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第十四話 後始末



「ん……?」


 いつもと違うベッド、枕、寝間着、その他諸々の違和感を感じて目を覚ます。真っ暗な部屋では、起きたばかりの目にはなにも見えず、ただ寝返りをうつ衣擦れの音だけが耳に届く。


「痛った……」


 このまま寝ていてもしょうがないと思い起き上がろうとするも、胸に鈍い痛みが走る。同時に意識が覚醒する。そうだ……。学校が燃えて……原因の怨霊を倒して……そのまま……。

 とりあえず今がどういう状況かを調べるためになんとか立ち上がろうとすると、部屋の電気がつく。


「お、やっと起きましたか? 伏島優くん」

「うわっ!? イタタ……」


 するとベッドの横には見たことのない、黒いスーツを着た二十代くらいの男が座っていた。驚いて大きな声を出すと、再び鈍い痛みが走る。


「大丈夫ですか? あばらにヒビが入ってますので、あんまり大声は出さないほうがいいと思いますよ。それに、こんな時間ですしね」


 そう言って指をさされた先を見ると、時計は深夜の三時を指していた。


「……」

「ん? ああ、すいません。自己紹介がまだでした。僕は警察のものです。今回の事件に関していくつか聞きたいことが」

「は、はぁ……」


 何者かと警戒していると、男は丁寧な口調で自己紹介をしてくれる。警察か……どうしようか。心力のことを言っても面倒なことになる気しかしない。そんな風に考えていると、普段のように頭の中で声が響く。


(スグル。何としてでも隠し通せ。バレるといろいろ面倒だぞ)

(いや……。それはそうだろうけど、どうすればいいんだ?)

(普通に知らないとシラを切り通せ。そう言っておけば相手もそれ以上は追求してこないだろう。まさか超能力とは思ってないだろうしな)

(やっぱそうだよな……)


 頭の中でナナシと作戦を話し終えると、黙っている俺を見て不思議そうに警察が聞いてくる。


「大丈夫ですか? もうこんな時間なのでさっさと終わらせた方がいいと思うのですが……。あなたも一応は怪我人ですし……」

「そ、そうですね。それで? 聞きたいことってなんですか?」

「はい。では早速」


 そう言うと、警察は手帳を取り出す。


「今回の事件では、あなたの通う清水高校での火災の通報を受け、消防、救急が向かいましたが、現場に着いてみると、火災は全く発生していませんでした。それにも関わらず、学校にいた生徒、先生、総勢623人が意識不明の状態で倒れていました。

 もちろん、この中にはあなたと、その近くで倒れていた二人の生徒も含まれています。

 また、無事だった生徒は、購買にいた生徒と、火災に気づいてすぐ学校外に出た生徒だけです。ここまでで質問は?」

「……一ノ瀬悠香って名前の生徒はその倒れていた生徒に含まれていますか?」

「ん? ちょっと待ってね……。その子って何組?」

「1年G組です」

「1年G組 一ノ瀬悠香ちゃんね……」


 質問をすると、男はかばんから1枚の用紙を取り出し、目を凝らし始める。


「うん。安心してください。その子は倒れていた人のリストには乗ってないですよ。おそらく、火の手が上がっていたなかった購買にでもいたんでしょう」

「そうですか……。良かった……」


 俺はふぅ……と安堵のため息をつく。どうやら無事なようだ。


「続けても?」

「あ、はい」

「それでは、あなたに質問したいことに移るのですが、今回の事件の犯人に心あたりは?」

「い、いえ……特には」

「本当に? よーく思い出してください。今回の事件ではあなたとその近くにいた二人だけが怪我をしていました。しかも一人は体の至るところに刺し傷の跡があった。なにかしら知っているんじゃないですか?」


 男は疑うようにずいっと顔を近づけてくる。その赤色の瞳は何もかもを見通しているかのようで、若干うろたえる。


「い、いえ……本当になにも知らないです。その炎も俺は学校の入り口にいて、偶然燃やされなかっただけなので……」

「そうですか……。では、校舎の一部が破壊されていたことは?」

「そ、そっちもよく知らないですね……。なんせ、校庭に出てからの記憶がほとんど無いもので……」


 先輩とあの怨霊が校舎をぶっ壊していたことをすっかり忘れていた俺は、突然その話をされて、つい声がうわずる。


「そうですか……では最後に、あなたの右手から電気を放つ奴、アレがなんなのか教えて下さい」

「ッ……!」


 男はまるでなんでも無いことを聞くかのように、メモ帳を見ながら聞いてくる。心臓がドキリと跳ねる。なんでそのことをッ!? っていうかなら今までの問答は何だったんだよ! 心力のことが一般人、それも警察にバレたことで、俺は思考が狭まる。


(そいつを電撃で撃て! 一旦気絶させればその後俺の力でなんとでもなる!)

(あ、ああ! わ、分かった!)


 俺は言われるがままに電撃を溜め、指先から放つ。


「……ホントに出せるのか……。まぁ、こうすれば防げるけれども」

「なっ……!」


 放った電撃は男が目の前に差し出した鞄で簡単に防がれてしまう。なんでだ? 俺の電撃は高威力なため物を伝うことが出来る。魂の適性が高いからだ。たとえ鞄を持っていたとしてもそれを伝ってダメージをられるはずだ。


「おっ。不思議そうな顔してるね。電気を放ってくるヤツに手ぶらで挑むと思ったかい? 電気を通しにくいかばんで対策しておいたんだよっ!」

「――ッ!」


 先程とは打って変わって軽薄な口調で言うと同時に、男が右手の先に鞄を押し付け、そのままベッドに押し倒してくる。俺はそれに対抗しようとするも、ヒビの入ったあばらに再び痛みが走り、押し負ける。


「さぁ、教えてもらおうか。その電撃はなんだ? どうやって手に入れた?」

「そ、それを聞いて何になるんですかッ?」

「当たり前のことだ。今回の犯人や、君のように凶器を使わないで大きな危害を加えられる人間を警察として見逃すことは出来ない」

「グッ……!」


 返事を終えると、さらに鞄が押し込まれ、痛みが強くなる。


「どうなんだ? もし答えないようなら……」

「『心力模倣《重力操作》』」

「うっ!」


 警察の男が脅すようにこちらに詰め寄ってくると、ナナシが口をいつものように生やし、心力を使う。


「はぁ、はぁ、はぁ。イタタ……」

「大丈夫か?」

「ま、まぁな。でも出来れば最初から助けて欲しかったな……」

「多くの記憶を操作するとなると失敗する可能性が高くなる。出来ればお前が気絶させた後にコイツの記憶を消すことで成功率を高めたかったんだ」


 ナナシの言葉に納得する。そういうことなら仕方ない。


「それじゃ、さっさとコイツを気絶させてくれ」

「あ、ああ」


 俺は改めて立ち上がり、胸の痛みに耐えながら警察に向かって右手を放とうとする。


「ちょ、ちょっと待ったちょっと待った!」

「なんだ? 電撃を食らうことを心配しているなら安心しろ。一瞬痛むだけだ」

「違いますよ! そもそも僕は心力のことも、伏島君の電撃のことも知ってます!」

「何?」

「と、とりあえず、これを解除してくれませんか?」

「……しょうがないな。『心力模倣《光縄》』」

「うお!?」


 ナナシが他の心力を使うと、警察を光る縄が後ろ手に結ぶ。


「いいのか? そんな簡単に信じて」

「心力を知ってるなら話は別だ。もしかしたら心力による隠蔽がバレる可能性がある」

 

 そう言いながらナナシは警察の頭を掴み、無理やり椅子に座らせる。


「イタタ……もう少し丁寧に扱ってくれません? ハゲたらどうするんですか……?」

「知るか。勝手にハゲてろ」

「ひどいなぁ……」


 警察の男は椅子に座ると抗議をしてくる。


「そ、それで……? 心力のことを知ってるんならなんでこんな良く分からない脅しをしてきたんですか?」

「試したんだよ。協力してもらうのに値する人間かどうか。さっきも言ったけどその心力は社会に混乱をもたらす。2週間前に君が戦ったチンピラや、君が5日前に通報した意識不明の女性、カノン・リールズみたいな、組織で目的を持って犯罪を犯す奴らも居る」 

「……」


 そこまで知られていたのか……っていうか俺が関わってるの全部把握されてるじゃねぇか!


「もちろん、警察もそれを止めようと努力している。でも人外の力とあっては、いくら警察の力でも限界がある。今回のような奴とかは特にね。だから、君みたいな人には協力を求めるんだけど……その前にこうしてちゃんと任せられるかを確認するんだ。もし誰かに脅されたとしても安易に口外しないかとかね」

「な、なるほど……。それであんなことを……。でももう少し穏便に出来なかったんですか? めちゃくちゃ痛かったんですけど」


 思わず、痛かったところをさすっていると警察の人は済まなそうな表情で答える。


「いや〜、それは申し訳ない! もし協力者に口外されると警察の地位がまずいことになりかねないからね。手加減はできないんだよね。いや〜それにしても良かったよ。君が協力をお願いをするに値する人間で。これなら安心して娘を任せられる!」

「ん? 娘?」

「ああ、そういえば自己紹介が遅れていたね。僕は添木明(そえぎあきら)、君が協力関係の添木理亜の父親だよ」

「……」

「? どうかしたかい?」

「えええええええええ!!!」


 思わず大声をあげてしまい、胸に痛みが走る。それは今日一番の痛みだった。







 警察の人が添木の父親だと分かった後、俺は戦いの疲れからかぐっすりと眠ってしまい、起きたのは時計が午後五時を示したくらいだった。


「本っ当にごめんなさい!」

「……」


 本日二度目の起床をした直後、ベッドのすぐ隣にいた添木に頭を下げられる。俺はそれをベッドに座りながら聞く。……本日一回目に起きた時は添木父が居たが、二回目では添木本人が居るとは……。ちなみにその隣には添木父が立っていた。まさか添木の父が警察官だったとは……。


「えっと……状況が読み込めないんだが……、何に謝ってるんだ?」

「今朝のパパの行動をナナシから聞いた……というより文句を言われた。なんでもパパが大変なことをしたとか……」

「別にちょっと脅しただけじゃん〜。そもそも、ちゃんと条件に合うかどうか調べるのが規則なんだよ〜」

「パパは黙ってて!」

「はい……」


 怒り心頭という感じの添木に叱られる添木父。その姿からは父親の威厳のようなものが全く感じられない……。っていうかこの人何歳だ? 見た目は20代のように見えるけど添木のお父さんなんだよな……。


「パパは今年で46」

「え?」

「年齢。基本的に私と一緒に会うと年齢を聞かれるから……」

「ああ……。そりゃそうだろうな」


 実際俺も今疑問に思っていたし。


「いや〜、やっぱり若作りに関しては努力しているから、こうやって不思議そうな顔をされるのは嬉しいもんだねぇ〜」

「警察官なんだからもう少し舐められないような見た目になってもいいと思うんだけれど……」

「……」


 添木からの辛辣なダメ出しに添木父はそっぽを向いて気まずそうな顔をしている。……どうやらその自覚はあるようだ。


「っていうか添木の言うアテってこのことだったのな」

「そうね。あの日にパパに色々話しておいた。まさか、こうも簡単に信じてくれるとは思ってなかったけど……」

「例のカノン・リールズについてはまだ調査中だから少し待っててね。って、そんなことは置いといて、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

「ん? なんですか?」

「昨日の事件のことだね。警察には人外の力を持つ人たちを見分ける方法がある。君、そして君の直ぐ側で倒れていた金髪の女の子も人外の力を持っているって結果が出た」


 金髪の女の子、狩ノ上先輩のことだろう。


「……そういえば先輩ってどうなったんですか? その倒れていた人なんですけど……」

「ああ、それなら――」



「こっちは元気いっぱいだ。ちょっと怪我しちまったけどな」

「あっ、先輩。おはようございます。昨日はありがとうございました」


 病室のドアの方から声が聞こえる。その声の方を見ると、頭に包帯を巻き、俺と同じ病院服を着た先輩がドアに寄りかかっていた。


「おう、気にすんな。私も色々手伝って貰ったしな。で……添木親子はなんでここに居るんだ?」

「あれ? 先輩、二人と知り合いなんですか?」


 あたかも知り合いのように振る舞う先輩に疑問を浮かべる。


「ん? ああ。お前もやられたと思うんだが、私も脅されたからな。返り討ちにしてやったんだ。その時に知り合ってな」

「返り討ちって……何したんですか……」


 返り討ちという不穏な言葉が出てきたため、思わず聞いてしまう。すると添木父が答えてくれる。


「いや〜、あの子に身体能力のこと聞いたらまずいと思ったのかすごい勢いで僕を蹴っ飛ばしてねぇ〜。流石に怪我するかと思ったよ〜」

「私としてはコイツがなんでぶっ飛ばされたのにピンピンしてるのかが不思議でしょうがないんだけどな……」


 殺さねぇようにはしたけど……。と小さく先輩がつぶやく。


「まぁ、僕は鍛えてるからねぇ〜、アレくらいだったらなんとかなるもんだよ。人間の底力を舐めるな!ってね〜」

「……」


 添木父はヘラヘラと答える。先輩ってあの怨霊を校庭の端までぶっ飛ばしてたよな……。手加減したとはいえ怪我一つしてないのはおかしい気がする……。


「よくそんな咄嗟(とっさ)に行動出来ましたね……。俺、ナナシに言われないと行動出来なかったと思います」

「ただの勘だったんだが、ああした方が良い気がしてな。私は運が良い方だし、なんとかなると思ったんだよ」

「そんな適当な……」


 つい呆れた声をだしてしまう。勘で人吹っ飛ばせるか? 普通。


 まあ……今回はそれが正解だった訳だけど。


「そんな訳で、狩ノ上さんとはまだ会って一日も経ってないけど、知り合いって感じだね」

「そういう訳だ。それで? 結局二人は何しに来たんだ? 私は伏島の見舞いに来たんだが……」

「そうだ! だいぶ話が逸れちゃったね。で、聞きたいことに話を戻すんだけど、伏島君と狩ノ上さんはしっかりとその人外の力を持っているって結果が出た。だけれど、どうにもその反応がもうひとりの男子からは見られない。これに関して何か分かるかい?」

「う〜ん……そういうのはナナシに聞いたほうがいいですね。ちょっと待ってください」


 そう言ってナナシに話しかけようとすると――


「それはその男がその心力を失ったからだな」


 と俺の左手から口が生え、話し始めた。


「お、聞いてたのか。珍しいな」


 いつもは俺が呼ぶか、何か異常事態が発生しないと起きてこないのに。


「こっちも色々と調べていたんだ。アキラの言う人外の力の判別方法が分からないからなんとも言えないが、スグルの電撃を食らったんだ。おそらく怨霊をその身に宿すという能力自体が失われている。暴走することも無いだろう」

「そうですか。それが分かれば十分です。それじゃ、僕は署の方に戻りますんで。また何かあったら連絡してください。伏島くん。これ、僕の連絡先ね」


 そう言うと、俺の手には1枚のメモが握らされる。


「は、はぁ」

「それじゃあね〜。理亜も遅くとも9時くらいには帰ってくるんだよ〜」

「分かってる」


 そう言うと添木父はドアから出ていってしまった。なんだか騒がしい人だったな……。

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