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第十話 交流会

すみません。遅くなりました

 エントレスに入るためにドアを開けると上にある鈴がチリンと鳴り、俺たちが店に入った事を知らせる。


 そこまで広くない店の左手にはカウンター右手にはテーブル席がある。店の内装は決して派手とは言えないが寂しいものではなく、落ち着いた雰囲気を出している。


 既に店の中にいるはずの小清水さんを見つけると、店員に



「いらっしゃいませ。二名様でしょうか?」



 と尋ねられたので先客が居ると伝え、そのまま小清水さんの方に向かっていく。席の前に着くと小清水さんは驚いたように顔をあげる。


 その小清水さんの席の前にはスパゲッティが置いてある。どうやら食事中だったようだ。



「あっ! 伏島さん! こ、こんにちは! えっと……そちらはもしかして……」


「そう。新しい心力使いで、俺の幼馴染。まあ……小清水さんは色々知ってると思うけど……。それよりこっち座っていいか?」


「は、はい! どうぞ……座ってください」


「はじめまして〜。一ノ瀬悠香です。気軽に悠香って呼んでください!」



 悠香は店に入る前の騒がしい態度とは打って変わって、猫をかぶっているときのおっとりとした口調で話す。



「は……はじめまして。えっと……小清水彩音です……。こちらこそよろしくおねがいします……。それと……別に私のことは気にしなくて良いので……いつも通りに伏島君と話しちゃってください」



 と緊張した面持ちで挨拶をする小清水さん。するとそれを聞いた悠香は少しだけ動揺を顔に出したが、



「な、なんのことですか? べ、別に遠慮なんてしてませんよ〜」



 と、なんでも無いような返事をする。しかし、心なしかその声が引きつっている。



「あ、小清水さんはお前が人前だと猫かぶってるって知ってるから隠しても無駄だぞ」


「え? 本当……ですか?」


「あっ、はい。私は本当になんとも思わないのでいつもどおりにしてください!」



 小清水さんはニッコリと笑い、悠香の質問に返事をする。対して悠香はというと顔を少し赤らめた後……



「ちょっとスグ兄!? 何変なこと人に話してんの!?」



 と俺の襟首を掴みながら大声で問い詰めてくる。どうやら俺が小清水さんに話したと思っているらしい。……完全に濡れ衣だ。



「声がデカイぞ。もう少し静かに話せ。それに俺が話した訳じゃない」


「嘘をつくな! タネはもう上がってんだ! 観念しておとなしく吐きやがれ!」



 悠香は刑事モノのドラマのようなふざけた口調で聞いてくる。



「嘘じゃねえよ! 小清水さんの心力の練習中に俺の記憶を見せただけだ!」


「あ〜なるほど。小清水さんの心力でスグ兄の記憶が読まれたと……って結局お前から漏れてんじゃねぇかよう!」


「あ、そ、そのなんかすいません……。勝手に伏島さんの記憶で悠香ちゃんを見てしまって……」



 そんないつも通りの口論をしていると小清水さんが申し訳無さそうに謝ってきた。



「え? ああ……別に先輩は謝らなくても良いですよ。悪いのはこのバカなんで。逆になんかすいません……変な気を使わせちゃって」


「いつも悠香との会話はこんな感じだから。別に本当に喧嘩してる訳じゃないから心配しなくて良いぞ」


「は、はい……。分かりました……。それで……今日はこれから何を?」


「昨日色々あったんだよ。あと一人来るはずなんだけど……」


「あっ。そうなんですか? てっきり悠香ちゃんだけかと……」



 小清水さんが驚いたように言った後、俺は携帯で添木に後どれくらいでエントレスに着くのか聞いてみる。するとすぐに『もう着く』と短い文で返ってくる。


 相変わらず素っ気ないな……。



「もう着くってさ」


「あ、そうなんですね。どんな人なんですか?」


「ん? どんな人? え〜っと……多分俺たちと同い年くらいかな。いいヤツだとは思うんだが……ちょっと変なやつだな」


「変?」



 俺が小清水さんの疑問に答えると、悠香が頭に疑問符を浮かべる。既に完全に素に戻ってるな。



「ああ。その……なんていうか……厨二病? なんだ。多分」


「厨二病? あの我が右手が疼く〜、とか開放されし右目が〜みたいな奴?」



 口ごもりながら答えると、悠香がアニメでよく見るような厨二病キャラの真似をする。



「そんなに典型的なやつじゃないけどな。まあ、さっきも言ったけど普通にいいヤツ? ではあるからそこまで気にしなくても良いと思うぞ」



 実際、悪いやつでは無いのだろう。悪を裁くとか言ってたし。単純に正義感に引っ張られているのだろう。



「ふ〜ん。まぁいいや。それより、何食べようかな〜。先輩はそれ、パスタですよね? お昼まだだったんですか?」


「い、いえ……。一応家で食べてきたんですけど……美味しそうだったんでつい……」


「ふぅ〜ん……え? ニ食目なの!?」



 小清水さんの発言に思わず声を上げてしまう。え? あれ結構量あるぞ? 俺でも一つ食ったら満足しそうな量なのに……。



「は、はい……。私、食べるのは好きなので……」


「あ〜そうなの。へぇ〜食べるのが好き……」



 それでもその食欲はすごいと思うけどな……。俺がそんなことを思っていると悠香が



「ま、まあ、それはおいておいて、私は何にしよっかな〜」


「何があるんだ?」


「デザートはここらへんだね〜。ん〜〜ケーキにアイス、あっパフェとかもある」



 悠香が楽しそうにメニューを見ていると――



「デザートならパフェがおすすめ」


「えっ?」



 突然後ろから話しかけられる。そこには昨日と同じ服を着た添木が立っていた。



「おう、添木。ありがとうな。来てくれて」


「別にいい。あなたの協力者なら会わないわけにもいかない。それにしても……まさかここを知ってるとは思わなかった」


「ん? 来たことあるのか?」


「……知ってるもなにも、私はここの常連。放課後によく来てる」



 添木は、はぁ……とため息をつきながら俺の質問に答える。



「へぇ〜。世間は狭いって言うがまさかこんなところで……今までに会ったことあるかな……」



 俺はまだここに来るようになってから日が浅いが一人暮らしなのでかなりの頻度でここに来ている。同じ時間にこの店に来ていても不思議はない。



「多分だけれど無いわね。この服に見覚えは無いのでしょう? 私は外に出る時はたいていこの目立つ服だから」


「そうだな」



 添木の服は普通の服とはかなり違う。なんていうか……人形に着せるような服だ。確かにこんな服を着ている人はこのカフェでは見た覚えがない。



「それより、その二人があなたが昨日言ってた仲間達?」


「は、はじめまして! 小清水彩音です! 清水(きよみず)高校の2年C組で伏島さんとはクラスメイトです!」


「こんにちは〜スグ兄の幼馴染の一ノ瀬悠香です。同じく清水高校の1年G組です」



 添木が聞くと、二人が自己紹介を始める。二人の自己紹介を聞いた後、添木も自己紹介を始めた。



「はじめまして、私は添木理亜。……あなた達と同じ、清水学園の2年よ。もっとも、クラスは違うけれど」


「あっ。そーなの。てっきり別の学校かと……。何組なんだ?」



 なんせ昨日は学校が終わってすぐだったのにあの服に着替えていたからな。俺たちの学校より終わるのが早い学校に通っているのかと思った。



「Bよ。隣、良い?」


「あっ……はい……大丈夫です……。どうぞ」



 添木は俺の質問に答えながら小清水さんの隣の席に腰を落とす。声をかけられた小清水さんはどこかよそよそしい。小清水さん、男だけじゃなくて女でも人見知りを起こすんだな。



「それでは早速本題に――」


「あっ! ストップ! ちょっと待って下さい! 私、まだ何も頼んでないので!」



 小清水さんの態度をよそに添木が話を始めようとすると、自己紹介以降ずっとメニューとにらめっこしていた悠香が声を上げる。



「話を止めるなよ……。せっかく話始めようって雰囲気になったんだから」


「しょうがないでしょ! 今まで頼むタイミング無かったんだから!」


「……別に問題無い。というか、私もなにか頼んだ方が良いわね。お店に入ったのに何も頼まないのは失礼」


「ほら! 添木先輩もこう言ってるんだから! さっさと頼んじゃおうよ。私はこのいちごパフェ食べたい!」



 悠香は添木から賛同を得ると、俺の方にメニューを向けて、添木がおすすめしていたパフェを指差す。その目には期待が籠もっている。



「……何」


「奢って!」


「なんでだよ! 先週も奢ったばっかだろ!」


「今週は奢ってないじゃん!」


「まずその週イチで奢らなきゃいけないっていう前提がおかしい! とにかく、今日は絶対に奢らん!」


「……話は終わった?」



 俺と悠香がいつものように口喧嘩をしていると添木が呆れたような顔で俺たちに聞いてくる。悠香が呆れられるのは分かるが俺まで呆れられるのは納得がいかない。



「あ、ああ。もう大丈夫だ。悪いな。待たせちまって」


「別にそこまで待ってないから良いけれど……」


「ちぇ〜っ。スグ兄のケチ」





 店員に注文を済まし、それぞれの商品が机に並んだところで添木が口を開く。



「それじゃあ、本題に入りましょう」


「ああ、そうだな」


「では、まずは私から。昨日あなたが言っていた心力というのは、あの白犬神伝承のものでいいの?」


「え? そこから?」



 添木が本題と称してそんな質問をしてくる。てっきりその辺りは理解していると思っていた。



「そうね。私はこの力をずっとただの超能力のようなものだと考えていたから。心力なんて考えもしなかった。ただ、私はこの力について正しく知る必要がある。特に、私のジ・アリエスは」


「へぇ〜。じゃあ昨日のあれは? あのときは心力について知らなかったんだよな?」



 カノン・リールズとの問答の時に添木は心力の話をしていても特に困惑した様子を見せなかった。あれはどういうことだったんだろうか?



「あれはハッタリ。あいつらに情報面で負けていると思われたく無かったから。知っているフリをしていただけ」


「ああ……。そういう」



 俺は納得して添木に説明を始めた。





「200年前の伝承のの生き残り、そして暴走する心力使いを止める! 燃える展開ね!」


「うわぁ……なんか急にテンション上がったな。この先輩」


「な」



 説明を終えると添木が先程までの冷静な態度から打って変わって興奮したように声を上げる。悠香も俺と同じように困惑している。



「こんな展開、盛り上がらない方が失礼! あなたの味方をしてよかった! ありがとう!」


「お、おう……どういたしまして?」



 なんだかよくわからない感謝をされてしまった……。



「それで? その200年前の儀式の生き残り、ナナシは今起きれるの?」


「あ、ああ。多分起きれると思うけど……」


「早く起こして!」


「は、はい……」


「うわぁ……珍しくスグ兄が押されてる……。なんか新鮮」



 添木がグイグイと俺に聞いて来るのを見て悠香が珍しげな顔をしている。そんな悠香を無視して、俺はナナシに話しかける。



(おい、ナナシ。呼ばれてるぞ。起きろ)


(ん? もうそんな時間か。それじゃあお前の左手を借りるぞ)


(ああ)



 すると俺の左手がダランと力なく机の上に落ち、手の平に口が生える。



「うひゃあ! え!? 何何何? え? 口? 気持ち悪っ!」


「おお……」


「気持ち悪いとは聞き捨てならないな。眼球が出てこないだけマシだと思え」


「あ、はい。なんかすみません」



 口が生えたのを見た悠香の反応にナナシが少し苛立つような声を上げる。対して添木は目を見開いて固まっている。こいつ、意外と感情豊かだな。



「はじめましてだな。ユウカ、リア。俺はナナシだ。ユウカは既にスグルから聞いていると思うが――」


「す、すごい……! 本当に口が生えている! 彼の手から離れることは出来るの? 手の形を変えたりは?」



 ナナシが話し始めたと思うと、それを遮って添木が目をキラキラとさせながら、質問を始める。



「……おい、スグル。こいつ今までこんなだったか? 俺の印象だと冷静な印象が強かったんだが……」


「俺も昨日まではそうだったんだが……」


「こんな状況で冷静になれるわけが無い!」


「……だそうだ」



 俺は若干呆れた声でナナシに伝える。なんか……あれだな。結構固いイメージがあったけどこれ見るとそのイメージも無くなるな。



「まあ……いい。それで、二人は協力してくれるのか?」


「もちろん! ぜひとも協力させてもらうわ!」


「あ、私も協力させて頂きます……。よろしくお願いしま〜す」



 ナナシの質問に添木と悠香がそれぞれ返事をする。悠香は添木の勢いに若干押されつつだったが。



「よし。オッケーだ。それじゃリア、これを持っとけ」



 そう言うとナナシは一昨日小清水さんにもあげた小さな宝石のようなものを投げる。



「これは?」


「俺の魂の一部だ。それががあればお前に何かあったときに俺が感知出来る」


「なるほど……。まさかこれで私もあなたの心力を使えるように!?」


「ならないな」


「むぅ……」



 添木はナナシに即答されて残念そうに声を漏らす。すると悠香が



「あれ? それ私にはくれないの?」



 と不思議そうに聞いてくる。



「ん? お前には先週倒れてた時に渡してある。ナナシとの約束でお前は守るって話になってるからな」


「何? 知らない間にそんなことやってたの?」


「そうだ。スグルは俺に協力する代わりに、俺はスグルの大切な人を守るって言う契約をしたんだ。その対象の中にユウカ、お前が居る」


「ちょっ、おまっ!」



 俺はナナシの言葉を聞いて慌てて声を上げる。ヤバい! こんなこと悠香が聞いたら……!



「お〜う? なんだ〜? スグ兄? 私のこと大切なのか〜?」


「……うるせぇ」


「あ〜? 照れるなよ〜? 私のことが大切なんでしょ?」



 悠香が嬉しそうに俺に話しかけてくる。やっぱり調子に乗りやがった……。めちゃくちゃウザい。



「い、いや? 全く照れてないんだが? 何バカなこと言ってんだ?」


「は〜? バカって言いました? 今バカって言いました?」


「ふふっ。けど伏島さん、口ではそう言っても実際すごい悠香ちゃんのこと大切に思ってますよね。一昨日も悠香ちゃんのことを一番大事な存在って思ってましたし」


「小清水さんっ!?」



 先程まで気を使ってか静かにしていた小清水さんが口を開きそう言い出す。なんで今の状況でそれを言った!?



「やっぱりスグ兄照れてんじゃねぇかよう! しかも一番大事な存在って……うわぁ〜! 恥ずかしいっ!」


「……なんか悪かったな。スグル。……もう戻っていいか?」



 ナナシは申し訳無さそうに声を沈ませながら俺に言う。



「ハァ……。別に良いけどさ……。またなんかあったら呼んでくれ」



 俺はついため息を吐きながらナナシにそう返事する。



「分かった。それじゃあな」


「あっ……」



 俺の手の平から口が消え、感覚が俺の元に戻ってくる。その時、添木が少し残念そうな声を漏らす。



「ん? なんかあったか? 添木」


「いや、最初の質問に答えてもらえなかったと思っただけ……。ただの好奇心だから別にそこまで重要なことでもない。それよりも、これから何かするの?」


「別に決まってないけど……なんだ? これから予定でもあんのか?」


「違う。そこの二人も時間はある?」



 添木は隣に居る小清水さんと目の前に居る悠香にそう尋ねる。



「あっ! だ、大丈夫です! 今日は一日中暇なので! 私のことは気にしないでください!」


「私も大丈夫ですよ。今日はスグ兄の家に行くって親に言ってるんで」


「そう。なら、決めましょう!」


「……何を?」



 添木がなぜだかナナシを見た時と同じテンションに戻る。



「神より与えられし力、心力。その真名を!」

交流会は続く……。

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