先を読め。お前のパワーは十分にある。しっかりと当てればそれだけで大ダメージだぞ」

「分かってるっての! オッラァ!」



 さきほどから、狩ノ上先輩は戦いながらアドバイスを受けているが、それでも一切の攻撃が通らない。大門さんの頭目掛けて飛んだ蹴りも、直撃する寸前に掴まれてしまう。



「視線が頭に来すぎだ。それじゃあ頭を狙うって言ってるようなもんだ」

「クソがッ!」



 そのまま大門さんに投げ飛ばされる先輩。しかし先輩もやられっぱなしではない。投げられた先で木を掴み、勢いをそのままに大門さんの元へ。そして、大門さんの両足を捉える。



「止めたぞ! 行け!」

「はい!」



 俺は隠れていた木の陰から飛び出し、電撃を素早く放つ! 放たれた電撃は大門さんへと向かっていき――


「それじゃ、俺の動きは止められないぞ」

「はぁ!?」



 当たる直前に大門さんは上半身の力だけで飛び上がり、足元に居た先輩を盾にする。嘘だろ……。



「アガッ!」



 電撃を食らった先輩はうめき声を上げると、そのまま地面に力なく倒れ込む。



「そこに隠れてたか……」

「ウグッ!」



 瞬間、大門さんが俺の目の前まで迫り、そのまま鳩尾を殴られる。鈍い痛みとともに、俺は足から崩れ落ちる。



「伏島はまず身体能力を鍛える所からだな。お前の電撃も至近距離から撃てば俺でも避けられないかもしれない」

「は、はい……」



 最後にアドバイスを貰い、戦闘終了。結局今回も一発も攻撃が当たらなかった……。



「だー! また負けかー!」



 先輩が悔しそうに声を上げる。これで何回目だ? 5、6……8回目くらいか?



「これでお前らは0勝9敗だな。まぁ……最初よりはいい動きができるようになってるんじゃないか?」

「そうですか? あんまり実感わかないんですけど……」

「全くだ。せっかくこんな自由に動ける体がゲット出来たってのに早速壁がありやがった……」



 先輩と負けたことを悔しがりながらも、少し微笑む。思いっきり体を使って戦えることが嬉しいのだろう。



「負けた癖して笑ってるんじゃねぇ。それと、ちゃんと水飲んでおけよ。今日も暑いんだ。変な意地張って倒れたやつを下まで運ぶなんて俺は勘弁だぞ」

「あいあい。ったく……。伏島……お前思いっきり電撃当てやがって……。初めてのプレイが電気責めとかいい趣味してんな……」

「なんか誤解を招くような言い方辞めてくださいよ……。あ〜腹痛い……。これアザとか出来てないかな……」



 殴られたところがズーンと痛む。だが、それよりも体中の筋肉痛が問題だった。特に足がヤバい。もうなんか感覚が無い気がする。



「? どうした? 伏島。そんな遠い目して」

「いえ……今日は熟睡だろうな〜と思いまして……」

「そうだな。今日は久しぶりにいい運動になったな〜」



 なぜか満足そうな表情をする先輩。これをいい運動と言える体力が信じられない。



「なんか伏島が微妙そうな顔してるが、正直これをいい運動って言えるくらいまでは鍛えてもらわないと困るぞ?」

「……マジですか」

「当たり前だ。満から色々聞いてるから言っておくが、いくら魂が強くっても肉体に致命傷を受けたら終わりだぞ」

「……」



 思い当たる節がありすぎる俺は、そのまっとうな正論にぐぅの音も出ない。



「ま、そう気を落とすな。最初は誰でもそんなもんだろ。今日はもう終わりだ。さっさと帰って休め」

「分かりました……」



 もうホント早く帰ろう。さっさと帰って寝よう。そう思っていると先輩が悔しそうな声を上げながら大きく伸びをする。



「くぁーっ! 結局攻撃も一回も当たらなかったし、完全敗北だな」

「本当に頑張ってくれよ? 今日はだいぶ手加減してたからな」

「ちなみに……どれくらい手加減してたんだ?」



 困ったように話す大門さんに、先輩がそう聞く。あれでも手加減しているというなら、本気はどれくらいなのか確かに気になる。



「だいたい……10%出してるか出してないかくらいじゃないか? 俺まだ素手でしか戦ってないし」

「はぁ? お前武器使うのかよ!」



 あの強さで更に武器を使うという大門さんの発言に先輩は大声を上げる。



「当たり前だ。って言っても……普段はそこら辺にある物を使っていたんだが……最近面白いものを貰ってな。今度試しに使ってみる予定だ」

「それってどんな武器なんですか?」

「これだ」

「これ?」



 そう言って指さされたのは、一見なんの変哲も無い腕時計だった。俺と先輩はその時計を覗き込む。



「へぇ〜っ。どうやって使うんだ?」

「それは使ってからのお楽しみだ。せっかくだ。予想外の攻撃されたときの練習にでも使おう。ほら、こんなところで雑談してないで、さっさと帰れ。もういい時間だ」



 手をヒラヒラと振りながら、大門さんは俺たちを追い払う。



「はいはい。次の訓練はいつくらいになるんだ?」

「ま、多分三、四日後くらいだな。毎日やっても効率落ちるだけだ。後日追って連絡する」

「分かりました。それじゃあ、また今度」

「次こそ絶対勝つからな! 覚悟しとけな!」

「はいはい。こっちとしても、さっさと勝ってくれると非常に助かるんだがな」



 余裕綽々な表情を浮かべる大門さんを後にしながら、俺たちは森の中を後にした。






「そんじゃ、またな」

「はい。次もよろしくお願いします」



 お互い、家の前に到着し、軽い挨拶を交わす。



「伏島はこの後何か予定あるか?」



 挨拶も終えたので、家に帰ろうとすると先輩がそんなことを聞いてくる。



「特には何もありませんよ。そもそも学校が休みでやることも無いですし。……急にどうしたんです?」

「いやな、今日は一日中動いただろ? 午前中なんかは私に付き合わせちまったし……。私は心力があるから大丈夫だけどお前はそうじゃない。そう考えると今更ながら罪悪感がな……」

「ああ。気にしないでください。確かに疲れましたけど、汗を流すのが嫌いってわけじゃないので」

「そうか? なら良かったけど……。ま、あれだ。今日は付き合ってくれてありがとな」

「どういたしまして。それじゃ、俺はもう帰りますね。流石に疲れました……」

「あ、悪ぃな。引き止めちまって」

「いえいえ。それじゃ」



 そうして俺はマンションの中へと入っていった。……今日は本当に疲れた……。







 深夜一時を過ぎ、寝静まった街の中、辺りには誰も居ない道 を大門凍砂は歩いていた。仕事で知り合った友人たちを呼び、添木満からの依頼金でたらふく飲んできたのだ。



「ふぅ〜。飲みすぎたな……」



 凍砂は上機嫌につぶやく。白水市の伝承が始まるまでは基本的に仕事が無かった彼にとって、現在の状況は非常に都合のいいものであった。



「それにしても……どうしたもんかねぇ〜」



 凍砂の悩み事はたった一つ、友人である満の依頼についてだった。


 一つ目の危険な心力使いの排除。こちらについては問題は無かった。一つ前の依頼で凍砂は心力使いとの戦闘を経験している。そこから考えても、自身を倒せるような心力使いはそうそう居ないと判断していた。


 だが、もう一つの依頼、優と狩ノ上の戦闘能力の強化。こちらについては問題があった。そう。彼自身、他人に物を教えたことがないのである。


 自分の経験をもとに教えようにも、そもそも凍砂に教えられるような成長実感が無い。要は気づいたら出来るようになっていたのだ。そのためコツを教えるというようなことができない。


 今は二人とひたすら戦闘経験を重ね、至らない点を教えるという方法で教育していっているが、それが正しいのかもあまり確証が得られなかった。



「さてと……」



 凍砂は突然足を止めたかと思うと、背後に向かって足蹴りを放つ。しかし、攻撃は避けられたようで足からは手応えを感じない。



「お前……何者だ?」



 先程、考え事をしている最中も感じていた尾けられている感覚。その原因である張本人に凍砂は問いかける。



「おや……気づかれていましたか……。初めまして。私は高籐(たかふじ)と申します。以後お見知りおきを」



 体をのけぞらせることで凍砂の蹴りを避けた、高藤と名乗る男が言葉を発する。そのぴっちりと整えられた髪と、シワ一つ無いスーツからはよくできた人間であることが感じ取られる。



「当たり前だ。素人か? 酔って考え事している俺に気取られるなんて、随分と雑な隠れ方をするんだな」

「それはもちろん。私、こう見えても最近この仕事に就きましたので……」

「同業者か……やめとけやめとけ。この仕事、稼ぎはいいかもしれねぇがいかんせん需要が無い。普通に仕事をしたほうがよっぽど簡単に稼げる」



 凍砂は本心からのアドバイスを男に告げる。万が一にも仕事を他人に取られると、ただでさえ少ない自分の給料が更に減ってしまうからである。



「そんなことを言われましても……このような力を得ておきながら、普通の仕事に就くのはいささか無粋ではありませんでしょうか?」

「……ッ!」



 瞬間、首筋から緑色のオーラが溢れ出ると同時に黒い腕が高藤の背後から無数に現れ、凍砂へと向かっていく。飛び上がり、黒い腕を避けた大門は元居た場所に集まった黒い腕を踏みつけ、動きを止める。



「ほう……なかなかやりますね……。では……」



 能力を封じられたはずの高藤からは余裕の表情が消えない。しかし、凍砂はその目が自分の頭を捉えていることを見逃さなかった。



「ッ!」



 凍砂が頭の位置を横にずらすと、そこに勢いよく何かが通り過ぎ、逃れることのできなかった髪が何本か舞い落ちる。



「おや? 今のも避けられてしまいますか……」

「当たり前だ。視線が頭に向かってんだよ。素人っていうのはそういうもんなんだな」

「これはお恥ずかしい。早速自身の未熟さを見られてしまいましたか……」



 凍砂の煽りも気にせず、高藤はマイペースに話す。凍砂から見て、高藤は何かしているようには見えなかった。つまり、奴には他にも協力者が居るのだと凍砂は考える。



「それにしても……二対一か。良いな」

「?」



 状況を整理した凍砂はニヤリと笑う。人数の有利を取られたにも関わらないその余裕な凍砂の態度に高藤の顔に困惑が混じる。



「お前が依頼を受けているように、こっちも依頼を受けているんだよ。一人倒す事に七十万。人数が多いと報酬が多くなって助かる」

「随分と余裕そうですね……。その余裕の表情を崩して見せましょう!」

「ッ!」



 自身のことををただの収入源としか見ていない凍砂に苛立ちを覚えた高藤は口調が強くなる。それに同調し、黒い腕はその力を増し凍砂を大きく後ろに吹き飛ばす!



「さて……お前ら二人倒して、その金で旨い酒でも飲むとするかな……」

最強が、躍動す!

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