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第二十三話 戦いの後

これから毎週投稿をしようと思います。

とりあえず月曜の午後七時過ぎに投稿予定です。

 添木達にメールでどこに逃げたのかと聞いた所、公園という返信が返ってきたのでそこへと向かう。十分程歩いて到着すると、ベンチに座っている小清水さんが居た。その近くには俺を探しているのか辺りをキョロキョロと見回す添木父が立っていた。俺が見つけると同時に向こうも俺を見つけたのか、添木父はこちらに向かって大きく手を振る。


「お〜い! 伏島く〜ん! こっちこっち〜!」


 俺は小走りで二人が居る方へと向かい、添木はどこかと辺りを見渡す。


「すいません。三人共逃してしまって……」

「良いって良いって。情報はある程度聞き出せたんでしょ? なら問題は無いって」

「はい。ありがとうございます。それで……今は何を? 添木もいませんし」

「ん? 今はちょっと休憩中。小清水さんが疲れたっぽくてね。理亜には飲み物を買ってきて貰ってる。っていうか伏島君は大丈夫? 結構怪我してたっぽいけど」


 添木父は心配そうにこちらを覗き込んでくる。


「俺は大丈夫ですよ。大体ナナシが治してくれたんで。まぁ、結構魂を使っちゃったみたいなんでちょっとダルいですけど……。気にする程じゃないので。小清水さんは大丈夫か?」

「は、はい……。大丈夫です……ただちょっと疲れちゃって……。すみません……まともに動いていないのに……」

「そんな事気にしなくっていいって。疲れるよな、心力使った後って。俺も今結構疲れてる」

「そう、気にしなくていい」

「お、添木」


 落ち込む小清水さんを励ましていると、後ろからペットボトルをいくつか持ってきた添木が話に割り込んでくる。話しながら、添木は俺と小清水さんに冷えたペットボトルを手渡してくる。


「どうぞ、あなたも飲むでしょう?」

「ああ、サンキュ」

「あ、ありがとうございます……」

「それで、なんだか勝手に落ち込んでいるようだけれども……あなたはもっと自信を持っていいと思う」

「け、けど……今回も私、戦闘で何も出来なかったのにこんなに疲れちゃって……」


 言いながらもその声は尻すぼみに小さくなっていき、小清水さんはそのままうつむいていしまう。


「それは気にしなくて良いと、彼もさっき言っていたでしょう? まず、あなたは二時間もの間、聞き込みで心力を使っていたの。そしてさっきの戦闘でもヒエンの魂を読み、私達に攻撃がどこに来るかを教えてくれた。それだけ心力を使ったのならば疲れて当然。実際、私もジ・アリエスを数回使うとかなり疲れる。あれだけ心力を使ってピンピンしている彼が異常なだけ。それに……あなたのサポートでヒエンを倒すことも出来た」

「そうだな」


 あの時のフォローは俺の電撃の目潰しを知っていてかつ、それを他人に悟られずに伝えられる小清水さんだからこそ出来たことだ。


「ほら、彼もこう言っているでしょう? 小清水さんは戦闘以外ではもちろん、戦闘でもしっかりと役に立っている。あなたは自分の本領とする戦闘以外のみではなく、戦闘でもしっかり役に立っている。それは誇ってもいいと、私は思う」


 励まし、というよりは激励に近いだろうか? 添木は小清水さんの目を見てしっかりと話す。俺もそれに合わせて小清水さんに話しかける。


「小清水さん。今日は大分助かった。ありがとな」

「は、はいっ! こちらこそありがとうございます!」


 その返事には先程のような申し訳無さは混じっていなかった。……どうやらある程度の自信は取り戻したようだ。よかった。


「話し終わったみたいだね〜。それで、お昼どうする? どうせなら奢るよ?」

「いや、それはちょっと……悪いというか申し訳ないというか……」

「そ、そうです! 申し訳ないです!」


 奢ってくれるという提案は非常に魅力的だが、友達の親に意味もなく奢ってもらうのは流石に心苦しい。


「そんな事考えなくていいよ〜。人手不足で巻き込んじゃってるのはこっちなんだから。今日のお詫びも兼ねてさ」

「で、でも……」

「二人共、奢られて貰ってくれるかしら? あなた達を命の危険に晒したこと、パパは凄い気にしていたから」

「……」


 そう言われるとなんだか断るのも申し訳なくなってくる。警察という他人を守る職業の人が他人を危険に晒してしまった事をそのままにしたくはないのだろう。


「じゃあ……適当にそこら辺のファミレスとかでお願いしていいですか? あんまり高いとこっちも申し訳ないので」

「オッケー。それじゃ、もうお昼前だし、混む前にさっさと行っちゃおうか。お金はたくさんあるから好きなの頼んでいいからね〜」





「それじゃあ! 皆無事に返ってこれたことを祝して、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 全員分の料理が机に運ばれたのを見て、添木父が乾杯の音頭を取る。その乾杯の後、それぞれが運ばれた料理を食べ始める。俺の向かい側には添木、隣には小清水さんが座っている。しばらくして店員がやってきて、机に大量の料理が並べられる。


「……何? これ」


 その机に並べられた料理を見て、添木父は震えた声を上げる。タブレットで頼んだため、どれくらい頼まれていたのか分からなかったのだろう。ちなみに料理はすべて小清水さんが頼んだものだ。……いつもどれくらい食べてるんだ? そんな俺の疑問をよそに添木父は慌ててレシートを確認する。


「っ!」


 先程の戦闘でも余裕の態度を見せていた添木父の顔が、初めて青ざめる。


「嘘でしょ……ええ……」


 思わずと言ったふうに言葉が漏らされる。……どれだけの値段なのだろうか? 若干恐ろしくて聞くことも出来ない。その表情を見て察したのか……小清水さんがおどおどとした様子で添木父に話しかける。


「あ……あの……お金……大丈夫そうですか?」

「あ〜……う〜ん……大……う〜ん……」


 添木父は大丈夫と返事しようとするが、その言葉は途中で濁る。どうやら相当厳しいようだ。


「あ、あの……厳しかったら……普通に払いますので……」

「あ〜……うん。じゃあ、ここからここまでの分だけお願いしようかな……」

「は、はい……。なんかすみません……」

「格好悪い……」

「うぐっ!」


 消え入るような添木父の言葉と申し訳なさそうに謝る小清水さんを見た添木が呆れたように呟く。それは確実に添木父の心をえぐったようだった。



  



「そう言えば伏島君。食べる量で気になったんだけど、ナナシさんってご飯とかは食べなくていいの? 今あの人すごい静かだけど」


 皆特に話すような人では無いためか、とてもファミレスだとは思えないような静かな空気の中食事を取っていると、添木父がそんなことを聞いてきた。


「いや、特にはそういう必要性は無いと思いますよ。まだ二週間位しか一緒じゃないですけどご飯とかねだられたこと無いですし」

「ふ〜ん。そういうもんなんだね。食事量とかは増えたりしてない?」

「そういう事も特には。生活自体は殆ど変わっていません……どうかしたんですか?」


 何故か行われる質問責め。それを疑問に思い、添木父に問い返す。


「いや、魂の中に魂が入るなんて事態、他に事例が無いからね。なにか副作用があったら大変でしょ?」

「確かにそうですね……。大丈夫かな……」

「安心しろ。俺はスグルの魂の中に住んでいるだけだ。肉体に影響が与えられることはない」

「お、ナナシ。もう起きて大丈夫なのか? いつもなら疲れたとか言って戦った後は寝てるだろ」


 添木父の言葉を聞き、俺自身も不安になってくると、左手の感覚がなくなり、いつものようにナナシが生えてくる。


「ああ。スグルが不安に感じていたからな。俺のせいでそうなるのも悪いと思ってわざわざ起きてきた訳だ。それで……副作用の心配だが、気にしなくていい。今の俺はスグルの魂の中に住んでいる状態だ。そこから肉体の主導権を奪い、こんなふうに話している。要は、スグルの肉体をスグルが採った栄養で動かしているだけだから、食事量等も変わったりはしない。ま、こんなふうに俺が食べることも出来るけどな」

「おわっ! っと」


 言い終えると、ナナシは俺の左腕から分離し、俺の皿に近づいたかと思うと、そこに乗っていたハンバーグを一気に食べる。嘘だろ……。俺の昼飯が……。


「なかなか美味いな。で、このままスグルの腕に戻ると……」

「うっぷ……」


 ナナシに昼飯を食われたショックを引きずっていると、俺の体が一気に満腹感に襲われる。


「な? 俺が食った栄養はそのままスグルに渡される。肉体に関して俺が影響を与える事は無い。分かったか?」

「いや……分かったよ。分かったけどさぁ! 俺の昼飯勝手に食うなよ! 地味にハンバーグ久しぶりだったから楽しみにしてたのにさぁ!」

「……疲れた。眠る」

「あっ! ちょっ! おまっ! ……逃げやがったアイツ」


 左腕のナナシが消えていなくなるのを見て、思わず呆れ声。なんで俺の昼飯が食べられるんだ……! ……俺のだからだな。うん。他の人のが食べられるよりはマシだ。

 そんなふうに自分を心のなかで慰めようとしていると、添木父が話しかけてくる。


「伏島君。別に僕はなんとも思わないからさ、もう一回お昼頼んでもいいよ?」

「いえ……いいです……。ナナシが言ってたように腹はもう一杯なんで……。ハァ……」


 思わずため息が漏れる。いや、こんな事考えていても無いものは無いんだ。うだうだしてても仕方がない。そう思って、時間が余ってしまった俺は、スマホを取り出した。







 しばらくすると、添木父が食事を終え、席を立つ。


「じゃ、僕はちょっとやらなきゃいけないことがあるから帰るけど、三人はもう少しゆっくりしていいからね〜」

「あ、ありがとうございます」

「ご、ごちそうさまでした……」

「料金は理亜に渡しておいたから。それで払ってね〜」


 最後に挨拶をした後、添木父は財布からお金を添木に手渡して足早に帰っていった。ちなみに添木はというと……。


「あんな金額……ありえない……。え? ブラックホール? これがファンタジー?」


 と貰った金額に驚愕してか、呆然とした様子でブツブツと何かを呟いていた。






「そういえば……あなた、ミキーって分かる?」


 呆然とした様子から戻ってきた添木が突然、そんなことを聞いてくる。


「ん? パラサイトのか?」

「ええ」

「そりゃまぁ、一応知ってるけど」


 そう返事すると、添木は遠慮がちに言ってくる。


「その……気を悪くしたら申し訳ないのだけれど……さっきのナナシ、なんだかミキーみたいね」

「ミキーに? そうか?」

「ええ。ほら」


 添木はスマホを取り出し、何かを検索しているかと思ったらそれを俺に向けてくる。そこには右手をこちらに向けて突き出した青年が映っていた。その右手は爪が刃のように伸びており、目と口が一つずつ付いていた。

 ……言われてみれば似ている気がする。すると俺と一緒にそれを見ていた小清水さんが不思議そうにこちらに聞いてくる。


「これ、なんなんですか?」

「漫画原作の映画だよ。前に結構テレビでCMやってたぞ。ほら、人間に寄生して人間を食べる生物が右腕に寄生しちゃってそれでいろいろな事件に巻き込まれるって話。っていうか添木は知ってたんだな。結構グロいだろ。あれ」

「グロには大分耐性がある。話が面白ければ問題はない。ただ……」

「ただ?」

「見たのが小学生だから大分記憶があやふやになってる。久しぶりに見てみたいとも思ったのだけれど、私の登録してる動画配信サービスだと見ることが出来ないから諦めた」

「じゃ、家で見るか?」

「え?」


 聞くと、添木は不思議そうに目を丸くする。


「だって俺、あれ見たの一人暮らし始めてからだぞ。父さんが出張の時の暇潰すために色々登録してて大抵のアニメは見れるんだよ」

「いいの?」

「そりゃまぁ、別に減るもんじゃないし。最近学校もなくって基本暇だしな」

「なら是非!」


 突然舞い降りた好機に目をキラキラとさせながら身を乗り出す。相変わらず好きなことの話となると普段と打って変わってテンションが高くなるな……と思わず苦笑。


「オッケー。それじゃあ、いつにする?」

「早速今からでも! ……と言いたい所だけれど……突然お邪魔するのも悪いわね……。部屋の片付けとかしたいでしょう?」

「そう……だな」


 悠香がいつ来るか分からないから基本的に部屋はきれいな方だとは思うが、今日は先程の戦闘も相まってさっさと休みたい。


「まぁ、日を開ける理由も特にないし、明日でいいんじゃないか? 添木、予定は?」

「特に無いわね。そもそも、明日は本来学校があったから」

「それもそうだな。じゃあ、時間は……」

「あ、あの……」


 添木と二人で予定を話し合っていると、小清水さんが話に入り込んでくる。


「ん? どうした?」

「その……最近私、アニメに興味があって……ちょっと……見てみたいなって……。なので……私も伏島さんのお家に行っても……いいですか?」

「別にいいけど……大丈夫か? 結構グロいぞ?」

「た、多分大丈夫です……お父さんが見てた映画が……スブラッタホラー? ってジャンルだったんですけど……特に不快感とかは無かったので……」

「まぁ……それなら大丈夫か。それで、時間はどうする? 確かアレ、2クールだよな?」


 小清水さんも家に来ることが決定し、早速明日の予定を立てる。


「そのはず。2クールだとオープニング、エンディングを飛ばしたとしても一話約二十分。それが二十四話だから……四百八十分。だいたい八時間ね」

「じゃ、午前中から一気に見ちまうか。10時くらいに駅前集合でいいか?」

「ええ。問題ない」

「だ、大丈夫、です!」

「それじゃ、予定も決まったしもう帰るか。なんやかんやで疲れてるしな」

「そうね」





 添木父からお金を貰っていた添木に会計を任せた後、俺たちは店の前で軽く話す。


「それじゃ、明日の十時に駅前集合な」

「ええ。分かっているわ」

「あ、あの……な、なにか持っていった方がいいものってありますか?」

「ん? そうだな……」


 小清水さんに聞かれ、明日何をするかを考える。

 ……一日中俺の家で見るから……必要なのは昼飯くらいか?


「お昼は俺が適当に作っちゃうからその分の材料費用のお金くらいだな。そんなに高くはならないから安心してくれ」

「あ、ありがとうございます! すみません……お昼までご馳走してもらうなんて……」

「いいって、結局自分で昼飯作るなら大人数で作った方が一人分の値段は安くなるんだよ」

「そ、そうなんですね……ふわぁ〜ぁ。あっ、す、すみません!」


 思わずと言ったふうに突然、大きなあくび。それが小清水さんの口から放たれる。すぐさま、その謝罪がされる。


「疲れてるのか?」

「あ……はい。ちょっと……」

「……駅まで送ろうか?」

「じゃ、じゃあ、お願いします……」

「それじゃあ、私はこっちだから。また明日」

「ああ。また明日な」


 添木の家は駅とは反対なのか、俺たちとはここでお別れのようだ。歩いていった添木を見送った後、俺たちも帰路に着いた。





「小清水さんってアニメとかはどれくらい見たことあるんだ?」

「そ、それがほとんど……小さい頃に子供向けは見てたんですけど……。最近のはほとんど……。ただ、添木さんの話聞いてから興味が……」

「あ〜影響受けたのか」

「そうですね……。ふわぁ〜ぁ」


 再び大きなあくび。どうやら相当疲れているようだ。


「……悪いな。疲れさせちゃって」

「い、いえ……今日は助けて貰っちゃったので……気にしないでください……」

「そういう訳には……あっ」

「?」


 話しながら、俺は小清水さんの男が苦手なことを治すよう響也に無茶振りされたことを思い出す。せっかく二人きりなのだ。どうせだから少し動いてみよう。


「今日は小清水さんに大分助けてもらっただろ? 何かお礼は出来ないかなって」

「え……。そんな悪いです……守ってもらっただけでも十分……」

「そういうことなら俺なんて今日一日中小清水さんに助けてもらいっぱなしだ。小清水さんのフォローがなきゃ確実に死んでたし」

「そ、そんな事は……」


 遠慮しそうな小清水さんに無理矢理お願いをさせるために、少し強引に話を続ける。


「そんな事あるって。そんなわけで、何か考えてくださ〜い」

「で、でも……」

「ほら、早く早く」


 強引に話を続けたことが功を奏したのか、小清水さんは悩む素振りを見せる。


「……な、なら……」


 歩きながら、しばらくの間悩んでいた小清水さんが遠慮がちに口を開く。


「敬語、辞めてもいいですか?」


 それは、普通だったら当たり前のささやかな、だが、小清水さんにとってはとても大きいであろう願いだった。

人とは違う、確かな願い……。



次の投稿は4月18日の予定です。

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