第十一話 交流会 その2
ちょっと自分が忙しくなってきたので更新ペースが落ちるかもしれません。
「神より与えられし力、心力。その真名を!」
そんな言葉を満足げに言われ、悠香と小清水さんは困惑したような顔になる。
「あ、あの……添木先輩? それやる必要あります?」
「もちろん。ロード・ヴァルキュリアたるもの、超能力を得たならば、それに名前をつけるのは当然!」
「ロード・ヴァルキュリア?」
聞き慣れない単語が出てきた小清水さんは同時にその単語を繰り返す。そういえば話してなかったな……。そう思っていると、その反応を見た添木がこっちをジトリとした目で見てくる。
「……」
「なんでこっちを見るんだよ」
「なぜ組織のことを話していないの? 仲間ならあなたもロード・ヴァルキュリアの一員としてしっかりと説明しておくべき」
……そういえば昨日、俺も勝手にロード・ヴァルキュリアの一員にされているんだった。どうやら添木は俺が二人に何の説明もしていなかったことに問い詰めているらしい。
「え!? スグ兄も入ってんの? その……ロードなんとかってやつに」
驚いたように悠香が聞いてくる。その目つきはなんだかイタイ物を見るようだった。これを言ってるのは添木なのに俺がイタイ奴みたいに見られるのはなんだか納得がいかないので俺は慌てて否定する。
「入ってねぇよ!」
「え?」
俺の否定の言葉を聞いた瞬間、添木がショックを受けたような声を漏らす。
「え? ってお前……ろくに説明もしてないんだから入るも何も無いだろ」
「……ハッ!」
「いや、そこ忘れちゃ駄目だろ」
すっかり忘れていたというような反応をした添木に思わずツッコミを入れる。昨日会った時はしっかり者という印象だったが、意外とコイツその場のノリで話してるのな……。
「そ、それで……添木さんが言ってるロード・ヴァルキュリアって……け、結局なんなんですか?」
「簡単に言うと、正義を守るための組織。私が小学生の時に作られた。リーダーは私だけど、メンバーは私一人」
「いやそれ組織じゃねぇだろ、ただの個人だろ」
そんな悠香による容赦の無いツッコミが添木を襲う。
「お前容赦ないなぁ。俺も同じこと思ったけどそれを言うのはダメだろ……」
「あっ! すみません! 私、ついキツイ口調でツッコんじゃうんで……その、嫌だったら言ってください」
「事実なのだから気にしなくていい。そんな状態だったから、私はあなた達を組織に入れるつもりだった」
悠香のツッコミに気を悪くした様子もなく、添木は淡々と続ける。
「まぁ……俺は別に気にしないけど……二人は良いのか?」
「ん? 全然いいよ〜。むしろちょっと面白そう」
「わ、私も、伏島さんが信じている人なら、特に不満はありません……」
「じゃあいいか。それじゃあ、よろしくな、添木」
そう言って、俺は握手を求めて、手を差し出す。
「ええ。あと、分かっているとは思うけど……」
「なんだ?」
「ロード・ヴァルキュリアは正義の組織、もしあなた達が悪事に走るようならば、仲間だろうと私はあなた達を赦さない。必ず裁く」
真剣な眼差しでこちらを見据えられ、思わず苦笑する。意外と抜けていると思ったがここら辺はブレないんだな。
「ああ。覚えておく」
「ならいい」
その返事と同時に俺の手がしっかりと握られる。……その手が思っていたよりも華奢で思わずドキッとしてしまったのは言わないでおこう。悠香にイジられそうだ。
「……随分と話が逸れてしまったけれど、話を戻しましょう」
「ん? ああ、心力の名付けですよね? 添木先輩のはなんでしたっけ? さっき自分で言ってましたよね?」
「ええ。『ジ・アリエス』それが私の心力の名」
「へぇ〜。どんな能力なんですか?」
「悪いけれど、それは答えられない」
そういえば昨日も教えてくれなかったな。やっぱり何か理由があるのだろうか。そう思っている俺を代弁するように、悠香が質問を続ける。
「答えられない? それってなにか理由があるんですか? 弱点が丸分かりみたいな」
「別に弱点があるわけじゃない……。ただ、これは私の中で完結させるものだから。誰かに教える訳にはいかない」
「そういうことだったのか……。何が出来るかも話せないのか?」
「いや、それくらいなら……」
「じゃあ、そこだけでも教えてくれ。昨日はあいつ等の心力を止めたりして俺とナナシを助けてくれたよな。ありがとうな」
あれが無かったら俺とナナシはきっと負けていただろう。本当に助かった。
「気にしないで、仲間なら助けるのは当然。それで、私が出来ることだけれど……はっきりとしたことは言えない。条件が揃えば昨日みたいに心力を止めたり、動き自体も止めることが出来るけれど、それ以外にも色々出来ると思う」
「昨日の感じだと射程距離とかもない感じか?」
「そうね。基本的に私の視界に入っていれば発動は出来ると思う。……これくらいで良いかしら? 私の心力の能力については」
「ああ、ありがとう。十分だ。それで、名付けはどうするんだ?」
添木の話が終わり、早速添木が先程からやろうとしている名付けについて聞いてみる。
「別にあなた達に考えてもらって良いのだけれど……もし決められないのなら私が考える。例えばあなたの電撃だと……『トールの憤激』とか?」
「……な、なるほど。まぁ、俺の心力はナナシが使う時にそのまま電撃って名前つけてるから新しく考える必要もないんだけどな」
添木の名付けに若干のむず痒さを背中に感じながら、俺はそれとなく添木の提案を断る。
「そう。でも電撃もシンプルでいいと思う」
「そ、そうか? あ、ありがとうな」
本当にそう思っているのか、はたまたお世辞なのかわからないが、褒めてくれたらしいので感謝の言葉だけは返しておく。
「どういたしまして。それで、二人はどうするの?」
「……え、え〜っと、私も特にいい考えが思いつかないんで、先輩にお願いしてもいいですか?」
「わ、私も、そういうのはあまり得意では無いので……そ、添木さんに考えてもらってもいいですか?」
「任せて! 絶対にいいものを考えてみせる!」
俺の心力の名前が電撃のままになることが決まったあと、添木の興味は二人の心力の名付けに向く。一応名付けは二人に任せると言ってはいるものの、二人に任されたあとの声色から、名付けをしたいって気持ちはバレバレだった。悠香も若干引いている。そんなに名付けがしたかったなら、最初からやるって言えばいいのに……。
「さて、名前を決めるなら能力を知る必要があるわね! まずは悠香! あなたの能力を教えて!」
「あっ、ハイ。私の心力は物の時間を巻き戻すことが出来ます。条件は戻したい物に触ることです。え〜っとこんな感じですね」
そう言って悠香は先程いちごパフェと一緒に頼んだ、ジンジャーエールのコップに触れる。すると、ほとんど溶けかかっていた氷が元の大きさへと戻っていく。それを見た添木は――
「なるほど……。時間を巻き戻す能力、時の権能……」
とブツブツと何かをつぶやいている。思考を邪魔しないように黙っていると……
「決まったわ! あなたの心力は『クロノスの片腕』でどうかしら!?」
「わ、わぁ〜! あ、ありがとうございます! とってもいい名前だと思います……」
そう答える悠香の顔は少し引きつっていた。声もかなり棒読みだ。
(お前さぁ……。もうちょい上手く返せなかったの? かな〜り不自然だったぞ?)
(しょうがないじゃん! あんな名前つけられたら背中がむず痒くなるもん! スグ兄もさっき名前つけられた時そうならなかったの!?)
(いやなったけどさあ! もう少し自然に返せなかったのか!?)
俺は添木に聞こえないよう、小さな声で悠香と口論する。すると――
「悠香」
「ひゃ、ひゃい!」
突然、悠香は添木に名前を呼ばれる。慌てて返事をしたからか、その声は裏返っている。
「無理はしなくていいから」
「は、はい……。ありがとうございます……」
どうやら添木なりに気を使っているようだった。悠香もホッとした表情をしている。それから、添木は小清水さんの方に顔を向ける。
「それじゃあ、次は小清水さんの番ね。あなたはどんな能力なの?」
「は、はい! 私は、他人の魂の情報が読み取れます! 感情とか、記憶とか他にも色々……」
「なるほど……。魂を読み取る……。他人の知恵も自身のものとする能力……」
話を聞くと、添木は悠香の能力を聞いたときと同じようにブツブツとつぶやく。先程と同じように小清水さんの心力の名前を考えているのだろう。
「……」
「ど、どうですか?」
先程よりも長い時間の沈黙に不安を感じたのか小清水さんが添木に尋ねる。
「ええ。決まったわ。あなたの心力、その名は『ソウルナブー』よ」
「……」
「? な、なにか気分を害してしまったかしら? もしそうなら謝罪を――」
添木のつけた名前を聞くと、小清水さんは黙ってしまう。それを見て不安そうな声と表情になる添木。
「あ、ありがとうございます! こんな素敵な名前を頂いて……なんとお礼を言えばいいのか……。その……とっても嬉しいです!」
しかし、そんな添木の不安とはよそに、小清水さんは本当に嬉しそうに感謝の念を述べる。その声は悠香のように気を使っているようにはとても思えない。……え? 気に入ったの? 今の名前を? ホントに?
「……そう。気に入ってもらえたのなら良かった。そんなに喜んでもらえると考えた身としても嬉しい!」
そう返事をする添木の声は冷静そうに努めてはいるものの言葉の端々から理解されて嬉しいという感情が溢れ出ている。
「はい! こういうの初めてなんですが……とても気に入りました! こう……何かワクワクするというか……」
「分かってくれるのね!? このロマンが!」
「はい!」
「「……」」
何故かすっかり意気投合したような小清水さんと添木を黙って見ている俺と悠香。……どうやら小清水さんと添木は波長がよく合う者同士だったらしい。
「なんか一瞬で仲良くなっちゃったね。あの二人」
「な」
まあ、喧嘩されたりして雰囲気が悪くなるくらいなら仲良くなってくれる方がいいのだが……。そう思い二人を見ると、固く握手を交わしていた。
「そ、それで? 添木、これからどうするんだ? え〜っと……ロード・ヴァルキュリアとしては」
「ッ! そ、そうね! とりあえず、昨日の二人が居る組織、カノン・リールズを打ち倒す!」
二人に握手をさせたままでは話が進まないので添木に質問をして話を進める。すると、悠香が申し訳無さそうに手を挙げる。
「あ、あの……また知らない言葉が出てきたんですけど……。そのカノン・リールズってなんですか?」
「昨日私達が敵対した組織よ。なんでも、心力を自由に使える世界を作りたいだとか」
「気をつけろよ。他人に危害を加える心力でも使う分には問題ないって考えてる連中だ。協力を断った瞬間殺すために攻撃してくるぞ」
「うわっ。完ッ全にヤバい奴らじゃん。本当に気をつけなきゃ」
ジンジャーエールを最後まで飲み切りながら呑気にそうつぶやく悠香。……コイツ本当に気をつける気があるのか?
「それで? アイツ等を倒すって言っても、具体的には何をするんだ? 居場所とかも特に分からないし」
「アテがある。多分3日位あれば分かると思うから少し待っていて欲しい」
「ん? アテ?」
「そう。詳しくはまだ話せないけれど……。多分アイツ等の居場所もすぐに分かる」
「オッケー。それじゃあ……もう話すことは無いか?」
伝え忘れていることが無いかを考えながら三人に聞く。
「ん。大丈夫で〜す」
「私も特には」
「わ、私も……もともと悠香ちゃんと添木さんに会うために来たので……」
三人それぞれに返事が返ってくる。
「よし! それじゃあいい時間だし、解散にするか」
「は〜い。じゃあスグ兄お会計よろしく〜」
「待て」
俺が解散しようといい出した瞬間悠香が立ち上がり、店から出ていこうとする。
「何さ。早く出ちゃいたいんだけど」
「ジンジャーエール代とパフェ代。しっかり置いてけ」
「……じゃあね〜」
「オイ待て!」
「バイバ〜イ。また明日〜」
アイツ……無視して出て行きやがった……。
「あ、あの! 私達はちゃんとお金払いますので!」
「もちろん私も。はい。会計は任せてもいいかしら?」
「ああ。それくらいは」
その後、会計を済ませ、店を出る。そこには小清水さんと添木と帰ったはずの悠香が居た。
「ありがと〜。はい、これ私の分ね」
「……」
「ちょっと、ちゃんとお金は払ったでしょ! なんでそんなゴミを見る目でこっちを見るのさ!」
「ハァー……本ッ当、お前の相手は疲れる! 結局払うなら最初から払えばいいだろうがよ!」
「そこはさぁ〜? 幼馴染間でのコミュニケーションでしょう〜? 楽しく会話しましょうよ〜」
ウザったい声で悠香が話してくる。
「……それじゃあ、私はこっちだから」
「わ、私もこっちなので……。あ、あの、また明日!」
「あ、ああ。また明日な」
そう言うと二人は俺たちと反対の方向へと歩いていった。
「小清水さん。LINEはやっている? やってるなら連絡先を交換しましょう!」
「は、はい! ありがとうございます!」
なんて楽しそうに会話をしながら。ほんと仲良くなったな……あの二人。
「それじゃあ、私達も帰るとしますか」
「そうだな」
「いや〜それにしても、大変なことになったねぇ〜」
俺の家に帰る途中、夕日が俺たちを照らす中、悠香がそんなことを感慨深そうにつぶやく。どうやら帰るというのは俺の家にということだったらしい。
「……一応言っておくけど、無理だけはするなよ。辞めたくなったらすぐに言え」
「お? なんだぁ〜私のこと心配してくれてるのか〜?」
「当たり前だろ。俺はお前のことを一番大事に思ってるからな!」
からかうように言われるが、俺はそれをはっきりと認める。さっき小清水さんのおかげでバレてるからな。変にごまかす必要も無いだろう。……流石に少し恥ずかしいけどな。
「お、おう……。なんかそんなにはっきり言われるとこっちが恥ずかしいな……」
「そもそも、俺がナナシに協力することを決めたのはお前が死にかけたからだ。お前に自覚は無いだろうけどな」
「まあ、そうですね……。自覚もなにも記憶が無いので危機感とか何もありませんね。はい」
そうだろうとは思っていた。色々適当なところがあるからなぁ……コイツ。
「ま、要はあれだ。困ったらすぐに相談しろよ。俺がナナシと一緒に色々やってるからって気にするな。無理にお前まで巻き込みたいわけじゃないからな」
「ん。分かった。その……ありがとね? 気ぃ使ってくれて」
そう感謝を伝える悠香の声は珍しくしおらしい。どうやら照れているらしい。
「当たり前だろ。お前はクソ生意気だし、図々しいし、面倒だと思うこともあるけど……俺の大事な大事な幼馴染だからな。遠慮とかするなよ」
「……うん!」
俺の言葉に、悠香は嬉しそうに笑う。その頬は夕日に照らされてか、赤く染まっていた。