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第二十四話 友達

次回は4月25日の午後七時投稿予定です。

「実は……今日思ったんです。敬語辞めたいな〜って」

「え? なんで?」


 思わぬ告白に困惑の声が漏れる。


「だって……お家にお邪魔させてもらって、一緒にテレビを見るなんて友達がやることじゃないですか。なのに……こんなふうに距離があったら寂しいなぁって」

「お、おう……」


 寂しいか……。どうやら思っていたよりも好印象を抱かれていたようだ。それが分かってつい照れてしまい、変な返事を返す。しかしそのことに小清水さんは気づいていないのか気にしていないのか、話を続ける。


「ただ……私にとって男の人っていうのは怖い物の代表で……もちろん伏島さんが優しい人っていうのは分かっています! だけど……そういう経験が無さすぎて……どうすれば良いのか分からなくなっちゃって……」

「はははっ。なんだか小清水さんらしいな」


 どうやらかなり信頼してくれているのか、悩みを打ち明けてくれる小清水さん。それが嬉しくてつい笑ってしまう。

 

「わ、笑わないでください! 真面目に悩んでたんですよ!」

「あぁ……悪い悪い。 ついな」

「もう……」


 小清水さんは俺に不満そうな、それでいて呆れた目を向ける。……初めてこういう表情を向けられた気がする。


「ええっと……話が逸れちゃったけど……結局敬語は辞めるのか?」

「あっ! はい! もちろんです!」

「……」

「ん? どうかしましたか?」


 首をかしげて、キョトンとした目でこっちを見てくる小清水さん。……どうやら気づいていないらしい。


「ですか?」

「あっ! すみません! って違っ! ええっと……ごめん……なさい?」


 自分の矛盾に気づいたのか、アワアワと慌てふためいた末に謎の謝罪をする。


「……なんで謝ったんだ?」

「わ、分からない……。そ、それより! 悠香ちゃんは元気?」


 慌ててしまった事が恥ずかしかったのか、明らかに話題を変える小清水。


「ん〜まぁ普通に元気だぞ。最近勉強させられてるから微妙に元気ない気がするけど……」

「そんなに成績悪いの?」

「だいたい全部赤点ギリッギリ。そりゃ悠香のお母さんも心配するわけだ。……今思ったけどこれ言うのあれだな。あんまり良くないな」


 いくら仲が良いと言っても勝手に自分の成績をさらされるのは悠香にとってもいい気分はしないだろう。


「あ、あはは……。そ、そうだね。私も興味本位で聞いちゃった……」

「言ったのバレたら怒られそう。悠香の素を小清水が知ってたときみたいに」

「フフフッ。じゃあ、この事は二人だけの秘密ってことにしておきま〜す」

「……」


 いたずらっぽい声色で楽しそうに話す小清水に俺は思わずドキッとしてしまう。今まで意識しないように気をつけてはいたが……改めて小清水の方をよく見る。柔らかく整った顔立ちに、腰まで伸びる長くきれいな黒髪。誰が見てもひと目で美少女と称されるような小清水にそんなことを言われたら、意識せずにはいられない。


「どうしたの?」

「あぁ……いや……悠香も知ってるから別に二人だけってわけでも無くないか?」


 おそらく無意識だったのだろう。再び勝手に照れて黙りこくってしまった俺を不思議そうに見てくる小清水さん。照れていることを悟られたくなくて、慌てて弁明。


「あ、そうだね。とにかく……悠香ちゃんに知られないように気をつけないと……」

「そうだな。よろしく頼む」

「了解で〜す。フフフッ」


 再び上機嫌そうに笑う小清水。どうやらかなりリラックスしてくれているらしい。


「家族の前ではいつもそんな感じなのか?」

「ん? そうだね。あっ! もしかして馴れ馴れしかった? ごめんなさい……」


 純粋な疑問だったのだが、どうやら不安にさせてしまったらしい。申し訳無さそうに小清水が謝ってくる。


「あぁ、いや! そういう事じゃなくって……。ただ……今日はよく笑うな〜って」

「え? そう?」

「うん。っていうか小清水が笑うの見るの初めてかも」

「は、初めて男の人の友達出来たから、なんだかテンション上がっちゃったのかも。ちょ、ちょっと恥ずかしい……」


 小清水は照れて少し赤く染まった自身の顔を手でパタパタとあおぐ。そうこうしているうちに、駅前に到着。


「じゃあ、ここまでだな」

「うん。ありがとう。お疲れさま」

「今日はゆっくり休んでな。疲れてるだろ?」

「フフッ。お気遣いありがとうございます。それじゃあ、また明日。今日は楽しかった。ありがとう」

「ああ。じゃあな」


 最後に別れを告げると、小清水はそのまま改札を通っていく。


「楽しかった……か……」


 改札を通った小清水さんを見送った後、最後に言われた言葉を思わず呟く。

 今日は小清水と大分仲が良くなった気がする。その事実は、響也からの頼みとは全く関係なしに、単純に嬉しかった。







 翌日、俺は二人の待ち合わせに行く前に、スーパーで買い物をしていた。今日の二人の昼飯の材料を買うためだ。


「……」


 作るのはハンバーグの予定。昨日ナナシに食べられたのが地味に尾を引いていたのだ。しかし問題は買う量。昨日のファミレスでの小清水の食べっぷりを見ると、普通の量では足りない気がする。


「まぁ良いか……」


 念の為五、六人分のハンバーグの材料を購入。まぁ……余っても別の日のために作り置きとか出来るしな。






 スーパーを後にして集合場所である駅前へと向かう。駅前に着くと、いつもと同じように真っ黒なドレスに身を包んだ小さな人影が目に映る。おそらく添木だろう。その横には小清水らしき人影も立っている。俺はそこに軽く小走りで向かった。


「悪い。待たせたか?」

「ううん? ちょうどさっき来た所」

「私も同じ。別に気にしないで良い。ところで……それは?」


 俺の右手にあるビニール袋を見て、添木が聞いてくる。


「今日の昼飯の材料。駅前来るついでに買ってきた」

「あっ! お金払わないとだね。いくら?」

「今日の最後で良いよ。ちょっと量多めに買っといたから。食べた分だけ払ってくれ。二人ともアレルギーは無いよな?」

「ええ。問題ない」

「私も。大丈夫だよ」

「……。本当に打ち解けたのね。彩音」


 小清水と話している俺を見て、添木は軽く目を見開く。小清水がタメ口になったことだろう。


「そういう添木もなんか距離感が近くないか?」


 なんか名前呼びになってるし。


「私からお願いした。私達はこの街を守るという志のもとに集まった同士だから。遠慮は必要ない」

「けど理亜ちゃん。私が伏島くんの話した後、少しムッてしてたよね」


 格好つけた添木の言葉の後に、小清水がそんな暴露をする。


「なんだ? 俺と小清水が先に仲良くなったことに嫉妬でもしたのか?」

「う、うるさい!」


 冗談混じりに添木に聞くと、添木は顔を赤く染めながら少し声を荒げる。……冗談のつもりだったのだがどうやら図星のようだった。図星を突かれた添木は照れを隠すためか、


「あなたの家はこっちで合ってる? さっさと行きましょう」


 と言って俺の返事も待たずに歩きだしてしまう。


「気分悪くさせちゃったかな……」

「大丈夫だと思うよ? だってほら」


 言いながら小清水は右手にオーラを纏う。途端、ワクワクとした感情が俺の中に溢れてくる。


「今の理亜ちゃんの感情、こんななんだもん」

「ああ。そうだな」


 これなら特に心配する必要もなさそうだ。






「そう言えば添木って話の内容はどれくらい覚えているんだ?」

「多分大体は覚えている。細かい所は色々抜けていると思うけど……。ただ、名作は何度見ても面白い。これが変わることは無いと思っているから、今日は楽しみ」

「そりゃ良かった。おしっ。着いたぞ」


 軽く雑談を交えながら俺の住むマンションの部屋の前に到着。ドアを開き、中へと二人を入れる。


「邪魔するわね」

「お邪魔します」

「ああ。ある程度昨日のうちに綺麗にしておいたから大丈夫だと思うが――」

「スグ兄〜。お帰……り……」


 部屋に入った途端、どたどたとやかましい足音と一緒に聞き慣れた声が俺を迎え入れる。……俺をこんな呼び方するのは一人しか居ない。悠香だ。悠香は俺が小清水と添木と一緒に帰ってきたのを見て一瞬呆然とした後、ニヤリと口元を性格悪そうに歪めた。


「スグ兄酷いッ! 私って女が居ながら他の女ともつるんでいたのね! しかも二人も! どういうつもり!」

「お前何言ってんだ……」


 明らかに演技をしている悠香の声に俺の口から思わず呆れた声。


「何言ってんだじゃないでしょ! 忘れたの! 私達が愛を誓った二人きりの夜を!」

「お前本ッ当に何言ってんだ!? そんな夜ねぇよ!」

「……分かったわ! あなた達ね! あなた達が私のスグ兄をたぶらかしたのね! 許さないわよ!」

「えっ、えっ、えっ? ご、ごめんなさ……い?」

「いや小清水も謝らなくていいから。悠香がふざけているだけだから」


 悠香に詰め寄られ、思わずといった風に謝罪を述べる小清水。


「スグ兄は黙ってて! これは私とこの人達の問題だから! そもそもあなた達誰なのよ! スグ兄の何なのよ!」

「いやお前つい最近会ってるよな? 誰なのか分かってるよな!?」

「私は添木理亜。彼とは街を守る同士。ロード・ヴァルキュリアの一員でもある」

「え、えっと……小清水彩音です! 伏島君とはお……お友達です!」

「二人も返事しなくていいから! コイツのくだらないやりとりに付き合うと調子に乗るから!」


 俺のツッコミが無視され、何故か添木が自己紹介を始める。そしてそれにつられるように小清水も同じく自己紹介。


「! やっぱり二人とも付き合ってるのね! 許さないんだから!」

「いや付き合うってそっちの意味じゃねぇからな? いい加減にしろよな? お前?」

「だからスグ兄は黙ってて! これは女三人の問題なの。あなたが口を挟む必要は―― アタッ!」


 いつまでも終わらないくだらないやりとりに嫌気がさし、悠香の頭に軽くチョップ。チョップをされた本人は打たれたところを手で抑えながら俺に抗議してくる。


「酷い! 暴力反対!」

「別に痛くねぇだろ。どれだけお前とこういうやり取りしてきたと思ってんだ」

「まぁ痛くはないっすね。はい」


 先程までの演技調な喋り方はどこへやら。嘘みたいに冷静な返事が悠香の口から発せられる。……なんだか無駄に疲れた……。


「次はグーで行くからな。覚悟しとけよ」

「スグ兄怖いっす。そんな低い声で言われたら私普通にビビるっす」

「それで? なんでお前はここに居るんだ?」


 気を取り直すように声のトーンを元に戻し、悠香に聞く。まぁ、だいたい予想は付いているが……。


「そりゃあれっすよ〜。暇だからに決まってるじゃないっすか〜」

「そうだろうと思ったよ! お前急に来る時は連絡しろっていつも言ってるだろ! こういう事があるから!」

「それにはですね、スグ兄。深〜い訳があったんですよ〜」


 深刻そうな表情で悠香が言う。俺は軽く無駄だと思いながらもその話を聞く。


「なんだ。言ってみろ」

「単純にめんどくさい。アタッ!」


 その物言いにイラッと来たので今度は悠香に向かってデコピンをお見舞い。やっぱり俺の思った通りだった。


「な〜にが深い理由だ! 一ッミリも深くねぇじゃねぇか!」

「ちょっとなにすんのさ! 普通に痛いんだけど!?」

「そりゃデコピンだからな! ほら、今日は忙しいんだ! さっさと帰れ!」

「ふ、伏島君……何もそこまで邪険にしなくても……」


 二人して言い合っていると、小清水さんが仲裁に入ってくる。


「あ〜小清水先輩優しい〜。どっかの短気なバカ兄とは大違いだ〜」

「あ、あはは……」


 それを聞いた悠香は俺との会話を中断し、小清水にすり寄る。逆にすり寄られた小清水はというとそれを肯定出来ないからか、困ったような笑みを浮かべている。誰がバカ兄だ。おい。


「二人の仲が良いのは分かったから、さっさと始めましょう。時間が勿体ない」

「あ、それもそうだな。ちょっと待っててくれ。パソコンとテレビ繋がないと」


 よほど楽しみなのか、催促するような添木の声で俺は動き出す。そうだ。こんなやつ(悠香)に構っている余裕は無い。


「ん? 今日ってなにかすんの?」

「色々あって皆でアニメ見ようって話になってな。お前も見るか?」

「あっ。見る見る〜」


 返事と同時に悠香はテレビの前にあるソファにボスっと座る。相変わらず遠慮がない。


「伏島君? ちょっといい?」

「ん? なんだ?」

「これ、使えたりしない?」


 そう言って小清水が取り出したのは二十センチ位の直方体の小さな箱のようなもの。その一面にはカメラのようなものが付いている。


「なんだ? これ」

「プロジェクターなんだけど……」

「これプロジェクターなのか!? 凄いな」

「うん。両親に今日友達と一緒にアニメ見るって言ったら渡されちゃった。まだ未発売らしいんだけど、そろそろ発売だから親しい人に使ってもらって使用感を聞いてるんだって。普通のテレビよりよっぽど大きくって画質も良いから楽しめるだろうって」


 ……なんか見た目以上に凄いものだった。


「ほ、本当に俺が使って良いのか?」

「うん。なんか二人共私が友達となにかするなんて初めてだって張り切っちゃって……。あはは……」

「あぁ……そうか……うん」


 微妙に悲しいことを言われ、返答に困る。とりあえずこれは使っても問題なさそうだ。


「じゃあちょっと待っててくれ。使い方見てみる」

「うん。ありがとう」

「おう。任せてくれ……」


 言いながら俺は説明書に目を落とす。そこには試供品用だからか、様々なことが書いてあった。どうやら聞けば誰もがうなずくような大企業のものらしい。ちなみに説明書の表紙には大きく赤い文字で㊙と書いてある。……小清水の親は一体何者なのだろうか。


「……」


 そんな答えの分からない疑問は頭から追い出し、黙々と作業を続ける。どうやらパソコンと繋げる分には結構簡単らしい。ノートパソコンにUSBを挿し込むと、映像を共有しますか? と文字が現れる。


「悠香ー電気消してくれー」

「あいよ〜」


 悠香が部屋の電気を消し、カーテンを閉める。真っ暗になった部屋の中で、パソコンの光だけが辺りを照らす。画面を共有すると、プロジェクターから光が発せられ、それが壁に映し出される。


「「「お〜」」」


 それお見て小清水以外の全員が歓声を上げる。その映像は、確かに俺の家にあるテレビの画面よりも大きく、画質も遥かに良かった。


「スゲーッ! スグ兄のテレビなんかよりよっぽどいいじゃん!」

「なんかってなんだ。なんかって。一人暮らしで使うものとしてはちょっと良すぎるくらいの物なんだぞ。これ」

「これ、いくら位なの? これだけ画質が良くて持ち運びも出来るのなら購入を検討してみたい」


 どうやら興味を持ったのか、キラキラとした目で添木が小清水に聞く。ハイテクな機械が好きなのだろうか?


「う〜ん……まだそんなにしっかり決まっていないらしいんだけど……大体三〜四十万くらい?」

「……今の話は忘れて」

「フフフッ。そうだよね。私達みたいな学生が買うには高すぎるよね」


 流石に手が出るような値段ではないのだろう。……本当にこんな良いものを使ってもいいのか? そんな疑問が再び頭をよぎるが、気にしていない様子の小清水を見て考えないことにする。すると、悠香が思い出したように聞いてくる。


「そう言えば今日って何見るの? 私まだ聞いてないんだけど」

「もう画面に映ってるぞ。確かお前は前に見てたよな?」

「え!? これ見んの!? なんかこう……もっと初心者向けのものじゃなくって!?」


 悠香は思わずと言った風に声を上げる。まぁそう思うのも仕方ない。色々アニメを見ている悠香や見ていそうな添木ならまだしも、小清水のようなアニメ初心者にはなかなか勧めづらい作品だ。


「私の事は気にしなくっていいよ? そもそも理亜ちゃんが見たいって言うのに私が付いてきただけだから」

「グロも大丈夫っぽいしな」

「へぇ〜なんか意外。先輩そういうの無理だと思ってました」

「そう? 家族が映画とかで結構そういうの見るから大分昔からそういうの見るのは慣れてるんだけどな〜」

「はい。人は見た目によらないってこういう事言うんだな〜」


 悠香と小清水が楽しそうに雑談するのを横目に俺は準備を終える。


「よっし……。準備完了っと。それじゃあ、早速見るとしますか! 皆準備は良いか?」

「ええ! 始めましょう!」

「イェ〜イ!」

「パチパチパチ〜」


 その報告をすると、おそらく最も楽しみにしていたであろう添木が恐ろしいスピードで反応した後、悠香、小清水の拍手も返ってくる。どうやら準備は万全。そう確認した俺は、再生ボタンを押した。

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