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第二十六話 それぞれの思惑

次回は5月9日午後七時投稿予定です。

 優達がアニメを見ている一方、白水市の一角では……



「あらあら、酷いものね」



 女が燃え盛る部屋を見て、絶句する。安倍晴明に破れた日ノ神が目を覚ましたのだろう。様子を見に部屋に入った時にはすでにそうなっていた。



「ああああ! クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! なんでだ! なんで上手くいかない! ゴホッ! ゴホッゴホッ!」

「あらあら。そんなに声を荒げたら喉に悪いわよ。生まれつきでしょ? いい加減覚えなさいな……」

「うるさい!」



 激昂し、自身の喉を痛めた日ノ神を心配した女だったが、日ノ神はそんなことを気にせず勢いのままに炎を放つ。しかしそれは女にぶつかる直前に、空間の歪みとともにかき消える。



「全く……せっかく良い内装が出来てたと思ったのに、あなたのせいで台無しね。零。治しておいてくれる?」

「はい。承知いたしました」



 女は指をパチンと鳴らすと、部屋にあった炎がかき消える。そしていつの間にか女の真横に立っていたメイド服を着た女性に命令する。零と呼ばれた女性はうやうやしくお辞儀をしながらもテキパキと動き出す。



「なんか用か?」

「用か? じゃないでしょ。もうあれから一日経っているのよ。ご飯の準備をしておいたから、さっさと食べに来なさい」

「断る。ゴホッゴホッ! 知ってんだろ。機嫌が悪い時に食う飯はマズイんだ。この忌々しい体質のせいでな」

「ええ。でも食べないとその弱った魂もしっかり回復しないわよ?」

「どうせ、安倍晴明と戦った時に使った炎を再現しようとしてたんでしょ? そんな魂でやったところで、使えてもすぐ倒れるわよ。ほら、さっさと来なさい」

「チッ!」



 日ノ神は抵抗することを諦め、女に着いて行き、食事処へと向かった。







「どうかしら? 今回はあなたの機嫌を考えて、大分いい食材を揃えたわよ?」

「苦い」



 豪勢な食堂で、日ノ神が食事をするが、その味は今までの中でも特に最悪の物だった。



「う〜ん……やっぱり駄目ねぇ。どうにかならないものかしら」

「だから言ってるだろ。これは、何か壊さねぇと、治らねぇ」

「はいはい。全く……あなたも難儀なものねぇ。喉の病気だけじゃなくって味覚にも病気があるなんて」



 女は気の毒そうな声を上げるが、日ノ神からするとすでに諦めたことだ。同情されてもどうとも思わない。



「それにしても……あなた、酷かったわねぇ」

「……何がだ」

「ヒエン達の使い方よ。もっと尊敬されるように使わないと。ちゃんと心の底から手伝いたいって思わせないと、あの子達も真価を発揮できないわよ? 魂、心のあり方はそのまま心力へと直結するんだから」

「嘘つき野郎はともかく、ヒエンは別にお前に尊敬の念は対して抱いてねぇだろ」

「少なくとも、あなたよりはあの子達の力を引き出せているわよ?」

「そんなに言うんだったらどうするのが正しいのか教えろよ……。ゴホッゴホッ! こっちは人の上に立つなんてことしたことねぇんだぞ……」



 イライラとした様子で文句を垂れる日ノ神。どうやら女の漠然とした助言にウンザリとしているらしい。



「そんなこと言ったってねぇ……。あなたと私じゃあ能力の差が大きすぎるもの。できるアドバイスなんてないわよ」

「ならそんなに偉ぶるな! ただでさえマズイ飯が更にマズくなる!」



 女の先程からの態度についに堪忍袋の尾が切れた日ノ神は、思わず心力を発動。そのまま辺りの物が天井まで持ち上がる。



「はいはい。分かったから心力を使うのを辞めてくれない? 部屋が汚れちゃうわ」

「チッ! ホンット、お前は人の神経を逆撫でるのが上手いな。俺の気持ちも知らずに……」

「あら? 落ち込んでるの? 珍しいわね。あなた、なにか失敗しても基本的に他人のせいにするのに……」



 辺りの物を地面にゆっくりと落としながら、日ノ神はブツブツと呟く。その言葉に女は目を丸くする。



「あれだけ力の差を見せつけられたらな。安倍晴明にボコボコにされて打ちのめされてたってのに、それ以上の圧倒的な力をお前に見せられたら少しは落ち込むさ。自分の弱さに」

「一応言っておくけど、流石に私も晴明を倒すのは骨が折れるわよ?」

「……何いってんだ?」



 前日の安倍晴明との戦い。それを見た日ノ神は女の言葉が理解出来ない。あの、息をすることすら恐ろしくなるような存在感を放つ安倍晴明に勝利した時の女の態度はまさに余裕そのものだった。



「あなたね……前に私が本調子じゃないって話はしたわよね? 全力しか出せない上に、力を開放すればするほど出せる力の上限が減っていくのよ。昨日の私の調子が30%だとしたら、今は10%くらいね」

「大丈夫なのか? それ」

「余裕って程じゃないけれど……まだまだ私が負ける事は無いわよ。あなたはあなたのことを気にしておきなさい。私にはまだまだ使える駒がいっぱいあるし。……そうね。これが良いかもしれない」



 突如女は何かを思いついたのか、そんなことを言い出す。



「なんだ?」

「あなた、自分の力だけで配下を作りなさい。私も昔はよく配下作りに勤しんだものよ」

「そんなことして何になるんだ……」

「あんまり舐めない方が良いわよ? 主の格は配下の格で決まる。強い配下が付けば、自然とそれにふさわしい力を得るものよ」

「そんな簡単に行くもんかよ……」

「ま、何度でも失敗しなさい。その失敗をフォローするために、私が居るのだから」



 そう言ったかと思うと、女は席を立ち、扉の外へと向かう。



「おい……どこに行くんだ?」

「そろそろ時間よ。この体の持ち主が起きちゃう。またしばらくしたら会いましょう? それじゃあね?」



 指を鳴らし、女は先日ナナシ達から逃げるときとに使ったのと同じ紫色の空間の裂け目を作り、どこかへと向かっていった。



「配下、配下ねぇ……」



 一人食堂に残された日ノ神は頬杖をつきながら、ポツリと呟いた。






 

 またその頃、添木満は町外れの小さなバーへと足を運んでいた。



「いらっしゃいませ……」



 バーの中に満が足を踏み入れると、若々しいバーテンダーが静かに挨拶をしてくる。バーテンダーの態度は、豪華でありながら落ち着きのある、この店にふさわしいものだった。満はその男に片手を上げ、店の中を見回す。そして机に突っ伏す男を見つけると、そこに歩み寄っていく。



「どうしたの? そんな机に突っ伏しちゃって。体調悪い?」

「……満か。どうした? 前の依頼は一昨日終わっただろ。さっきパチンコで擦ってこれが最後の金なんだ。簡潔に頼む」



 渋々と言った風に体を起こし、男は満に返事を返す。その服装は非常にラフな物で、このバーの雰囲気からするとかなり浮いている。



「も〜う依頼金全部使っちゃったの? 相変わらず金遣いが荒いね〜」

「俺の金だ。好きに使って良いだろ」

「彼女さんにはお金返したの? 返してないでしょ。君のことだし」

「……それで? 結局用はなんなんだ? わざわざ俺のところまで来て、なにかあんだろ?」



 男は満の質問に答えることはなく、話を変える。どうやら満の言う通りだったらしい。



「新しい依頼だ。今お金がなくなっている君にとっては良いものなんじゃないの?」

「もったいぶってないでさっさとその内容を言え。もちろん、金額もな」

「今回の依頼は大きく分けて二つ。最近、心力使いの動きが活発になってきてる。だから、他の人外の力を持つ奴らと同じように、他者に危害を加えている奴らは倒してこっちに引き渡してほしいっていうのが一つ。

 報酬は一人捕まえるごとに七十万円」

「随分金払いが良いな。そんなに重要なのか? この依頼」

「まぁね……今まで力が無かった人が急に力を得るもんだから、皆さん暴れる暴れる。それを口外しちゃうと色々問題も起きるから面倒なもんだよ全く」

「そりゃまた大変だな。それで? 二つ目の依頼は?」

「学生の心力使いを協力者にした。だけどまだ戦闘能力が未熟だから色々と鍛えてほしい。特に前線を張る二人組。後その子たちの護衛」

「は? 俺にガキのお守り頼んでんのか? ついに頭がイッちまったか?」



 男はよっぽど不思議なのか、依頼主であるはずの満に思わず毒を吐く。



「酷いな〜。僕の頭は至って正常だよ。ただ、あの子達が死んでそれが外部に漏れると流石に警察全体の信用がガタ落ちするでしょ? それは絶対に避けなきゃいけない」

「なるほど……それで? 本当は?」



 見透かしたように男は満に聞く。逆に満は長年の友人に隠し事は出来ないかと、思わず苦笑する。



「その協力者のメンバーの一人に僕の娘が居るんだ。それで……」

「あ〜もう良い。分かった。お前の娘の話はもう懲り懲りなんだ。それで、報酬は?」

「三十万円。こっちは前払いだから、今お金が無い君にとってもありがたい依頼だと思うよ?」

「よし分かった。どっちも受けよう。それじゃ、お前も飲んでいくか?」



 機嫌が良さそうに満を誘う男。どうやら報酬が手に入る目処が立ち、機嫌が良くなったようだ。



「僕は遠慮するよ。まだ仕事中だしね。それよりも、ちゃんと彼女さんの分も残しておくんだよ?」

「わぁってるっての。流石に同じ轍は踏まねぇよ」

「君は実生活ではよく踏んでるでしょ。相変わらずパチンコ辞められてないし」

「うるせぇな……ほら! 飲まねぇなら行った行った! 人様の楽しみを奪うな!」

「はいはい。それじゃあ、よろしく頼むよ? 『異能狩り』サマ」



 ふざけたように満は言う。それを聞いた男は不機嫌そうな表情になる。


「それやめろって言ってんだろ……。全く、最初に俺をその名前で呼んだやつは許さねぇ。ダサいったらありゃしねぇ」

「はいはい。それじゃ、改めてよろしく頼むよ。大門凍砂(おおかどいすな)サマ」

「ああ。任された」



 満はその返事を聞き、満足そうにうなずくと店を後にした。



 大門凍砂。添木満の数ある協力者の内の一人。ただの人の身でありながら、その強靭な肉体を用いて数多くの人ならざる力を持つ者を葬り、いつしか『異能狩り』と呼ばれるに至った。

 ナナシ、安倍晴明のような、その時代においての特異な存在であり……





 現代最強の、人間。

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