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第十七話 発見

「いや〜。それにしても暇だな」

「そうですね〜」

「でもゲームすんのも飽きたよな」

「流石に一時間同じゲームやってるとダレますよね」

「な〜」


 ゲームを終えた後、俺はベッドに座ったままの先輩とぼ〜っと話す。


「そういえば添木に敬語やめろって言ってましたけど俺もタメ口のほうがいいですか?」

「あ〜、お前がしたいならタメでいいぞ。理亜はなんか無理してるっぽかったから普通に話すように言っただけだから別に無理してタメにする必要はねぇよ」

「そうですか。じゃ、このままで」


 年上の人に敬語タメ口ってなんとなく落ち着かないんだよな……。


「っていうかやっぱ病院は暇だな〜。急だったから本持ってくる余裕も無かったし。伏島、なんかねぇの?」

「なんかって……。俺も今絶賛暇を持て余しているところなんですけど……」

「だよな〜……。あ〜、理亜のお父さん来ねぇかな〜。今日だろ? 調査終わるみたいな話。カノン・リールズだっけか?」

「そうですけど……。そんな都合よく――」


 先輩がなんとも適当なことを言っているので笑い飛ばそうと思うと病室のドアがバッと開く。


「ハァ〜イ! 伏島君。こんにちは〜! カノン・リールズの調査が終わったから早速報告しに来たよ〜! って狩ノ上さんも居たのか。こんにちは〜」

「おう!」

「……」

「? どうかしたの?」


 嬉しそうに返事をする先輩と対照的に絶句する俺を見て添木父が不思議そうな顔をする。


「いや、ついさっき先輩が添木さんが来ないかって話をしてたんですよ。暇だからって」

「へぇ〜、不思議な事もあるもんだねぇ〜」


 病室に入りながら俺が絶句している理由を聞くと、添木父は感慨深そうに声をあげる。どうやらさほど興味は無いようだ。さっきの急所もそうだが運が良いというのもあながち間違いではないかもしれない。


「ま! そんなことは置いといて、早速報告と行きたいんだけど……ほら、小清水さんも。そんなところに隠れてないで」

「え?」


 そうして、添木父がドアの方を向いて手招きをすると小清水さんはおずおずと言った様子で部屋に入ってくる。


「ありゃ? コイツが小清水か?」

「あっ、はっ、ハイッ! はじめまして! 小清水彩音です! よ、よろしくおねがいします!」


 先輩が俺に向かって聞いてくると、小清水さんはわずかに怯えの混じった声で挨拶をする。どうやら先輩の乱雑な話し方で怖がらせてしまったようだ。そんな返事を受けた先輩は


「あ、あぁ〜そんなに緊張すんな。別に怒ったりはしねぇんだからよ」


 と困ったように眉根を寄せた。


「す、すみません……。気を使わせてしまって……。それに伏島さんもすみませんでした……」

「え? なんで俺にも?」


 ペコリと頭を下げられて困惑する。謝られるようなことは何もされてないんだが……。


「い、いえ! 今回私は何も出来なかったので……。本当にすみませんでした……。私も戦えたら、二人共怪我をしなかったかもしれないのに……」

「そういうのはナシにしようぜ。添木も言ってただろ。仲間なら助けるのは当然って」

「そうそう。組織の基本は適材適所! 確かに伏島君と狩ノ上さんは戦闘に長けてるけど、小清水さんだって何も出来ない訳じゃないでしょ? それに今回は小清水さんの能力が役に立つだろうし」


 添木父は励ますように明るい口調で話を続ける。今回? 報告があると言ってたけどそれと関係あるのか? 俺の疑問を代弁するように先輩が口を開く。


「それで? 報告ってなんなんだ? 例のカノン・リールズの調査は今日終わるって言ってたけど、やっぱりそのことか?」

「そうそう。例のカノン・リールズのメンバー、剣崎透と勝浦仁って名乗ってたって理亜から聞いたんだけど、ここら辺に住んでる人に同じ名前の人が居なかったんだよね。だから、理亜から二人の見た目の特徴を聞いてここ一週間のこの町一帯の監視カメラをしらみつぶしに見てみた」

「それで見つかったのか?」

「うん。一瞬だけどね。ほら、これ見て」


 添木父はそういうとポケットから写真を取り出す。そこにはつい四日前に戦った男たちが暗い路地裏を歩いている姿が映っていた。


「へぇ〜コイツが例のカノン・リールズか。なんか雰囲気があるな」

「な、なんか……堂々って感じ……ですね……」


 写真を覗き込んだ二人はそれぞれの感想を述べる。前に会ったときと違って何故か高級そうなスーツを着ている。


「これ、どこなんですか? 路地裏なのは分かるんですけど……」

「公園の近くだね。ほら、前の魂を奪われてた人が出たところの」

「あ〜あそこか……。他には無いんですか?」


 町一帯の監視カメラを見たなら他にもありそうなものだが……。


「それが無いんだよね〜。ここら辺は特によく探したんだけど全く見つからなかった。これも一瞬映ってるのを見つけただけだし……」

「そんな事出来んのか? 今の時代監視カメラなんてどこにでもあるだろ。そのどれにも映らずに移動なんて」

「いやぁ〜厳しいんじゃないかな? 仮にこいつらが監視カメラを意識してるとしても、最近は増えてるからね。監視カメラ。ほら、今年は伝承の年だから最近は市が街づくりに力入れてて防犯にも結構気を使ってるし」


 先輩が疑問を漏らすも、どうやらすでに同じことを考えていたらしい添木父はすぐに答えを返す。


「じゃあなんか心力使ってるのかもしれませんね。なんかカノン・リールズは合計六人の心力使いを抱えてるってナナシが言ってたし」

「お前なぁ〜そういう大事な事はさっさと言えよ。二人と六人じゃ三倍も違うじゃねぇか」


 思い出したように言うと、先輩が呆れたように俺に言ってくる。


「す、すみません。見た目は分からないのであんま言っても意味無いかなぁ〜って思って」

「まぁ、見た目が分からないなら教えてもらっても意味無いのは正しいからね。別にそこまで気にしなくていいよ。それよりも、一応の手がかりは見つかった訳だから、この監視カメラがある所の近くで聞き込みをしようと思ってね。今回はその協力をお願いしたいんだよね」

「まぁ……俺はいいですけど……それっていつですか?」


 一応入院中の身なので明日とかだと出来ないな……と考えながらそう聞く。


「ん〜そうだね……こういう情報は鮮度が肝心だからね〜。うん。明日かな」

「明日!? 俺今入院中ですよ!?」

「大丈夫、大丈夫。今の入院は倒れてたから一応って感じの入院なんでしょ? それも魂が傷ついたからで、実際にはなんの影響も無いでしょ? なら僕が今日中に退院出来るよう言っておくよ」


 添木父は楽観的な様子で手をヒラヒラと振る。そんな適当で大丈夫なのか?


「まぁ……それなら明日でいいんですけど。いつどこに集合ですか?」

「そうだね……。10時に公園で良い? 駅とかだと微妙に遠いし」

「分かりました」

「狩ノ上さんはどう? 明日問題無い?」


 俺が返事をすると、添木父は相変わらず俺のベッドに座っている先輩に話しかける。


「ああ。大丈夫だと思うけど……ちょっと待ってくれ……」


 先輩はスマホを開きながら返事をする。チラッとスマホの画面を見ると、四角に囲まれた数字が画面に並んでいる。どうやらカレンダーを見ているようだ。


「あっ」

「ん? なんか予定あった?」

「ああ。そういえば私明日模試だったわ」


 ケロリとした表情で答える先輩。


「逆になんでさっきまで忘れてたんですか……。勉強とかしなくて大丈夫なんですか?」

「別になんの問題もねぇよ。私こんなナリと口調だから勘違いされやすいけど普通に成績トップクラスだからな? いつもの勉強ペース乱れると逆に成績落ちるんだよ。第一志望もA判定だしな」

「へぇ〜。ちなみに第一志望どこなんですか?」

「帝工大だ」

「……」


 まさかの超有名大学だった。え? マジで? と思わず絶句。そんな俺を見て先輩はニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「どうだ? 驚いただろ?」

「そりゃ急にそんな事言われたらびっくりしますよ……」

「そうだろ? ま、そんなワケだから悪いけど私は明日は無理だ。ただ、模試休むのは普通にマズイから退院出来るならさせてくれると助かる」

「オッケー、オッケー。それじゃ、僕は色々と手続きしてくるから。明日の10時ね。じゃ、またあとで〜」

「は〜い」


 そう言って添木父は病室を出ていった。






「そういえば小清水さんは明日大丈夫なのか? 添木のお父さんに何も聞かれてなかったけど」

「は、はい。さっきこっちに来る間に色々話しておいたので……」

「へぇ〜……」

「……」

「……」


 小清水さんに話を振るも一瞬で会話が途切れてしまう。やっぱり悠香や狩ノ上先輩みたいに話を返して来ないのでどうしても会話が途切れてしまう。なんとなく気まずく感じていると、先輩が小さい声で話しかけてくる。その声には呆れが含まれている。


「いやお前へぇ〜って。そりゃ会話続かねぇわ……。もっと広がる返事しろよ」

「そんな簡単に言わないでくださいよ……。お互い趣味とかもよく知らないんですから」

「じゃあ今話せばいいじゃん。なぁ、小清水。お前なんか趣味あんのか」

「しゅ、趣味ですか?」


 急に話を振られた小清水さんはキョトンとした顔で首をかしげる。


「そうそう。あんまりお互いの事知らないだろ? せっかくの仲間なんだからちょっと位は知っておこうぜ?」

「そ、そうですか……。趣味……」


 先輩の話を聞き終わると、小清水さんは頭を悩ませるように押し黙る。


「ちなみに私はゲームだな。さっきも伏島と一緒にやってたし」

「そうですね。小清水さんはやったりしないの?」

「ゲームとかはあんまり……。一緒にやる人が居ないので……。あっ、お菓子はよく作ったりします!」

「へぇ〜、お菓子か。私そういうのからっきしだからな〜。どんなの作るんだ?」


 興味津々といった感じで先輩が話を続ける。


「そ、そうですね……。割と何でも作るんですけど……。簡単なのだとプリンとか、クッキーとか、他には気分次第ですけどガトーショコラとかロールケーキみたいな手の込んだものも……」

「はぁ〜結構本格的なんだな。伏島はそういうの作らねぇの?」

「お菓子づくりはしないですね……。料理は結構しますけど」

「そうなのか? なんか意外だな」

「ちっさい頃から結構一人なこと多かったんですよ。高校に入ってからは一人暮らしですし、結構慣れると楽しいですよ」

「ふ〜ん、なら今度作ってみよっかな。なんかおすすめのあるか?」


 どうやら興味が湧いたらしい先輩が聞いてくる。少し考えてから、


「餃子とかどうですか? 面倒ですけど結構楽しいですよ」


 と答える。実際、ストレスが溜まったときとかによく作るのだ。


「お〜餃子か。たしかに最近食ってねぇな〜」

「色々アレンジも出来るしおすすめですよ」

「おお。サンキューな」


 楽しみといったような表情と共に感謝を述べる先輩。どうやらお望みに叶ったようだ。


「っていうか小清水さんは料理するのか?」

「い、いえ……。お、お菓子は私が食べるだけなので気が楽なんですけど……料理ってなると家族の分も作らなきゃなんで……」

「あ〜分かる。他人に作るのって最初は結構緊張するよな。俺も昔はあんまり作りたくなかったし」

「は、はい……。なので、あんまり料理したりっていうのは……。すぐお腹が空いちゃうのいつでも作れるように練習はしたいと思っているんですけど……」


 そういえば小清水さん前も似たようなこと言ってたな。……この小さい体のどこにあんだけの食事が入るのだろうか? 身長も普通より小さいくらいだし……。


「おい、伏島」

「はい?」


 そんな考え事をしていると、先輩が声を掛けてくる。なんだか目つきが微妙に鋭い気がする。


「ジロジロ見すぎだ。小清水さん困ってんぞ?」

「えっ?」


 言われて顔を上に向ける。そこには緊張や困惑が混ざったような表情の小清水さんの表情があった。


「あっ! 悪い……! ちょっと考え事してて……」

「い、いえっ……! そ、その……き、緊張しちゃうので少し気遣ってくれると助かります……。はい……」

「あ、ああ……」


 せっかくいい感じに話が弾んでいたのに俺のせいでまた気まずい感じになってしまった。……馬鹿か俺は。と思わず自己嫌悪。


「そ、それよりも……聞きたいことがあるんですけど……」

「ん? なんだ?」


 空気が悪くなったのを気遣ってか、小清水さんがそう聞いてくる。


「そ、その……最近っていうか昨日、理亜ちゃんのお父さんに色々聞かれたときにびっくりしちゃって……その拍子に心力が勝手に出ちゃって……。前に言ったと思うんですけど、私の心力ってその人に触らないと発動しなかったんですけど、昨日は触らなくっても情報が読み取れて……。これってなんでなんでしょうか?」

「……つまり発動条件が変わったと?」

「は、はい……そんな感じです……」

「ん。ちょっと待っててくれ。そういう事ならナナシに聞いてみる」

「はい……」


 

(おい。ナナシ? 聞こえてるか? 質問があるんだ。ちょっと出てきてくれ)

(ん? ああ。分かった)


 返事が頭の中で聞こえると、そのまま左手の感覚が無くなり、そこから口が生える。


「それで? 質問ってなんだ?」

「なんか小清水さんの能力の発動条件が変わったぽい。理由とか分かるか?」

「……発動条件が変わったのってミチルに脅されたときか?」


 俺が聞くと、ナナシは少しの間をおいてから答える。


「ん? そうだけど……なんで知ってんだ? さっきの話聞いてたのか?」

「いや。聞いてないぞ。さっきまで寝てたからな。ただ、こういうのは予測がつくもんなんだ」

「予測?」


 そんな事出来るのかと思っているとそのままナナシは話を続ける。


「ああ。アヤネの心力の発動条件が変わったって話だったが、おそらく緩くなる方に変わったんだろう?」

「ん? そうだな」

「ならそれは心力の進化だ。心力は魂に宿るって話を前にスグルにはしたな?」

「あ〜。されたようなされてないような?」


 なんか心力を貰った初日にそんな話をした気がする。曖昧な返事をすると、ナナシは呆れたような声になる。


「……とにかく、心力ってのはそういうもんなんだ。心力は魂の中に宿り、魂は心力を内包する。つまりお互いに深い相関関係を持つってことだ。アヤネ。さっきミチルに脅されたって話をしたが、その時の感情はどういうものだった?」

「えっ? え〜っと……すごい怖かったです……」


 ただでさえ男が苦手なのに脅されたとなったらそうなるのも仕方がないな。そう思っている間にもナナシは話す。


「そう。今回の場合はその”怖い”という感情がきっかけとなったんだ。心力は魂の一部だ。怒り、憎しみ、喜び、恐怖。強い感情は魂を揺さぶり、心力を進化へと促す」

「へぇ〜っ。心力の進化か……。それってそんな簡単になるもんなのか?」

「いや、普通はこんな簡単にはならない。ただ、一度だけ進化が起きやすくなる期間がある。心力に名前をつけたときだ。名前をつけると、魂は無意識にでも心力のことを強く認識する。それもまた心力に強い影響を与える。たしかアヤネは先日の交流会でリアに心力の名前をつけられてたな? そしてそれを受け入れた」

「は、はい……」

「つまり心力の進化がしやすいときに強い感情で魂が揺さぶられた結果、心力が進化したってワケか……。私もなんか名前つけようかな……」


 ナナシの話を先輩が簡単にまとめてくれる。正直ちょっと助長だったのでありがたい。


「やめとけ。心力の進化が良いものとは限らない。効果が高くなる代わりに必要な魂の適正も多くなるんだ。下手に進化するとあの男みたいに暴走するぞ」

「おお……じゃあやめとくわ」

「そうしとけ。ま、スグルはそんなこと気にしなくていいからな、ガンガン進化させてってくれよ?」

「いや、んな無茶なこと言うなよ……」

「冗談だ。それじゃあな。俺は疲れたから寝る」


 そう言うと俺の左手に生えた口が消えた。コイツホントいつでも寝るな……。


「それで? 小清水さんの疑問は解決したか?」

「あ、はい! ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げる小清水さん。すると病室のドアが再び開き、添木父が入室してくる。


「お二人さ〜ん。退院の許可取ってきたから、もう帰っちゃって良いよ〜」

「あ、ありがとうございます」

「良いって良いって。もともとこっちが無理言ってるんだから」


 そう言って手をヒラヒラと振る添木父。もしそうだとしてもさっさと退院できるのはありがたい。


「んじゃ、私も帰る準備してくるわ。ちょっと待っててくれ」

「あっ、はい。わかりました」


 そして先輩は病室を出ていった。俺も昨日悠香が持ってきた袋に私物を入れ、帰る準備を始めた。

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