第二十五話 アニメ鑑賞会
次回は5月2日の予定です。
「……」
プロジェクターから映されるアニメを見ながら、ゆったりとした時間が流れる。
どうやら小清水にとってはアニメ鑑賞というのは新鮮らしく、俺の左で目を輝かせている。その向こうでは、添木が同じように画面に食い入っていた。そんな二人を横目にテレビを見ていると、右からいつものような感じで悠香が話しかけてくる。
「おうおうスグ兄〜すげぇハーレムじゃねぇかよー! しかも全員美少女!」
と話しかけてくる。しかも他の二人には聞こえないような小さな声で。
「何言ってんだ? お前」
「だってまず小清水先輩はめっちゃ美人でしょ? 次に添木先輩も〜小さいけど普通に可愛い。それに〜」
「お前って言ったらぶっ飛ばすからな!」
ふざけたことを言う悠香に軽く脅しをかける。
「わた……。おい、人のボケを先読みして潰すんじゃねぇよ。鬼かよ。おい」
予想通りのことを言おうとしたのか、悠香は言葉を遮り不機嫌そうな様子を見せる。
「勝手に人をハーレム野郎にしようとしたやつが言うな」
「けど私が美少女なのは変わらないでしょ?」
「ハッ!」
「う〜わっ! コイツ、人のこと鼻で笑いやがった!」
「うるせぇ」
俺は悠香をあしらってアニメの方へと再び意識を向けた。
「あっ……」
作中の敵キャラが案外あっけなく主人公に倒され、小清水が小さな声を上げる。初めてアニメを見る小清水の反応は正直ちょっと面白い。……面白いのだが!
「……」
「あっ……ごめんね?」
「あ、ああ! き、気にしないでくれ! 大丈夫だから! こっちこそ悪い!」
小さく身じろぎした時に体が小清水と少し当たり、互いに謝る。謝る時につい声がうわずる。……狭い!
現在座っているこのソファ。一人暮らしである俺の部屋においてあるものだが、はっきり言って四人で座るには少しばかり狭い。
アニメを見始めてから一時間ほど経っているが、さっきから同じようなことが何度か起こっている。
ヤバい! 何も考えずに座ったのが良くなかった! これが後七時間!? 俺の身がもたない! なんかさっきからいい匂いがするし! なんか当たるたびに柔らかいし! しかもここで動くのもなんか意識してるみたいで恥ずかしいし!
そんな情けない俺の困惑もつゆ知らず、小清水はアニメに集中しており、俺のことは全く気にしていないことが唯一の救いだった。すると
「な〜にニヤニヤしてるんだよこのバカ兄!」
「痛って! なにすんだよ!」
突然、背中をかなり強い力で叩かれる。当然、隣に座っている悠香によるものだ。
隣の小清水にバレないようにか、悠香は怒りながらもヒソヒソとした声で話しかけるというなかなかに高度なことをしている。
「テメェが小清水先輩にデレデレしてるからじゃねぇかよ! な〜にがき、気にしないでくれ! だ!
お前がめちゃくちゃ気にしてるんじゃねぇかよ!」
「は、はぁ!? 別に気にしてなんかねぇよ……」
俺も、小清水にばれないように声を潜めて反論する。
「いやめちゃくちゃ動揺してるじゃねぇかよ……。何言ってんだコイツ……。
っていうか私にはそういう反応しない癖に小清水先輩にはそういう反応するとはどういう了見だ!」
「日頃の行いって知ってるか?」
「? 私の日頃の行いのどこに問題が?」
「そういうところだよ!」
キョトンとした顔で首をかしげる悠香に苛立ち、つい声が大きくなる。声が大きくなると当然、隣に座っている小清水にも声が聞こえるわけで……
「どうしたの? 伏島君?」
「!!」
悠香との口論に気づかれる。マズイ……。小清水と体が当たって照れていたなんて恥ずかしすぎる! なんとか誤魔化そうと、頭を回転させていると悠香が悪い笑みを口元にたたえながら口を開く。
「ちょっと聞いてくださいよ〜。小清水先輩〜。スグ兄ったら――」
「あー! あー! そろそろ昼飯作ろうかな〜!」
おそらく俺が小清水にデレデレしていたことを暴露するつもりなのであろう悠香の言葉を慌てて遮る。
「えっ! 今日スグ兄がお昼作ってくれるの!?」
「そうだよ。あっ、でも悠香ちゃんの分ある? 今日来るって知らなかったんだよね?」
「大丈夫。こんな事もあろうかと少し多めに買ってきた」
……女子にめちゃくちゃ食べると言うのはなんとなく失礼だと思ったので、小清水がよく食べるから多めに買ってきたという言葉は喉の奥に飲み込む。
「おうおう〜! 準備良いじゃねぇかよスグ兄〜!」
「その代わり……例の事は言うなよ?」
「任せとけ! 私は私にとって都合のいい相手には全力で媚を売るぜ!」
「ホントいい性格してるな……お前。あ、三人は引き続き見てくれていいからな」
「うん。ありがと。……ところで例の事って?」
「男はチョロいって話ですよ。先輩も気をつけてくださいね?」
「え? う、うん……。ん? 気をつける?」
約束通り、悠香は小清水の質問を軽くあしらってくれる。それはそれとして俺がチョロいってことには納得がいかない。まぁ……暴露されるよりはよっぽどいいか……。
「「「「いただきま〜す」」」」
机に俺が作ったハンバーグが並び、挨拶と同時に全員がハンバーグを食し始める。
「うっひょ〜! うめぇ〜! スグ兄のハンバーグうめぇ〜!」
さっそく、俺のハンバーグを頬張った悠香が歓声を上げる。
「そりゃ良かったよ。二人はどうだ? ちゃんと口に合ったか?」
「フフフッ。そんなに心配しなくても、ちゃんと美味しいよ。ほっぺた落っこちちゃうかと思った」
「そ、そうか……」
妙に可愛らしい表現をする小清水にドキリとする。
それを見た悠香がニヤニヤと苛立たしい笑みを浮かべながら俺の脇腹を肘でチョンチョンと突く。……確かにこれはチョロいと言われるのも仕方ない気がする。
「添木はどうだ? なんか妙に静かだけど……」
「……美味しくて感動してた。まるで、アンドフリームニルのよう」
「え? あ、あんどふりー……。何だって?」
突然知らない単語を使われ、思わず聞き返す。
「アンドフリームニル。北欧神話に出てくる調理人のこと」
「えっと……つまり……?」
「あなたを褒めているつもりだった」
「そ、そうか……それならよかった……」
久々に厨ニ病を発症させた添木になんと返せば良いのか言葉に困る。……そう言えば添木は最初からこんなやつだった。
「あ〜それにしてもホンットに美味しい〜! スグ兄毎日家来て料理してかない? こんだけ美味しかったら私が毎日褒めてあげるよ?」
「何バカなこと言ってんだ。そんなめんどくさいことするわけ無いだろ。
だいたい、お前うまいか美味しいしか言わねぇじゃねぇかよ。もうちょっとバリエーション増やしてからそういう事は言え」
それとなく悠香を諌める。勝手に他人の家に上がり込んで料理をするのは結構気が引けるのだ。
「失礼な! 私だって上手に褒めることくらいできるよ!」
「ほ〜う? ならやってみろよ」
「おう! やってやるよ!」
まさに売り言葉に買い言葉。挑発に乗って悠香はハンバーグを口に運ぶ。
「え〜っと……口の中に入れた瞬間……こう……美味しい肉汁とソースの味が口の中いっぱいに広がって……その後お肉を噛み締めるごとに……お肉の中の何かが……いい感じに美味しくしてる」
「お前ヘッタクソだな〜。食レポ。何が言いたいのか全然分っかんねぇ」
「つまりうまい!」
「結局それじゃねぇか!」
いつもと同じ感想に戻って来た悠香についツッコミを入れる。いくらなんでも今のは酷いと思う。
「しょうがないでしょ〜! こっちは食レポなんかしたことないんだから! 大体、スグ兄も食レポ大して上手くないでしょ!」
「俺は……あれだよ。作る側だから上手くなくてもいいんだよ」
「ウッ……それを言われると反論出来ない……。あっ! そうだ! 添木先輩もやってみてくださいよ!」
「私が?」
俺との会話から逃れるためか、悠香は添木に突然話を振る。なかなか酷い無茶振りだ。
「そうです! 先輩なんか語彙力凄そうだから食レポも上手そう!」
「なんだか随分と適当な理由だけれど……良いわ。正義の番人として、その挑戦受けて立つとしましょう!」
「いや、自分で振っといてなんですけどそんなに気負わなくて良いですからね?
っていうか正義の番人って何? スグ兄知ってる?」
「知らん。多分添木の立場かなんかだろ。悪を裁くとかよく言ってるし」
「へぇ〜まぁいいや。それじゃ、添木先輩。早速スグ兄のハンバーグの食レポお願いします!」
「分かったわ」
凛とした返事の後、添木はハンバーグを小さく切り、その小さな口へと運ぶ。少し咀嚼し、悩む素振りを見せた後、添木は食レポを開始する。
「口に入れた時、最初に濃いけれども食欲をしっかりとそそるソースが味覚を刺激する。その後に素材本来の味を引き出した肉汁が溢れ出す。
お肉自体に使われている調味料はシンプルだけれども、それが濃いソースと合わさる事で完璧な調和を生み出している。
まるで調和の神、ハルモニアのように」
「おぉ〜悠香よりは全然マシだな!」
「期待に答えられたようで何より」
「ちぇ〜っ。なんかもっと厨ニワードいっぱい出して意味分かんねぇ! みたいなの期待してたのに普通に上手いじゃん。これじゃあ私が単純に恥かいただけじゃん」
「お前ホントさぁ……そういうこと言うのどうかと思うぞ? 人として」
悠香の普通にクズな発言に思わずドン引き。
「イッヒッヒッ匕! 知ってるかい? 美少女は何しても許されるんだよ?」
「じゃあお前許されえねぇじゃん」
「おいおい? 今なんて言った? 今なら拳一発で許してやるからもう一回言ってみろ?」
笑いながらこっちを見つめる悠香。その目は全く笑ってない。
「何バカなこと言ってんだ?」
「お? やんのか? 私は良いぞ? あ?」
「フフフッ。二人ってほんとに仲良いよね」
愚かにも言い争っている俺たちを見て、小清水がコロコロと笑う。
「え? 今のそう映ったか?」
「私達今フツーにケンカしてただけだと思うんですけど……」
「ううん。だって二人とも本気で怒ってるわけじゃないでしょ? そういう軽口を叩ける関係って羨ましいなって。ね? 理亜ちゃん」
「最初見た時二人は恋人なんだと思ってた」
「え? そうなの?」
添木がそういうことを考えるのは結構意外な気がする。てっきりそういうことには興味が無いかと思っていた。
「ウザカワ妹系ヒロインとそれをちょっとウザいと思いつつもなんやかんやでしっかりとそのヒロインを守る主人公。私好みのシチュエーション」
「ああ……そう……うん。それは良かったな……」
理由を聞いて強く納得。実に添木らしい理由だった。
「それにしてもスグ兄〜? 私達傍から見たら恋人だと思われるくらいラブラブなんだって〜。よかったね〜?」
「みんな食べ終わったな。皿は俺が洗っておくから、シンクに運んでおいてくれ」
「ちょっ! 無視はやめろぉ! わりと心に来るから! せめてなにか反応しろぉー!」
「ハァ……。めんどくさっ」
「ため息もやめろぉー!」
「フフッ。やっぱり仲良し」
夏真っ盛りの午後、俺の部屋では、騒がしい悠香の声と、マイペースな小清水の声が響く。それは、最近の様々な物騒な事件のことを少しだけ忘れさせてくれたのだった。
「ん〜! 終わった〜!」
「流石にこんだけ連続で見てると体も疲れるな」
アニメのエンディングが終わり、俺と悠香は大きく体を伸ばす。ソファに座っている小清水の方を見ると、なんだかバツの悪そうな顔をしている。
「な、なんか一日中こういうのに時間費やすの初めてだから……罪悪感が凄いね……」
「けれども面白かった。これもあなたのおかげ。改めて感謝するわ。お昼の事も含めて」
「はいはい。そんじゃ、もう帰るよな? だいぶ遅いし」
「そうだね。あっ! そうだ。これ渡さないと……」
そう言うと、小清水は持ってきた紙袋を俺に差し出してくる。
「はい。これ。せっかくお邪魔することになったから、クッキーを焼いたの」
「うぉ〜! スゲー! 先輩女子力たけー!」
と、同じ女子のはずの悠香が歓声を上げる。……お前はそれで良いのか……。
「なんか悪いな……。別に気にしなくても良いのに……」
「そういうわけにもいきません。お邪魔させていただくなら相応のお礼をしないと」
「ほんとに気にしなくて良いんだけどな……」
「……」
「ん? どうした? 添木」
なんだか逆に申し訳なく感じていると、添木が困ったような顔で固まっていることに気がつく。
「いえ……私も……あなたの家にお邪魔させてもらうからと菓子折りを持ってきたのだけれど……彩音のに比べたら大分劣るわね……。申し訳ない……」
「あっ! ご、ごめんなさい! 私が先に渡しちゃったせいで……」
「いえ……彩音は悪くない……。悪いのは女子力が足りない私自身だから……」
酷く落ち込んだ様子の添木。なんだかその様子を見ているとこちらまで申し訳なくなってくる。
「……あっ! そ、そうだ! 紙袋の中に今日のプロジェクターのアンケートが入っているから、お願いしてもいい?」
「あ、ああ! 分かった。それじゃあ、また今度会う時までに書いておくよ!」
「プロジェクター……すごかった……。それに対して私は何も……」
「「!!」」
なんとか話題を変えてくれた小清水に俺も乗る。しかし添木は更に自己嫌悪へと陥ってしまう。固まる俺と小清水。
「あ、ああ! もう帰りましょう! 皆今から家に返ったらちょうど夜ご飯ですよね! ほら! 添木先輩! もうスグ兄のことなんて気にしなくてもいいですから!」
「ええ……。つまらないものだけれど……これ……置いとくわね……」
「意外と弱々しいなこの人……。ほら! 添木先輩! 気にしないでくださいって! スグ兄女性経験ゼロっすから、添木先輩からおやつもらっただけでもう大喜びっすから!」
「あ、ああ! スゲー嬉しいぞ! ああ!」
「それなら良かった……。じゃあ……また今度」
悠香に連れられ、添木はトボトボと俺の部屋を出ていく。意外と繊細なんだなぁ~。添木。
「そ、それじゃあ、私も……。伏島君、またね?」
「あ、ああ。またな」
最後の最後に少し慌ただしくなったものの、こうして添木たちとのアニメ鑑賞会は幕を閉じた。
「ふぅ……」
夕食の後、時刻は八時過ぎ。食器類を洗い終わってから、ドサッとベッドに横たわる。ただアニメを見ていただけとは言え流石に少し疲れた……。
俺の家に女子が二人も遊びに来たのだ。(悠香は勝手に来ただけなので数えない)当然、そんな経験のない俺はついニヤニヤしてしまう。
そんな傍から見たら非常に気持ち悪い光景の中、俺の携帯が通知を受け、ブルリと震える。
「?」
携帯を覗き見ると、通知の内容は小清水からのメールだった。
『今日はとっても楽しかったです。また機会があれば是非誘ってください。ありがとうございました』
と、簡潔ながらもなかなかに嬉しい内容が書かれている。どうやら楽しんでくれたようでなによりだ。
「『俺も今日は楽しかった。また機会があったら遊ぼう』っと。よし、こんなもんでいいかな……」
するとすぐさま既読がつき、返事が返ってくる。
『それなら良かったです。おやすみなさい』
「『おやすみなさい』っと……。大分打ち解けてきたかな……」
俺もすぐさまメッセージを眺め、なんとなく感慨にふける。すると玄関がガチャリと音を立てて開かれる。
「ただいま〜」
「ん?」
ドタドタと足音を立てて俺の部屋にやってきたのは、やはり、幼馴染の悠香だった。
「あれ? 居るじゃん! どうしたの〜? 居るなら居るって返事してよ〜」
「いや、なんでお前居んの? 一旦帰ったよな?」
「はい。一旦帰りましたね。で、その後戻ってきた」
「なんで?」
「そりゃ〜もちろん、ここ私の家ですし? ゆっくりしたい時はここに来るのが当たり前でしょう?」
そんなふざけたことをのたまう悠香。
「いやここお前の家じゃねぇからな? 俺の家だからな? で……ゆっくりしたいから家に来たって事で良いのか?」
「そっすね。今日はスグ兄ハーレム状態でなんか落ち着かなかったし」
「ならいいか……。遅くなりすぎる前には帰るんだぞ」
「分かってる分かってるって。それで? 今何してたの?」
「小清水からメールが来てな。その返事してた所」
「ふ〜ん。そうなんだ。それにしても今日のプロジェクターすごかったね〜。映画みたいだった」
思い返すように呟く悠香を見て、俺は思い出す。
「そうだ。アンケートに答えとかないと」
小清水にもらった紙袋の中身を漁り、中からアンケートであろう紙を取り出す。その時、袋の中から何かが落ちる。
「ん?」
「なんか落ちたね」
どうやらアンケート用紙以外にも入っていたらしい。それを拾い上げ、目を通す。
「お、なんか書いてあるぞ」
「え〜! 読んで読んで!」
「はいはい。えっと……『初めまして。彩音の父です。この度は娘を遊びにお誘いいただき、誠にありがとうございます。』これ小清水のお父さんからの手紙だな」
「何? 娘はお前にはやらぬぞ! みたいな話?」
なんだか古風な父親のような声真似をする悠香。似てない。
「この文面からだと、小清水を家に呼んだことのお礼だろうな。続けるぞ。
『最近なにかと物騒な事件も多い中、娘と仲良くしていただいたこと、誠に感謝申し上げます。娘も夕食時に友達が出来た等と喜んでいます。』……小清水俺のこと家族に話してんのか」
「はいはい。二人のイチャイチャはどうでも良いから、さっさと続き読んで」
興味なさげに話を聞き流す悠香。なんか聞き捨てならないことを言っている。
「イチャイチャはしてね―よ。んで……続きはっと……『さて、学校にも協力をお願いしているので、ご存知かとはお思いですが、娘は男性が苦手です。
そんな中で、伏島様のように男性であるにも関わらず、仲良くなれることは親である私達から見ても大変珍しいです。
伏島様を信頼していないようで大変心苦しいのですが、どうか娘に対して優しく接してやってください。
最近はだいぶ良くなりましたが、それでもまだ娘の心の中には男性に対する恐怖心が残っています。
それが再びあの子を蝕むことがあれば、私たちもあの子も立ち直れる気がしないのです。
重ね重ね、どうかよろしくお願いいたします。
小清水重治』
だってさ」
「へぇ〜小清水先輩も大変そうだね~」
「え? それだけ? 俺結構話が重くってびっくりしてるんだけど」
「そんなこと言ったって……スグ兄なら大丈夫でしょ。ずっと一緒に居る私から見ても、スグ兄はそういうことしないよ。私が保証して上げる」
「お、おう……。ありがとな」
珍しく俺を励ましてくれた悠香に感謝を述べる。
「はいはい。どういたしまして。ってそれよりも! スグ兄最後なんて言った? 先輩のお父さんの名前」
「ん? 小清水重治だけど……」
「な〜んか聞いたことがあるんだよな〜。やだ〜! 先輩のお父さんって有名人? 私も有名人の仲間入りしちゃったりして〜」
一人で勝手に盛り上がりながら、スマホを開き、その名前を検索にかける。
「小清水重治っと……。漢字これで合ってる?」
「ああ。合ってるぞ」
「よ〜しそれじゃあ、検索検索っと……。あ、出てきた〜! やっぱり有名人だ〜。え〜っと……なになに……。え?」
スマホの画面に目を向けたまま、悠香は固まる。
「どうした?」
「……これ見て」
そういって悠香が差し出したスマホの液晶を見ると、壮年な男性がプレゼンのようなことを行っている写真が映っている。
その下には悠香が検索したのであろう小清水のお父さんの名前、そしてその横には、今日のプロジェクターを開発した大企業の社長であるとの記述がされていた。
……え? 小清水って社長令嬢だったの? 先程まで感じていた親近感が一気に吹き飛び、突然雲の上の人みたいな感覚に陥る。そんな俺を気にせず、悠香は俺に話しかけてくる。
「スグ兄」
「……なんだ」
「小清水先輩と結婚しろ。そしてそれでゲットしたお金で私を養え」
「お前ホンットに人として最低だな!」
まさかの事実が発覚したにも関わらず、相変わらずな幼馴染なのであった。




